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第31話 救出へ

第31話


 死神が鎌を振り上げた。

 黒い霧を引きずる巨大な刃が、ゆっくりと弧を描く。

 その動きは遅いが、妙な圧力があった。


 振り下ろされた瞬間、霧と共に空気そのものが歪む。

 ズォン――

 キーパーは横へ跳んだ。

 鎌は床を掠めただけだった。

 だが、刃が通った軌道に黒い霧が残る。


 霧は地面に触れた瞬間、ゆっくりと広がった。

「……厄介だな」

 キーパーは構えたまま呟く。

「霧が晴れるまで、多少のタイムラグがある。有効範囲も広いし、うかつに動きまわれない。」


 死神は再び鎌を振り上げる。

 動きは確かに遅い。

 だが、そこに焦りは無い。

 ただ淡々と、処刑の手順を繰り返すような動きだった。

 振り下ろしのタイミングを見計らい、キーパーは踏み込んだ。

 拳が振り抜かれる。


 ブンッ!!


 黒鉄の拳が、死神の胴を捉えた。

 だが――

 手応えは無い。

 死神の体が、黒い霧となって弾け空中へと霧散する。

「……!」

 死神に触れた瞬間、脳裏に流れてくるのはフィアーの断片的な記憶と恐怖心。


『独りは…怖い。』


『だ、誰か…』


『あなたの力はとても素晴らしい!』


『その力を使って、人々を統治するのです!』


『や、やめてください!もう襲いませんから…!』


 ハッと意識を取り戻す。

 目の前に広がる黒い霧が吸い寄せられるように一点へ集まる。

 そして。

 再び、死神の姿を形作った。

 鎌を持ったまま。

 何事もなかったかのように。

「……触れるのすら駄目、か」

 キーパーが低く呟く。

 死神は再び鎌を振る。

 遅い。

 だが確実だ。

 キーパーは身体を沈めて避ける。

 その背後から、乾いた銃声が響いた。

 バンッ!

 弾丸が死神の頭部を撃ち抜く。

 頭部は弾け飛んだ。

 だが――

 黒い霧がふわりと散る。

 そして。

 再び収束し、頭部を再構築した。

「……やっぱりな」

 レンが舌打ちした。

「こいつは、殴ろうが撃とうが意味がない」

 死神が鎌を振る。

 レンが横に転がって避けた。

 キーパーが前へ出る。

「レン、すまないが時間を稼いでくれ」

「任せてくれ」

 レンは銃を構えたまま笑った。

「これだけトロいんじゃ、的当てにもならないさ」

 再び銃声。

 バンッ

 バンッ

 弾丸が死神の胴体を貫く。

 死神は霧となって崩れる。

 だが、再び集まり、形を取り戻す。

 この死神は壊れない。殺せない。

 ただ形を散らされているだけだ。

 だが、霧散して結合するまでの時間は稼げる。できる限り大きく霧散するように、ギリギリまで近づいて閃光を撃ち抜く。


 その瞬間だった。

 死神の口が、大きく裂けた。

 ギィイィ――

 喉の奥が暗く蠢く。

 そして。


 ブシュゥゥゥッ!!


 死神の口から黒い霧が噴き出した。

「ッ!」

 キーパーが跳ぶ。

 霧が床を覆う。

 触れた場所から、じわじわと黒い靄が広がる。

 レンは後退したが、つま先が霧に触れてしまう。

「……うっ!」

 その霧に触れた瞬間。

 胸の奥に、冷たいものが刺さる。

 孤独の感覚。

 息が詰まる。

 心臓が嫌な音を立てる。

「……あいにくだが」

 レンが歯を食いしばる。

「私には…守ってくれる仲間がいるのでな。」

 まっすぐ死神を見据える。その眼差しは、恐怖に屈するものではない。

「お前は何故住民たちを恐怖で縛るんだ」

 フィアーは俯きながら押し黙る。


 そのときだった。

 フィアーの左手。

 口の紋様が開く。

 そして。

 言葉が漏れ出した


『いやいや、本当に独りって怖いんですよ』

 想定以上に、軽快な語り口にキーパーとレンは一瞬面食らってしまった。



 フィアーの右手は、驚くほどの饒舌。

『僕は第一ラウンドでそりゃあえらい目にあってね。』

 フィアーが目を見開く。顔を真っ赤にしながら。

「や…やめろ」

 左手を押さえる。


 だが、声は止まらない。

『むぐ…そんで仲間が必要だ…ぐむむ…つってね。それなのに僕の能力じゃ誰もムガッ…』

 あまりにも、滑稽な姿に気を取られレンの真後ろまで死神が迫る。

「レ、レン!」

 キーパーの声に気づき、間一髪のところでレンは鎌を避ける。


『僕がこの街に流れ着いたとき、ひどかったんムグッ…ですよ。日常的に戦い合っていて』

 

『だから仕方なく、この力を使って止めたんですわ!』

『そんなときにね!ヨロコビって名乗る人が来ましてね!』

「ぬぁあやめろ!だ、黙れ!」

『あなたの力で…くぉ…この街を…統治してみないかつって』

「お、落ち着けフィアー!」

「そ、その恥ずかしい喋り方を、なんとか、しろ!」

 キーパーが一歩踏み出す。

『ヨロコビは不思議と僕のこと怖がらなかったんですよ!』

 また、近づいてきた死神が鎌を振ろうとする。


 ズバァン!


