第3話 夕暮れの街で生き残った(前半)
第3話
「しかし…移動手段が徒歩だけってのも味気ねえよなぁ〜。」
クラッシャーが気怠そうに話す。
飛行型マモノとの戦いが終わり、歩き続けて数時間ほど経っただろうか。 エリアによって空の色も、星の位置も変わるらしく、太陽や星が動かない空では、時間の流れが読めない。
ナイトタウンから離れるほど、空は赤く夕暮れのような景色が広がる。 まるで時間が逆行しているかのようで、慣れない。
「移動系の能力者でもいれば話は別だろうが…。」 そう話すのは、ガンナー。 何故か、俺達と一緒に歩いている。
「…どこまで着いてくる気だ?」 そう俺はガンナーに問いかける。被せるようにクラッシャーも話す 「なんだよ迷子か?知らない大人に着いてったら駄目だぞ〜」
無視されたことを根に持っているのか、意地の悪い言い方をするクラッシャー。
「なに。気にするな。私も仲間を探していたところだ。」
「"も"ってなんだよ。誘った覚えはねえぞ。」
「私もお前の仲間になった覚えはない。あくまでキーパーについていくだけだ。」
「なんだと?」
「ま、まあまあ。ガンナーに助けてもらったのは事実だ。そう邪険にしなくても…」
この2人、すこぶる相性が悪いらしい。道中ずっとこんな調子で言い合っている。
「お前達も一人じゃないところを見ると、考えていることは同じだろう。私は戦力になるぞ。」
「まぁ確かにな。遠距離系だし、なによりあの巨大なマモノを一撃で倒せる奴は中々いねえ。」
「とはいえ、この世界じゃ信用ならない者と組むのは危険だろ。」
俺がそう言うと、ガンナーは俺の目を真っ直ぐ見て答える
「キーパーは我が身を顧みず、仲間を救っていた。あの姿だけで信用できる。」
「そ、そうか。」
「変なやつに気に入られちまったな。相棒。」
茶化すクラッシャーを尻目に、進み続けると視界の奥に、巨大な石門が見えてきた。
それと同時に、空気が変わる。どこかから暖かい風が吹き、門の向こう側からは人の賑わいが聞こえてくる。
「あそこが、サンセットタウンだ。」
石壁に囲まれた街。そこまで大きくは無さそうだが、ここからでも人の気配を感じるということは、それなりの人数がいるのだろう。
「サンセットタウンか⋯」
ガンナーが不安そうに話す
「別のエリアにいた頃、聞いたことがある。通称"時の止まる街"」
「時の⋯止まる街?」
俺は復唱する。
「あぁそうだ。あそこに一度行ったものは、二度と戻ってこないとも言われてる。」
「なっ⋯!?」
二度と戻ってこないと言われ、警戒心が高まる。ガンナーも、鋭い眼光でクラッシャーを見る。
「襲われたら、どうする?明らかに数では勝てないぞ」
そう言うガンナーに、いつものニヤケ面のクラッシャー
「安心しな。二度と戻らないと言っても、死ぬわけじゃねえ。 ⋯むしろ逆さ。」
「逆?」
「サンセットタウンには、自警団があり、リーダーと呼ばれる統治者もいる。その統治の下で"勝手な戦闘が禁止されている"のさ。」
「戦闘⋯禁止。」
「そ。生存者達にとって、安心して過ごせる楽園ってわけだ。だからこそ行けばそこに住み着いちまう。」
「だから⋯二度と戻ってこないってことか。」
「へへへ。俺達も住み着いちまったりしてな。」
生存者たちにとって、安住の場所。そんな場所もあるのかと、俺は感心した。
どこまでも、第一ラウンドとは様相が違う。これもまた、第二ラウンドの"仕組み"なのだろうか。
「止まれぇい!」
門に近づくと、二人の男に止められた。門番なのだろう。
俺達は言われた通り、その場に立ち止まる。
「お前たちの名前を教えてもらおうか。」
眉間に深いシワのある、スキンヘッドの門番が威圧的に尋ねてくる。
クラッシャーは俺達に囁く。
「ここは言われた通りにしとこうぜ。」
「あ、あぁ。分かった。」
俺は一歩前に出て答えた。
「俺はキーパー!そしてこの子は⋯」
「私はガンナーだ。」
俺達の名前を聞いて、門番二人は少し話し合っていた。
そしてクラッシャーが両手を挙げながら、歩を進め答える。
「そんでもって俺はクラッシャーだ。別に襲いに来たわけじゃねえから安心しな。」
「クラッシャーだと!?」
名前を聞いた途端、二人の門番は少しの動揺を見せる。端正な顔立ちをした、長髪の男が槍を構えた。 「これまた有名人が来たな。」
そう言われて、クラッシャーは、胸を張って笑う。 「そりゃどーも!」
「Aランカー様がわざわざ来るとは⋯殺しにきたのではないなら、どんな要件だ。」
「なに、ドクターに会いに来た。俺の"仲間"を診てやってほしくてな。」
