第37話 絶対防御
第37話
戦いの口火を切ったのは、レン。
「――エアリアル・レイ」
言葉と同時に、地面を蹴る。
身体が軽く浮くように前へ滑り出し、そのまま空へ跳ね上がる。
視線の先。
飛行型のマモノ。そして、その背に立つヨロコビ。
レンの持つ二丁の銃口に、光が収束する。
「“オーバーレイ”」
空気が裂けた。
蒼白の双閃光が、一直線に撃ち出される。
軌道は完璧。
狙いは、ヨロコビの眉間とマモノの脳天。
その刹那、ヨロコビがマモノに手を触れる。マモノの全身が赤く脈打ち、先ほどまでとは桁外れの速度で避ける。
閃光はヨロコビの頬をかすめ、背後の空へと突き抜けた。
「……頼む」
レンの下から影が飛び上がる。
キーパーが、飛び出す。義手の出力を乗せた跳躍。
一直線に、ヨロコビへ迫る。
拳を振りあげ、激しい衝撃。爆ぜるような音と共に、空間が歪んだ。
「……!」
キーパーの拳に割り込んだのは――背丈よりも巨大な"盾"。
盾を構えたディフェンダーが、空中で割り込み、義手の拳は、完全に受け止められていた。
「おっほっほ!いかに派手な攻撃だろうとも、ディフェンダーには傷一つつけられませんよ!」
ヨロコビが笑う。
次の瞬間。
飛行型マモノが大きく翼を広げ前方向にはためかせる。
強い風圧が叩きつけられ、キーパーの体が押し返される。
そのまま、ヨロコビを乗せたマモノは高度を一気に上げた。
一瞬で、射程外。
「飛行型は私に任せろ!」
レンが叫び、そのまま再び空へ跳ぶ。
「フィアー!……ヨロコビを任せたい」
「え…」
「お前自身の目で見て、判断すればいい」
「……!」
フィアーも遅れて走り出した。
「ま、待って……!」
戸惑ってはいるが、視線だけは離さない。右手の紋様をマモノへ向け、フィアーは黒い霧となる。
空中戦。
レンとフィアーが、ヨロコビを追い広場の外へ向かった。
◆
残されたのは――地上。
キーパーが着地する。
同時に、目の前に現れる影。
ディフェンダー。
ゼロ距離の間合いで拳がぶつかる。
「お前たちは、なぜ人間を集めているんだ」
「人間…?ははは!本当に何も知らないんだな」
キーパーの義手と、ディフェンダーの盾。火花を散らしながら、鍔迫り合う。
「……まさか、魂の処理というやつか?」
ウツロの言葉が脳裏をよぎる。
「えらく美化した言い方だなあ!気に入ったぜ!」
ディフェンダーが笑う。
そのとき、横から風を切り飛び込むスクラッパー。素早く踏み込み手の平を盾に押し付ける。
「壊れろ!!」
同時に、逆側からハンマー。
「潰れて!!」
戦鎚が振り下ろされる。
スクラッパーとハンマーによる、二方向からの同時攻撃。
正面にはキーパー。
まずスクラッパーの手が盾に触れる。ディフェンダーの盾はがしゃりと音を立ててバラバラに飛び散る。
空いた懐にキーパーは飛び込み、すかさずハンマーの戦鎚がガラ空きになったディフェンダーの顔面めがけて振り抜かれる。
だが。
ディフェンダーは、焦るどころか動かない。
「無駄だ」
短い一言。
そのとき空気が小さく歪んだ。
ガンッ
鈍い音と共に、キーパーは静止し、戦鎚は弾かれる。
ディフェンダーの前に、見えない“面”が展開されている。
衝撃はある。
だが、通らない。
「……それがお前の能力か」
「完全防御ってやつかあ?」
スクラッパーが舌打ちする。
そのとき。
地面が、膨らんだ。
「下がれ!」
キーパーの声。
だが、遅い。
ドンッ――!!
