第42話 混沌
第42話
アンダルフの話を聞き、広場の空気が凍りついた。
誰も、言葉を発せない。
――自分たちは、人の手によって創り出されたデータであるということ。
信じたくはない。
だが、否定もできない。
生前の記憶だけじゃない。
いつ、どこで得たのか分からない教養や知識、そしてこの世界の不自然さ。
何より、ときおり視界に映し出される『アナウンス』
おかしいのに、誰も疑問に思わなかった。
「……ふざけるな」
低い声。
だが、押し殺しきれていない。
声の主は、レンだった。
その声に、全員の視線が集まる。
レンは俯いたまま、肩を震わせていた。
「お前が……ガルガンの……!!」
言い切る前に。
レンの足元で、空気が歪む。
次の瞬間。
レンが消えた。
全ての銃口から放たれるエネルギーを推進力へと変えた爆発的な踏み込み。
一瞬で、アンダルフの目前へ。
その疾さのまま、拳が振り抜かれる。
「やめろ!!」
キーパーが叫び、間に入る。
衝撃。
鈍い音が響き、キーパーの腕が軋む。
レンの拳からも、血が溢れ出す。
「落ち着け、レン!!」
「キーパー!どけ!!」
レンの力がさらに増す。
射出されるエネルギーの勢いが増し、空気が白く裂ける。
周囲の瓦礫が浮き上がる。
「私は……ヤマトの兵士だった!!」
その一言で、空気が変わる。
「貴様は……ガルガンは祖国の敵だ……!!!」
怒り。
憎悪。
そして――失ったものの重さ。
『到達者……いや、アルティマよ。我々を赦してほしいとは口が裂けても言えぬ』
アンダルフが、震える声で言う。
『だが、それでも話だけは聞いてほしい。いまの儂は、もうガルガンに従属する者ではないのじゃ』
「レン……一旦、落ち着いてくれ!」
キーパーが、必死に抑える。
「私の祖国は、星は!コイツらに蹂躙された!奴らは侵略者だ!」
「……それでもだ。今は、聞くべきだ」
「レ、レンさん…っ!」
フィアーも駆け寄り、レンの腕を掴む。
それでも、レンは止まらない。
『儂らはいま、戦わせられ続ける魂を、無限のヴァルハラから解放するために動いておる!どうか……話だけでも聞いてくれ!』
アンダルフが、地面へ頭を擦りつける。
懇願。
この世界を作った男の姿とは思えないほど、低く。
マモノたちは動かない。
ただ、傍らに立っている。
「レェエエエン!!」
キーパーが全身でレンを止める。
抱きしめるような形になる。
その中で、ようやく。
レンの出力が、少しずつ落ちていく。
「……ハァ……ハァ……」
「レン。お前の気持ちを軽々しく分かるなんて言えない」
キーパーの声は、静かだった。
「それでも……今は、こらえてくれ」
「……許す必要なんか、無いから」
レンが、かすれる声を漏らす。
「だがっ――」
『――そこまでにしとけって』
声が、降ってきた。
次の瞬間。
空から、一筋の影が落ちる。
そして炸裂する。
閃光が、デイブレイクタウンの空を裂いた。
遅れて、轟音が鼓膜を震わせた。
爆風が広場を薙ぎ払う。
蒸気も、瓦礫も、すべてが吹き飛ぶ。
煙の中。
一人の男が立っていた。
黒いコート。
顔の一部を隠す装備。
だが。
その立ち姿だけで分かる。
“格が違う”。
「…アンダルフさんさぁ…ちょっと、話しすぎだって」
軽い声。
場違いなほどに。
その男は、肩をすくめた。
「俺、上に言われたから仕方なく来ただけなんだって」
ゆるく手を振る。
「でも、それ以上話すのは俺達的にもマズイってのは分かるって」
その仕草とは裏腹に。
周囲の空気が、歪む。
◆
爆風の中、レンとフィアーたちに覆いかぶさっていたキーパーが立ち上がり、辺りを急いで見渡す。
そこには、身体の半分以上が焼け焦げながらも、アンダルフを守るヨロコビのマモノ。
そして意識のないスクラッパーとハンマーを抱えている般若の顔のマモノ。
「ふ、二人のことも守ってくれたのか…」
キーパーが安堵の表情を浮かべる。
だが。
パチン。
黒服の男が、指を鳴らした。
それだけで、既にボロボロだったヨロコビのマモノは、木っ端微塵に爆散した。
「ッ!?」
衝撃で弾かれ、アンダルフが横へ吹き飛ぶ。
「お主は…っ!?」
アンダルフは低く、睨む。
「とりあえず仕事中なんだって」
男は、気だるそうに言う。
視線が、アンダルフへ向く。
「あんたを連れてこいって」
その瞬間。
マモノ――般若が動く。
両腕が膨れ上がり、巨大な盾となってアンダルフを覆う。
「邪魔だって」
ボマーが、軽く手を振る。
――爆ぜた。
般若の腕が爆ぜる。
だが、ほぼ無傷。
「あ〜…ダルいってぇ〜……」
男は指揮をするように何度も手を振る。振り下ろされるたびに般若の体が爆裂する。少しずつ、黒い皮膚が剥がれるように爆ぜていく。
爆発の衝撃もあり、身動きがとれないようだった。
「に、逃げよう!今のうち!」
フィアーの声が漏れる。
「お前たちは先に逃げろ!すぐにアンダルフを連れて追う」
キーパーが駆け出そうとする。
だがーー
ドガァァァン!
「なっ!?」
踏み出した瞬間に地面が爆発した。
「あー、あんたたちと争う気はないって。邪魔だけしんといて」
そう言ってボマーは、何事もなかったかのように歩く。
アンダルフの前へ。
「ほら、行くって」
抵抗は、ない。
いや。
できない。
黒服の男はアンダルフの身体を軽々と持ち上げた。
「待て!!」
キーパーが踏み出す。
だが。
再度爆発。
「あんたたちがゴチャゴチャ話してる間に、そこら中に爆弾埋め込んだって。迂闊に動かんほーがいいって」
進路が遮られる。
爆発が続き地面が裂け、煙が広がる。
ボマーが振り返る。
笑っている。
だが、目は笑っていない。
「お前らじゃ、俺は止められないって」
その瞬間。
数人の黒い影が降り立つ。
皆、一様に黒服。
無機質な動き。
アンダルフを囲む。
「回収完了って」
淡々とした声。
「じゃ、またなって」
ボマーが軽く手を振る。
次の瞬間。
爆発。
閃光。
視界が白く塗り潰される。
煙が晴れたとき。
そこには、誰もいなかった。