 だが、鎌を振り下ろす前に、レンの撃ち出した蒼白の閃光が死神を一時的に霧散させた。


「フィアー」

 声をかけると、耳まで真っ赤にして俯くフィアーが震える。

「く、来るな」

「お前は、この街を良くしたかったのか?」

 レンが再結合した死神へ銃を撃つ。

 霧散。

 再結合。

 時間を稼ぐ。

 その間にキーパーが近づく。

「お前」

「ヨロコビに言われるまま、この街を動かしてたんだろ」

 フィアーの肩が揺れた。

「『……だって』」

「『そうしないと』」

 言葉が詰まる。

 左手の口が喋る。

『僕に仲間なんかできやしない』

 キーパーは止まらない。

「西地区に住民を連れて行かせているのは、どういうことだ?」

 死神が鎌を振る。

 レンが銃撃。

 霧散。

『連れ去っているのは、お前たちのような侵入者じゃないのか?』

 フィアーの右手に対して、キーパーが言う。

「ヨロコビが売り払っている」

 フィアーが凍りついた。

「……え?」

『そんなわけあるか!ヨロコビは街を良くするためにたくさんアドバイスをしてくれたいい奴なんだ』

「アドバイスだぁ?」

 レンは懐疑的な目を向ける。

『音楽やカジノをつくったら街の人が喜ぶって』

「無理やり働かせてたりな。」

『街を発展させるために、怠けるやつは働かせなさいって』

「なにが発展だ」

「…レン、あんまり野次を言うな」

 キーパーは真剣な眼差しで断言する。

「…お前は、ヨロコビに騙されてるんだよ。」

 フィアーは驚愕の表情を浮かべる。

「キーパー、コイツが嘘を吐いてる可能性も…」

 言いかけるレンを一瞥して、キーパーは続ける。

「とりあえず、ハンマーはどうした」

『君の仲間の女の子?それなら奥で眠らせているよ。僕は誰かを直接傷つけたりしたことはない』

「…本当だろうな。」

 レンが睨むと、フィアーは咄嗟にキーパーの背中に隠れる。

『なんか君と違って怖いなこの子。全然似合わないね君たち!』

「なんだと!!?!?」

『ヒェエエー!』

「フィアー。」

 キーパーは背中に隠れるフィアーに向かって話しかける。

「独りが怖いのなら、俺たちと一緒に来い。」

 静かな声だった。

 その瞬間。

 死神の体が、わずかに薄くなる。

 フィアーが震える。

「……え?」


 薄くなりながらも、死神が再び鎌を振る。

 フィアーの軽口に激昂したレンは、一瞬回避が遅れる。

『あ、あぶない!』

 死神の鎌が大きく弧を描いた。

 その瞬間。

 キーパーが飛び込んだ。

 ガンッ!!

 鎌が黒鉄の義手に叩きつけられる。

 衝撃。

 キーパーの体が後ろへ滑る。

「……ぐっ」

 レンが息を呑む。


 キーパーは歯を食いしばる。恐怖に呑まれないように、鎌を振り抜かれないように。

「俺は、仲間を必ず守る」


 フィアーの目が見開かれる。

 死神の体が、さらに薄くなる。

 黒い霧が、ゆっくりとほどけていく。

「……なんで」

 フィアーの声が震える。

「なんで……」

 キーパーが立ち上がり、肩をすくめた。


「俺たちの言うことが信じられないのなら、西地区へ行くぞ。」

「に、西地区!?」

『あそこはやばいって話、聞いてるよ!こわいって!』

「お前のことも、俺が守る。」

 静かな一言だった。

 その瞬間。

 死神の体が崩れた。

 霧がふわりと空中に散る。

 再び集まろうとして――

 止まった。

 霧はそのまま、薄くほどけていく。

 消えていく。

 やがて。

 完全に消失した。

 静寂。

 フィアーがその場に崩れ落ちる。

「……終わったか」

 レンが息を吐いた。

 キーパーがフィアーの前に立つ。

「とりあえず、ハンマーはどこにいる」

 フィアーは弱々しく答えた。

「……奥の部屋」

 レンが顔をしかめる。

「本当に無傷だろうな?」

「ほ、本当」

 フィアーは俯いた。

「そ、その、女の子だし…なおさら…」

 キーパーが頷く。

「よし、案内してくれ」

 フィアーは小さく頷いた。

 そして。

 三人は、館の奥へ歩き出した。

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