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第34話 西の闇

第34話


 東地区と西地区の境界にも、一本の川がある。

 自然のものではない。

 真っ直ぐに引かれた、人工の水路。

 デイブレイクタウンを十字に切り分けるために作られたそれは、街を四つに分断している。

 濁った水が、ゆっくりと流れていた。

 鉄の橋。

 軋む音。

 足元から伝わる、規則的な振動。

 キーパーたちは無言でその橋を渡る。

 川の中央で。

 フィアーが一瞬だけ足を止めた。

「……」

 水面を見下ろす。

 濁ってはいるが、東地区ほどの整備はされていない、という程度。

「どうした」

「……いや」

 フィアーは首を振った。

「ちょっと気になっただけ」

 それ以上は何も言わず、再び歩き出す。

 橋を渡り切る。

 その瞬間。

 空気が、わずかに変わった。

 鉄の匂いが薄れる。

 代わりに、酒と食料の匂い。

 人の生活の匂いだった。

 スクラッパーが言う。

「ここからが西地区だ」


 東地区よりも、道は広い。

 建物も整っている。

 露店が並び、人の声が行き交う。

 酒樽を転がす音。

 値段を交渉する声。

 笑い声。

 ハンマーが目を輝かせる。

「あれ?なんか普通だね」

 レンが周囲を見渡す。

「思っていたよりは……まともだな」

 スクラッパーが笑う。

「まー、表向きは…」

 そのまま歩きながら続ける。

「ここは交易の街だ」

「酒、食料、情報」

「欲しいものは大体ここで手に入る」


 露店の一つで男が声を上げる。

「安い酒だぞー!今日入ったばっかりだ!」

 別の店にも声が響く。

「情報だ!東地区の最新情報、誰よりも早く教えるぞ!」

 ハンマーが小声で言う。

「なんか……楽しそうだね」

「食料や酒が売られているとは、珍しいな」

 レンが不思議そうに語り、ハンマーも頷く。


「そもそも、酒や食料を欲しがるやつがいるのか」

 スクラッパーが頷く。

「ああ。物好きなやつもいるのさ」

 フィアーが周囲を見ながら言う。

「……でも」

「ちゃんと、回ってるんだね」

 パンを売る店。

 荷を運ぶ人。

 普通に会話する人々。

「南地区とは違うね」

 キーパーが言う。

「統治の仕方が違う」


 スクラッパーがフィアーを見ながら笑う。

「南は"支配"、西は"取引"ってとこだな」

「そ、そんな……」


 そのとき。

 一人の男が近づいてくる。

「見ない顔だな」

 軽い口調。

 だが視線は鋭い。

「何か探してるのか?」

 キーパーが答える。

「情報だ」

 男は一瞬だけ笑う。

「やっぱりな」

「あんたたちみてぇな余所者がわざわざこの街に来るってこたぁ、目当てはそれしかねえわな」

 レンが言う。

「どこに行けばいい」

 男は顎で奥を指す。

「ついてきな。案内してやろう」


 そう言って男は路地の奥に歩いていく。

 進むにつれて、通りの様子が少しずつ変わっていく。

 露店は減り。

 建物が密集する。

 人の数も減る。

 代わりに。

 視線が重くなる。

 レンが小さく言う。

「……空気が変わったな」

 スクラッパーが頷く。

「表と裏の境目だ」

 フィアーが周囲を見る。

「さっきより……静かだね」

「こういう場所のほうが危ない」

 レンが言う。

「派手な場所はまだ"見せている"」

「静かな場所は、見せていない」


「まともな情報屋は、表じゃ店を構えない。情報ってのは、高価だからな」

 そう言いながら、男は裏路地にある小さな酒場を指差した。

「あそこで、"ディフェンダー"の紹介だっつってみな」

 そう言いながら、去っていく。

 男の後ろ背中を見ながらハンマーが言う。

「親切だったね」

「とりあえず、行くしかない」

 そう言って、キーパーたちは進んでいった。

 スクラッパーは無言のまま、去っていく男の背中を見つめる。

 わずかに、眉が動く。

「……」


 男に教えてもらった店の前で止まる。

 木の扉。

 看板はない。

 だが。

 中からは声が漏れている。

 笑い声。

 怒鳴り声。

 何かがぶつかる音。

 スクラッパーが言う。

「ここか」

 ハンマーが少しだけ身構える。

「……普通の酒場、だよね?」

 レンが鼻で笑う。

「普通の基準をどこに置くかによるな」

 フィアーは少しだけ眉を寄せる。

「……なんか、嫌な感じはする」

 だが、それ以上は言わない。

 キーパーが扉に手をかける。

「行くぞ」

 軋む音。

 扉の向こうから、一瞬だけ会話が止まった。


 扉を開ける。

 中の空気が外へ流れ出る。

 熱気。

 酒。

 そして。

 無数の視線。

 一斉に、こちらへ向けられていた。

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