表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/48

第39話 羽化

第39話

 

 最初に動き出したのは、レン。出力を上げ、高速で間合いを詰める。

 彼女は戦いを通して成長している。その機動力も、射撃速度も、あらゆる"疾さ"が高まっている。

 そして武器の"使い方"も、洗練されつつあった。

 肩銃のエネルギー射出を利用した高速移動「エアリアル・レイ」

 両手のエネルギー銃と両肩の双銃を同時射出する「クアドラレイ」

 それぞれの強みを"瞬時の切り替え"によって両立させる。

「これこそが……走攻両立の駆動形態。『クアドリアル・レイズ』だ!」

 

 高速接近と四発同時射撃。その二つが噛み合うことで生まれる遠近両用の戦闘。

 ディフェンダーとの間合いを操り、ヒットアンドアウェイを繰り返す。

 "絶対防御"はレンの銃撃を的確に防ぐ。眉間、脳天、顎、こめかみ、喉元、頚椎、みぞおち……

 完璧なタイミングで、完璧なエリアを防御する。それでもレンは止まらない。縦横無尽に、前後左右に。

 レンを追うディフェンダーの目線速度を、徐々に追い越していく。

 初撃。二撃目。三撃目。四撃、八撃、十二………


 そしてレンを追いかけるディフェンダーの視線の先に佇む『恐怖公』フィアー。

 右手に浮かぶ赤い紋様。左手に浮かぶ青い紋様。

 それらを視認してしまったディフェンダーの視線に出現する、影を纏うもう一人の『レン』

「お、お前の絶対防御は……心にも張れるのか?」

 言葉が鼓膜に響く。フィアーの恐怖が、相手の恐怖と混ざり合う。

 止まらないレンに、舞踏のように並び撃つ影のレン。合わせて八撃同時射出される蒼白の閃光。

 八撃、十六撃、二十四撃、三十六撃………!!

「ぐぉ………うぉおおおおおお!!!!」

 ディフェンダーの防御膜も、圧巻の速度で防ぎ続ける。防ぐ、防ぐ、防ぐ。

 地面が抉れ、石片が跳ねる。


「これでどうだあ!!」

 そこへ飛び出すハンマーの一撃。巨大な戦鎚が右からディフェンダーを叩き潰す。

「うおおおおおおおおおあおおおお!!!!」

 ディフェンダーの右手に防御膜が浮かぶ。その間も八撃の射出は雨となり降り注ぐ。


「俺のことも忘れてもらったら困るぜ!!」

 スクラッパーがディフェンダーの左手に回り込み、掌底を突き出す。その掌に力みは必要ない。

「スクラァァァップ!!」

 ガガガガガガッッ!!!!

