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第40話 蠱毒のヴァルハラ

第40話


『より真理に近づきたいのなら――』

『自分たちは、何だ。と聞いたほうが良いかもしれんのう』


「真理……だと?」

 そのとき、レンが銃を構える。

「ジジイの妄言に付き合う気はない」

 引き金に指がかかる。


 しかし撃てない。

 理由は分からない。だが、確信だけがあった。

 ――ここで撃てば、何かを間違えてしまう。そんな予感がしていた。

『おぉ、キーパーや。そのじゃじゃ馬を止めてくれ』

 老人は、ゆっくりと両手を上げる。

 その瞬間。

 ハンマーとスクラッパーの倒れている地面に、紋様が浮かび上がる。

 円。線。重なり合う幾何の模様。

 ディフェンダーが変質したときと、同じもの。

 だが。

 それ以上に“濃い”。

 見ただけで分かる。

 ――触れてはいけない。

「レン!銃を下ろせ」

「………分かった」

 レンはゆっくりと銃口を下げる。

 老人は満足そうに頷いた。

『ほ、ほ。それでよい』

 手が下ろされる。

 それと同時に、紋様は消える。

 何事もなかったかのように。


『儂の名はアンダルフ。能力は、"デビルサマナー"』

 老人が静かに言う。

『魂を生贄に、マモノを生み出すことができる』

「マモノを、生み出すだと……?」

「人を買い集めていたのも、そのためか」

 キーパーの声は低い。

「戦力にするために、人を“使う”のか」

『うぅむ』

 老人は困ったように首を傾げた。

『説明が面倒くさいのう』

 そう言いながら。

 人差し指を、ゆっくりと立てる。

『そもそも……先ほども言ったが儂らは何じゃ?』

『マモノとは何じゃ?』

『お前たちは、どこまで知っている?』


 沈黙。

 その問いは、戦いよりも重かった。

 ――魂の処理。

 ウツロの言葉が、脳裏に蘇る。

「俺たちは……既に死んでいる」

 キーパーが言う。

 レンも、わずかに目を伏せる。


 完全に信じているわけではない。

 だが。

 否定もできない。なにより、レンの記憶がある。


『ふ、ほ』

 老人が笑う。

『まぁ、それだけだと五十点じゃな』

 軽い口調。

 だが。

 戦う必要がないと知っている者の声だった。

 老人の視線が、レンへ向く。

『レンと言ったか』

『名を思い出しているということは、記憶もあるはずじゃ』

『お主の生きていた時代がいつか分からんが――』

『“ウルティマ”という言葉を聞いたことは無いか?』

「ウルティマ……だと?」

 レンは一瞬、思考を巡らせる。

 だが。

 答えは出ない。

 キーパーへ視線を送り、首を振る。

『仕方あるまい』

 老人は、小さく息を吐く。

『到達者たちの多くは、“過去の英雄”じゃ』

『だが』

 言いながら、キーパーとレンを見据える。

『オリジンと到達者が揃うのも珍しい』

『では、話そう』

 その声は、先ほどよりも静かだった。

 だが。

 確実に、重い。

『お主らには、聞く権利がある』

 風が、止まる。

 音すら、遠のいていく。


 誰も動かない。

 

 動けないのではない。

 ――聞かなければならないと、理解している。

 そして老人は、語り始めた。

 この世界が何であるかを。

 自分たちが何者なのかを。


▣▣▣▣▣▣▣▣▣▣▣▣▣▣▣▣▣▣▣▣▣▣▣


 千年を超える、終わりのない戦争があった。

 星を奪わんとする「ガルガン星艇団」と星を守ろうとする「ヤマト帝国」

 ただ、生き残るための戦い。


 しかし、ガルガン星艇団はヤマト帝国に比べて圧倒的に兵数と資源が少なく、戦争が長引くほど疲弊していった。


ーーこのままでは、ガルガンは全滅する。

 誰もが理解していた。


 そんな中、ガルガンが生み出したのは、

 自律型AI――オプティマ。

 更にオプティマを人工の肉体へと移し、人の代わりに戦う兵士とする。

 通称"オプティマス"が生まれた。


 それから戦況は変わった。

 徐々に消耗していたガルガンは、オプティマスを生み出し続けた。


 だが、戦いは止まらない。

 むしろ――ガルガンが息を吹き返したことで、より戦場は激化した。

 

