第38話 連携
第38話
地面が裂ける。
ワームの巨体が、土と瓦礫を押し上げ砂煙を起こしながら姿を現す。
牙の並ぶ口腔。湿った肉の光沢。
その頭部を掴み立つディフェンダーが、余裕の笑みを浮かべていた。
「来れるもんなら来いよ」
「ヨロコビもそうだったが…お前たちはマモノを飼い慣らしているのか?」
キーパーの問いかけに、ディフェンダーは嘲笑を浮かべながら答える。
「マモノねぇ…逆にお前らは、このマモノが"何なのか"知ってるか?」
「何…か?」
「こいつらはなぁ、この世界のバグであり、ウィルスであり…俺達自身なんだぜ」
「は?」
「理解する必要はないさ。」
その言葉に応じるように、キーパーが踏み込む。
一直線。
迷いがない。
〜
北地区にて
メーカーの工房。
スクラッパーが壁にもたれ、キーパーの新しい義手をまじまじと見ながら言った。
「つっても、要は扱いやすくなったってだけか?」
「義手自体は…な」
「むしろ、キーパー自身の変化の方が大事じゃ」
「俺自身の…?」
「耐える力、変化を拒み、維持する力。それが、肉体以外にも影響を及ぼすとしたら…」
〜
ワームが咆哮する。
地面をえぐりながら、巨体を振り上げる。
「スクラッパー」
「任せろ」
広場の端から端まで届くほどの巨体。真ん中の胴体に、横から滑り込むように接近。
ディフェンダーの防御面が届かないギリギリの外殻に手を当てる。
「――スクラップ!」
鈍い音。
外骨格に、一点だけ歪みが走る。
ひびが割れ外殻が崩れる。
「やっぱ生き物はスクラップのイメージが湧きにくいな…!」
崩れたのは、ほんのわずか。
穴と呼ぶには小さい。
「それで充分だ」
キーパーが踏み込む。
義手を、迷いなくその一点へ突き込む。外殻が崩れ、柔らかい肉質が剥き出しになった一点へ。
肉を裂く感触。
その奥には骨に似た硬質の抵抗。
そこへ――押し込む。
「ハンマー!」
「任せて!!」
よりコンパクトに、しかし固く重くなった戦鎚に全体重を乗せる。
全力の振り抜き。
戦鎚が、ピンポイントにキーパーの義手の肘部分に叩き込まれる。
ガンッ――!!
衝撃が一直線に伝わる。
義手がさらに奥へ。
深く、ワームの内部へ食い込む。
「なに……?」
ディフェンダーの表情が、初めて揺らぐ。
「砂煙で気づくのが遅れた……ッ!!」
キーパーの目が細まる。
「――爆ぜろ!!!」
義手の内部機構が、歯車がギチギチと音を立てて唸る。
黒鉄のフレームが軋む。
本来なら耐えられない出力。
だが。
「耐える…耐えさせるッ!!」
崩壊しかけた構造が、無理やり繋ぎ止められる。
巨大な爆発。
ドンッ――!!
内側から肉が弾ける音。骨が砕ける感触。
さらに、爆発は一度じゃ止まらない。
もう一度。さらにもう一度。
ドンッ!!
ドンッ!!
ドンッ!!
本来なら耐えられない負荷。だが壊れることなく維持される義手による、爆破の連続。
内部から、徹底的に破壊する。
「ふ、ふざけ――」
ディフェンダーが何かを言いかける。
その瞬間。
ワームの体が、膨張し、破裂。肉片が広場一帯へ飛び散る。
巨大な胴体が、空中で四散する。
ディフェンダーの足場が消える。
支えを失い、体勢が崩れる。
「チッ――!!」
初めての舌打ち。
キーパーは、まだ義手を引き抜かない。
内部で煙を上げながら、それでも形を保っている。
ゆっくりと、引き抜く。
血と肉が、滴り落ちる。
「……まず一体撃破」
静かに言う。
地面に、ワームの残骸が落ちていく。散りゆく残骸の中に、一際巨大なもう一つの落下物。
グジャッ
巨大な翼の破片。くちばし。体中に無数の風穴が空いているが、かろうじて原型は保っている。
ヨロコビの乗っていたマモノ。
「キーパー!こっちもやったぞ!」
笑いながら駆け寄ってくるレンが"二人いた"。
「え、は?」
レンが抱きついてくる。
しかしそのレンをまた後ろから来たもう一人のレンが引き剥がす。
「離れろ!ニセモノめ」
「ど、どういうことだ?」
よく見ると、引き剥がされたレンには小さなツノ。
「ぼ、僕の"難儀な写鏡"だよ」
木の影から、フィアーが現れる。
「もともと孤独や死に対する恐怖が一番だったから、死神が具現化していたんだけど」
「コイツにとって私が鬼に見えるんだそうだ。ふざけた奴だ!
……だが」
そう言ってレンはフィアーに微笑みかける。
「なかなか、使えるな」
「へ、へへ」
ダーン!
膨張の衝撃で飛ばされたディフェンダーが、地面へと着地する。
その体は無傷。
だが。
余裕は、消えていた。
「やってくれんじゃねぇか……」
その目は、先ほどまでとは違う。
敵として、認識している。
キーパーは、構えを解かない。
「あとは、コイツだ」
全員の眼は一点を見つめていた。