 ディフェンダーの防御膜が、現れてはスクラッパーの手の平で分解され、更に下から防御膜を重ねては崩される。

「クッッッソぉおああがァァァ!!!」


 そこに、キーパーが間合いを一瞬で詰めると同時に、義手が唸る。

 歯車が高回転で噛み合い、内部圧が限界近くまで引き上げられる。

「――行くぞ、ディフェンダー」

 自身の体にかかる反動も衝撃も顧みない『捨て身の突進』

 黒く、鈍く光を反射する手槍が、ディフェンダーの心臓へ。

 胸に張られる防御膜は、薄く、儚く砕けた。

「や、やめ……!!」

 次の瞬間。

 離脱する四つの影。

 そして爆裂の中心に残る二つの影が、眩い爆光の中にかすめていく。



 爆音と衝撃で砂煙が舞う。

 地面が鳴る。

「やったか……!?」


 粉塵が晴れる。膝立ちで未だ燃え焦げる人型の炭。

 それを見下ろす、キーパーが居た。

「やったな……」

 キーパーは、仲間たちの方へと振り返った。

 皆が駆け寄る。ハンマーとスクラッパーがハイタッチをする。影を引き剥がしてキーパーに抱きつくレン。

 天を仰ぐフィアー。

「ヨロコビ……。」


「マ……マダ………ダ」

 微かな声が五人に届く。

 焼け焦げた"それ"が、未だに体を燃やしながら、小さな声を漏らす。


『そう、まだじゃ』


 地面に、光が走る。

 円。幾何学的な線。

 複雑に重なり合う紋様は、まるでおとぎ話に出てくる魔法陣。

 それらがディフェンダーの足元から、展開される。

「おォ゙……」

 ディフェンダーが、ゆっくりと両腕を広げる。焦げた皮膚を、無理やり剥いで呟く。

「我ガ主人ヨ……」

 低く。

 重く。

 空気が、沈む。

 体が、歪む。

 骨格が膨張し、装甲が炭を突き破る。まるで蛹から蝶に羽ばたくように。抜け殻となった体は『ぱさり』と乾いた音を立てて崩れ落ちる。

 中から立ち上がったのは、黒い人型の『マモノ』

 腕。

 脚。

 全身。

 全てが黒い金属のような外殻。

 両手に、羽のように広げる巨大な盾。

 その顔は、怒りに歪んだ“般若”のイラスト。


 圧倒的な、質量と威圧。

「……マ、マモノが」

 スクラッパーが、息を吐く。

「人から、生まれた」

 フィアーが戦慄した表情を浮かべる。


『イカリよ、よく守り抜いたな』


ドォォン――!!

 音が、遅れて落ちてくる。

 空気が圧縮され、地面が沈み、次の瞬間に爆ぜる。

 広場の中央。

 瓦礫が跳ね上がる中、“それ”はすでに立っていた。


 人の形。

 だが、明らかに人ではない。

 黒い皮膚。

 光を吸うような質感。

 関節は人間と同じ位置にあるはずなのに、どこか“ずれている”。

 顔は、能面のように描かれた"笑顔"。


 そして。

 その腕の中に、老人がいた。

 まるで、赤子を抱きかかえるように。

「……お前は」

 キーパーの声は低い。

 老人は、ゆっくりと顔を上げる。

『ほ、ほほ……』

 乾いた笑い声。

 口元は笑っている。

 だが、目は笑っていない。


『まさか、フィアーがそちら側につくとはのう』


 その声は、妙に“軽い”。

 この場の異常さと、まったく噛み合っていない。


 老人の視線が、キーパーに向く。

『……さすがはオリジン、と言うべきか』

 その言葉。

 わずかに、空気が軋んだ。


 レンが、即座に銃を構える。

「貴様が“主人”か」

 ハンマーが戦鎚を握り直す。

「今度こそ……終わりにする」

 スクラッパーが一歩前へ出る。

「全部、壊してやる」

 フィアーの周囲に、黒い霧が揺れる。


 だが。

 老人は、両手をゆっくりと持ち上げた。

『おお、おお……怖い怖い』

 その仕草は、明らかな“演技”だった。

 そして。

 一瞬の間を置いて、手を下ろす。


 その瞬間。

 老人の両脇。マモノたちがたった今このときまで存在していた空間が、まるで“抜けた”。

 音が消える。

 風が止まる。

 視界の奥行きが、歪む。

 そして。

 

「――ッ!?」

 二体のマモノが、キーパーの視界から完全に消失していることに遅れて気づく。

 次の瞬間。

 ハンマーとスクラッパーの背後。

 それぞれが“元々そこにいたかのように、立っている”。

 その移動速度は、時間の繋がりが途切れているような印象さえ覚える。

「がはっ!!!」

「キャッ!!!」

 衝撃だけが遅れて届く。

 ハンマーとスクラッパーの体が、空中へ弾かれる。


 吹き飛ばされるというより、“位置を書き換えられた”ような軌道。


「ハンマー!」

「スクラッパー!」

 レンとフィアーが駆ける。

 だが、追撃は来ない。

 二体のマモノは、立っている。

 ただ、片手だけが微かに動いていた。

 それが、逆に異様だった。


 キーパーは、動かない。

 ただ、老人を見る。

「……お前は」

 そこで、もう一度言い直す。

「“こいつら”は、何だ」


 義手が、唸る。

 ギチ……ギチ……と。

 老人は、少しだけ首を傾ける。

『より真理に近づきたいのならーー』


『自分たちは、何だ。と聞いたほうが良いかもしれんのう』

 老人は、子どものように無邪気に笑う。その笑顔は口元だけじゃなく、目尻も垂れる笑顔だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