 次々にオプティマスを戦場へ送り出す。

 敵船を撃つ。攻撃を避ける。危なくなれば自爆して敵もろとも破壊する。

 

 だがーー



「……遅い」

 反応が、決まりすぎている。

 ワンパターンな戦術しか選ばない。

 ヤマトにも、読まれつつある。

「これでは……勝てない」

 

 モニターの光が、顔を照らす。

 アンダルフは、画面を睨み続けていた。

 戦況データ。損耗率。資源残量。

 どれを見ても、決着は見えてこない。


「だからこそ」

 研究者アンダルフは、発想を変えた。

「作るのではなく……育てるのだ」


 視線を、別のウィンドウへ移す。

 起動ログが切り替わり、画面にコード列が表示される。

 人工知能制御画面。

 

 電脳世界。

 ――Valhallaヴァルハラ

 神話に登場する名前を冠し、様々な地形をリアルに再現した世界。


 本来であればそのまま兵器にアップロードするオプティマの意識を、ヴァルハラに送り込む。

 多くのデータをとるため、ヴァルハラでの肉体「アバター」には固有の能力を識別させる。


 最初の一体が、目を覚ます。

 命令コードは、たった一つ。

『最後の一人になるまで、生き残ること』


 オプティマたちの戦いが始まった。

 殺す。逃げる。奪う。


 戦いの果てに、最後の一人だけが、残る。


「まだ……まだだ」

 ヴァルハラの戦場は何百も並行して創り出した。それぞれの戦場で、百のオプティマを戦わせる。

 死んだオプティマは経験値と自我のみを蓄積し、記憶データをリセットしてまたリスタートさせた。

 そして生き残ったオプティマ同士を集め、更に何度も戦わせる。

 何度も、何度も、何度も……


 高速演算により、ヴァルハラ内での数年は現実世界であれば数時間。

 

 彼らは学ぶ。

 ーー勝つためではなく、生き残るために。

 連携。裏切り。待ち伏せ。

 戦闘ログが、加速度的に増えていく。

 戦術。判断。思考。

「……いいぞ」

 アンダルフの目が、わずかに見開かれる。


 時間が、圧縮されている。

 仮想世界での数十年は、現実では数時間。

「最強の、戦士をつくるのだ」



 ヴァルハラが稼働し始めてから、一年近くが経過したその日。

 戦場に立つ、一人のオプティマ。


 ときに笑い、ときに恐れながらも他のオプティマを排除し続け、生き残り続けた。彼らにとっては永遠に等しい戦闘ログの結晶。

 もはや"それ"は、ただのAIではなかった。


「……これこそが」

 わずかに、息を吐く。

「"ウルティマ"だ」


 ウルティマのデータを、現実へ持ち出す。

 ヴァルハラで培った自我、経験はそのままに最後の命令コード「ガルガンへの忠誠」を刻み、創り出された人工人体へアップロードする。


 ウルティマの投入により、戦局は大きく変わっていった。


 ガルガンは優勢となっていく。


「もっとだ。ウルティマの軍勢が出来れば、ヤマトを滅ぼせる」

 アンダルフは狂気の笑みを浮かべながら、新たなヴァルハラを起動させた。

 だが、アンダルフは知らなかった。

 この選択が。

 戦争を終わらせるものではなく。

 “世界そのもの”を壊す引き金になるということを。


 ヴァルハラが。

 神話の世界などではなく"地獄"となっていくことを。

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