「仲間だと⋯?どこの派閥にも属さなかった、あのクラッシャーに⋯?」
そう言って、またスキンヘッドと長髪の門番二人がコソコソと話し合う。
少し話した後、スキンヘッドがクラッシャーに向かって言う。
「⋯わかった。リーダーに確認してくるから、少し待っていろ。」
そう言って、スキンヘッドは門の中に走っていった。
長髪の男は、まだ槍を構えたままだった。
「⋯派閥?」
そう確認する俺に対して、答えたのはガンナーだった。
「そう。知っての通り、この第二ラウンドはチーム戦の様相を呈している。 だからこそ、有力な生存者は大体どこかの派閥に属している。」
「俺みてぇなAランカーは、だいたいどっかしらの派閥に居るのが普通なのよん。そんで他のチームを牽制しながら、派閥の者全員でSランクを目指す。」
(牽制⋯。なるほどな。)
その言葉でピンときた。
ルールとして"Sランカーが四人を越えたまま七日が経過"してしまうと、Sランク未満の者は全員死亡する。
つまり、全員生存の為にはSランク直前ギリギリで維持しつつ、仲間のスコアを稼いでやって、全員で一気にSランクになることが必須。
逆に言えば、他のチームの者が勝手にSランクになられると困る。だからこそ、他のチームを牽制しつつ、全員で助け合いながらスコアを稼いでいく。
「そのための派閥⋯か。」
「そゆことん。ま、Sランクが三人くらいになってからが、本番みたいなもんだけどね〜」
クラッシャーは薄ら笑いを浮かべながら冗談めかして話す。
「だが、門番の言うとおりだ。私も、クラッシャーの名は聞いたことがある。 ⋯お前なら、どこの派閥からも声はかかっているだろう。」
「もちのろんよ。」
軽い口調でクラッシャーは続ける。
「有名どころで言えば"エンペラー"に誘われたな。あとは"ターミネーター"のおっさんにも⋯。」
その瞬間、ガンナーの表情が少し歪む。
「あー、ターミネーターのチームは崩壊したんだっけな。確か新入りの奴に壊滅させられたって⋯」 「⋯"ジョーカー"だ。」
ガンナーがクラッシャーの言葉を遮る。
「んぁ?」
「ターミネーターを殺したのは、ジョーカーと名乗る奴だった。」
「⋯。」
少しの沈黙。そして俺は察した。クラッシャーも、気づいたのだろう。
「あー!お前のその銃。やけに見たことあるなって思ったら、ターミネーターのオッサンの!」
「そうだ。あの人の超合金で作られた波動銃というものだ。 普通の人には持つことさえ出来ないが、ガンナーの私なら使いこなせるだろうと⋯つくってくれた。」
「ほーん⋯。」
クラッシャーは間の抜けた返事を返す。
「ジョーカーを見つけたら、必ずこの銃で眉間を撃ち抜く。それだけが、私の目的だ。」
復讐の目。俺は何も答えることが出来なかった。 (俺は⋯まだ何も知らないんだな。)
「待たせたな。」
三人で話しているうちに、スキンヘッドの門番が戻ってくる。
「入っていいぞ。ただし⋯」
「先にリーダーと会ってもらう。詳しい話はそれからだ。」
そう言われて、クラッシャーは「あいよ。」とだけ返した。
大きな門が開く。
門の中は、想像よりも遥かに賑わう石造りの街。 道行く人々は皆笑い、騒ぎ、各々の安寧を謳歌している。
街の中に、一切の殺気が無い。
怒号も、爆発音も、金属の軋む音も無かった。
あるのは活気の音だけ。
「……人が、こんなに」
思わず、声が漏れる。
道の両脇には、即席で作られたテントや小屋があり、簡易的な食べ物を提供している者や、歌っている者までいた。
どれも、第一ラウンドでは見なかった光景だ。
「ここが……サンセットタウン。」
俺が呟くと、クラッシャーは軽く頷いた。
「そうだ。生存者達の楽園。来れば二度と戻らない街。そして⋯」
「第二ラウンドで、一番“面倒くさい”場所でもある」
「面倒くさい?」
「ま、そのうち分かるさ。」
そう言って、クラッシャーは指で空を叩く。
「とりあえず、ここじゃ参加者同士の戦闘は禁止」
「武器の使用もアウト」
「能力も、基本は使わねえ」
「破れば⋯?」
ガンナーが短く聞く。
「全員敵に回す」
「文字通り、ここにいる全員。」
冗談めかした口調だが、目は笑っていなかった。
「でもよ……」
クラッシャーは、歩きながら続ける。
「だからこそ、ここに人が集まる」
「戦いに疲れたやつ、逃げ場を失ったやつ……」
「“もう殺したくない”って思ったやつとかもな」
その言葉が、胸に引っかかる。
――殺したくない。
それは、弱音。
この世界では、致命的な弱さだ。
だが同時に、俺がずっと押し殺してきた感情でもあるような気がした。




