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第35話 西地区の裏

第35話


 ディフェンダーに教えられた店前に立つ。

 店内からは賑やかな音が漏れている。

 笑い声。

 怒鳴り声。

 グラスのぶつかる音。

 だが、キーパーがドアに手をかけた瞬間。

 店内から聞こえてきていた音が、止まった。

 ドアを開け、店内を見渡す。

 明らかに空気が変わったのが分かる。

 視線。

 無数の目が、キーパーたちを捉えている。

 値踏み。

 警戒。

 敵意。


 ハンマーが小さく言う。

「……え、こわ」

 レンが一歩前に出る。

「あんまり見るな」

 短く言い放つ。

 数人が舌打ちをした。

 だが、それ以上は何も起きない。

 興味を失ったように酒へ戻る者。

 まだ見ている者。

 完全に安全ではない。

 だが、即座に危険でもない。

 スクラッパーが小さく言う。

「ま、悪くねぇな」

「この程度なら、まだ“浅い”」

 キーパーは何も言わず、店内を見回す。

 カウンター。

 奥の席。

 壁際。

 どこも埋まっている。

 そのとき。

「――なんの用だ?」

 低い声。

 カウンターの奥。

 一人の男がこちらを見ていた。

 細い目。

 痩せた体。

 だが。

 妙に、存在感がある。

 スクラッパーが言う。

「ディフェンダーって野郎の紹介なんだが〜」

 その名前を出すと、店内がドッと笑いに包まれる。

「おいおい!アイツまじで連れてきたのかよ!」

「ギャハハ!かもがネギ背負って来たってか!」

「危機感無さすぎねえか!?」

 レンが無視して言う。

「何が可笑しいのか分からんが、とにかく情報が欲しい」

 カウンターの男はニヤつきながら言う。

「いやいや……聞かなかったのか?」

「情報ってのは、なにより“高価”なんだよ」

「金ならある」

「そうじゃねえ」

 テーブルの男が口を挟む。

「“ここで情報が買える”って情報、タダで貰えると思ってんのか?」

「なんだと?」


 その一言を合図に。

 客席の男たちが一斉に立ち上がる。

 ゾロゾロと囲み始める。

「おめぇらは高く売れそうだな」

「ひ、ひぃいい……」

 フィアーがしゃがみ込む。

「そういうことかよ」

「ふむ……誘い出されたか」

 だが。

 キーパーは動じない。

「お前ら、人を買い取るところを知ってるみたいだな」

「おう!今から連れてってやるよ!テメェらまとめてなあ!」

「……話が早くて助かる」





 カウンターの男は、腫れ上がった顎で席を示した。

 両手は垂れ、もはや何も持てない。

「ふわっへくだはい(座ってください)」

 キーパーたちは席に着く。

 別の男が、震えながらグラスを差し出す。

「ど、どうぞ……」

「とりあえず、情報が欲しい」

「内容によいまふ……」

「貴様、まともに話せないのか?」

 ガンッ。

 レンがカウンターを叩く。

 周囲の男たちが一斉に震えた。

「か、軽い情報なら安い……重い情報は、命より高い……って言いたいんだと思います……」

「ほぉ」

「貴様らの命で払えるか?」

 誰も顔を上げない。

 フィアーが小さく呟く。

「命……」

 カウンターの男がちらりと見る。

「ほ、ほにかく……何が知りたい」

 キーパーが言う。

「二つだ」

「この街で人が消えている」

「行き先を教えろ」

「知らんとは言わせん。連れて行くつもりだったんだろう」

「そ、それならコイツが……」

 男が一人を指す。

 指された男は、絶望の顔をした。

「……ご案内します」

「もう一つだ」

「仲間を探している」

「“シーカー”と“クラッシャー”」

 男の手が止まる。

 ほんの一瞬。

 レンが見逃さない。

「知っているな」

 沈黙。

 グラスが置かれる。

「……シーカーは知らない」

「だが――」

 わずかに声が落ちる。

「クラッシャーなら」

「前の支配者だ」

 空気が変わった。

「どういうことだ?」

「ど、どういうこともなにも……」

「金髪で軽薄な顔。腕から肩に入れ墨――」

 その説明に、周囲の男たちがざわつく。

「間違いねぇ……クラッシャーの旦那だ」

「あの人は強かった……」

「なら今はどこにいる」


 沈黙。


 そして。

「死んだよ」

「は?」

 理解が追いつかない。

 支配していた男が。

 既に死んでいる。

「この街は、あの人が作った」

「だが――」

「ある日、連中が来た」

「一晩……いや、数時間で全部ひっくり返った」

「そのとき……」

 言葉が止まる。

 フィアーが小さく言う。

「仲間……だったの?」

「ああ……仲間だ」

 わずかに硬い声。

「今の支配者は“コクヨウ”だ」

「襲ってきた連中の幹部だった男」

「アイツが来てから、人身売買が始まった」

 そこまでで皆が口を閉じる。

 それ以上、誰も続けない。


 酒場が静まる。


 視線だけが残る。

 キーパーは動かない。

 レンは思考を巡らせる。

 ハンマーは拳を握る。

 フィアーは、理解し始めていた。

 スクラッパーが呟く。

「“殺された”で済めば……まだマシかもな」

 空気が、揺れた。

 誰も否定しない。

 キーパーが立ち上がる。

「行くぞ」

「コクヨウのところへ案内しろ」

 誰も止めない。

 止められない。

 扉へ向かう。

 背後で声が落ちる。

「……やめとけ」

 諦めた声。

 キーパーは振り返らない。

 扉を開ける。

 軋む音。

 外気が流れ込む。

 西地区の夜。

 だが――

 もう“表”ではない。

 この先にあるものを。

 まだ誰も知らない。


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