地面が爆ぜた。
ワーム型マモノが、三人の足元から突き上げる。
衝撃。
視界が跳ね、三人まとめて吹き飛ばされた。
キーパーは空中で体勢を整え、着地する。
すぐに前を見る。
距離を取ったディフェンダー。
その背後でうねるワーム。
「さて……」
ディフェンダーが肩を鳴らす。
「主人が来るまで、適度に痛めつけて遊んでやるよ」
ワームがもぞもぞと巨大な関節をくねらせ地面を潜っていく。
「来るぞ!」
スクラッパーが叫ぶ。
直後。
右側の地面が隆起した。タイミングを合わせてキーパーが踏み込み、自身の身を省みず義手を振り抜く。
ドンッ。
出てきた頭部に体が圧されながらも、叩き潰すように殴りつける。
マモノの頭部を中心地に爆風が広がった。
砂煙が舞い、視界がふさがれる。奥から、ディフェンダーの声がする。
「お前たちは、この世界のことも。自分のことも。何も知らない」
「だからこそ、無駄に足掻く。主人の邪魔をする。」
「余計なことはせず、お前たちの"データ"を渡してくれよ」
ディフェンダーの言っていることは理解できなかった。
そして視界が晴れていく。
マモノの背に乗るディフェンダーが見えた。爆破させたはずのマモノの頭部は、またもディフェンダーの能力に防がれて無傷。
「おい!ハンマーちゃん!足元!」
ディフェンダーのいる反対側。
ハンマーの足元で地面が隆起する。
「っ……!」
咄嗟に跳ぶ。
地面から何かが飛び出してくる。その何かの先端は、槍のように鋭く尖っていた。
「あっぶな…!」
「そりゃこんななりをして地面に潜ってるんだから、"尾"にも注意しなきゃなあ!」
ディフェンダーは悠々と見下ろしながら高笑いをする。
「ご忠告、どうも!」
すぐさま体勢を整えたハンマーの、全体重を乗せた一撃。地面から飛び出した尾に戦鎚の衝撃が走る。
ドォンッ!!
外殻にヒビが入る。
「ヒュ〜♪さすがにそこまでは俺の能力も届かねぇわ」
「いける……!もう一発!」
「させねえよ」
ディフェンダーを乗せたマモノの頭部が、既に動いている。巨躯に見合わない速さで、ハンマーめがけて距離を詰める。
キーパーが胴体を掴み止めようとするが、止まらない。
「くッ……!」
『守りつつ攻めるのが、俺だ。傷つきながらギリギリで"耐える"能力の上位互換ってやつだな』
ディフェンダーが笑う。
スクラッパーが側面から再び殴り込む。
胴体に手を触れ壊そうとするが、やはり通らない。
不可視の防壁による、完全なる遮断。
「厄介すぎるだろ、これ……!」
キーパーが息を吐く。
義手を強く握りこむ。
内部で歯車が噛み合う音がゆっくりと聞こえてくる。
ギチ……ギチ……と。
これまでとは違い、義手への抵抗感がなくなっている。
まるで。
身体の一部として、馴染み始めているような感覚。
「……制御が、軽いな」
小さく呟く。
視線は、ディフェンダーから逸らさない。
ディフェンダーが眉をわずかに動かした。
「……なんだ?」
キーパーは、踏み込まない。
ただ、立つ。
「スクラッパー」
「お?」
「さっき、盾を壊したやつ。」
「一瞬だけだがな」
「それでいい」
ハンマーが振り向く。
「え?」
「一瞬でいい」
キーパーの声は、静かだった。
だが。
はっきりしている。
「もういちど“隙”を作ってくれ」
ディフェンダーが、口角を上げる。
「ほう……?」
「やれるもんなら、やってみな」
ワームが、再び地面に潜る。
広場の地面が、不規則に脈打つ。
だが。
「あ、アレをやんのか?」
「上手くいくかな…?」
スクラッパーが姿勢を落とす。
ハンマーが不安そうに戦鎚を構える。
キーパーは、義手を前に出す。
内部で。
歯車の回転数が、さらに上がる。
ドクン、と。
鼓動のような振動。
「――来い」
その瞬間。
地面が、裂けた。
同時に。
三人が、動いた。
次の一撃で。
この“完全防御”を、こじ開ける。




