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第28話 アドバイザー

第28話


 地下闘楽場に、もう歓声は残っていなかった。


 石畳の上に転がるマモノの死骸。

 砕けた鉄柵。

 血の跡。

 そして――


「……ぐっ……」

 床に押さえつけられたヨロコビ。

 キーパーの拳が襟元を掴み上げ、体を引き起こしている。レンの銃口は額に押し付けられたままだ。

「さて」

 レンが軽く首を傾ける。

「どこから聞く?」

 ヨロコビは、血まみれの顔で笑った。

「……ふ、ふふ」

 口から血を吐きながらも、金の歯の残った口元は楽しげだった。

「もう、終わりですか?」

 次の瞬間。

 ドゴッ!!

 キーパーの拳が顔面に叩き込まれた。

「がっ……!」

 ヨロコビの体が床を転がる。

「今から聞く質問に答えろ」

 キーパーの声は低い。

「まず、フィアーの館はどこだ?」


 ヨロコビは咳き込みながら笑った。

「ガハッ、はは……」

「館、ですか」

 レンが足でヨロコビの肩を踏みつける。

「ぐッ⋯!」

「そうだ。さっさと答えろ」

 銃口が額を強く押す。

「さっきまでペラペラと、威勢良く喋ってただろ」

「フィアー、フィアーって⋯」

 ヨロコビは目を細めた。

「……あんな奴の情報なんて、いくらでも話してやりますよ。」

 少し考えるように天井を見上げる。


「ただその前に、これはゲームのはずだ。情報を話す代わりに、私の命は保証してもらいたい。」

 飄々とした言動に、引き金を握るレンの指に力が入る。

「すぐに撃ち抜いてやっても⋯」

 しかし、キーパーがレンの肩を押さえ、首を横に振った。

「良いだろう。仲間を救うことが最優先だ。」


「約束でずよ⋯。

フィアーの館は、あの観覧車でず。」

 レンの眉が動いた。

「ふざけてるのか?」

 ヨロコビは、喉を鳴らして笑った。

「はは、ふざけてなど。フィアーが観覧車から出てくるところを見たでしょう。」


「金のゴンドラに乗りなさい。そのゴンドラだけは、フィアーの館⋯、いや観覧車の地下部屋に続いている。」


 沈黙。


 レンとキーパーが一瞬だけ目を合わせる。

「……そうか。」

 キーパーが言う。

「えらくあっさり話すんだな。」

「それに、部下のくせに呼び捨てなんかして⋯

お前はフィアーが怖くないのか?」

 ヨロコビは笑った。

「部下?怖い?」

「とんでもない」

「私は――」

 血を吐きながら、ゆっくり言う。

「商売人ですよ」

 レンの銃口がさらに押し込まれる。

「回りくどい」

「簡潔に言え」

 ヨロコビは肩をすくめた。

「簡単ですよ。」

「私はフィアーを利用しているに過ぎない。」


「お互いにね」

 キーパーの目が細くなる。

「どういう意味だ」

 ヨロコビは地下闘楽場を見回した。

 砕けた賭け札。

 散らばった硬貨。

 血まみれの闘技場。

「奴は、孤独を恐れている。」

「誰からも恐れられ、誰からも愛されない。」


「せっかく素晴らしいチカラを持ってるというのに、てんで矛盾した心を持っている。」

 レンが冷たく言う。

「それで?」

 ヨロコビは笑う。

「そんな中、私という奴を"恐怖しない"存在が現れた。」

「そして、"アドバイザー"になってやったんです。人が集まり、人を束ねる方法をね。」


 沈黙。

 キーパーが答える。

「……お前が?」

「そう。この闘技場もそう。劇場だって、楽団だって⋯。」

 ヨロコビは血を吐きながら高笑いをする。

「傑作ですよねぇ!言ったらなんでも素直に実行して!!

どっちかといえばアイツが私の部下ですよ!」

「貴様⋯!」

「彼に言いました。せっかくチカラを持っているんだから、そのチカラを利用しなさいと。」

「そして、邪魔する者は容赦なく⋯排除しろとね。」

 撃鉄を鳴らしたい衝動に駆られるレン。しかし、ヨロコビはお構いなく話し続ける。

「裸の王様。ですよ、彼は。」

 キーパーの拳がわずかに震える。

 だが――振り下ろさない。

 拳をゆっくりと握り直し、低く言った。

「……ディーラーはどうした」

 怒りを押し殺した声だった。

 ヨロコビは口元を歪める。

「なぁに」

 再度血を吐きながら肩をすくめた。

「役立たずの用無しは、西地区のとあるツテに買い取ってもらっている。それだけですよ」

 レンの銃がわずかに震えた。

「……売ったのか」

 ヨロコビは楽しそうに笑う。

「商品ですからね」

「デイブレイクタウンでは、なんでも金になる」

 キーパーの瞳が静かに細くなる。

「……悪魔の贄と言っていたな」

「それは――」

 レンが言いかけた、その時。

 ヨロコビが笑った。

「報酬としてはこれぐらいで良いでしょう」

 血まみれの顔で、ゆっくりと指を鳴らす。

「……時間です」

 パチン。

 乾いた音。

 次の瞬間。

 ゴゴゴゴゴゴゴ……

 地下闘技場の石畳が震えた。

「……!?」

 キーパーが振り向く。

 闘技場の中央。

 石の床が、ゆっくりと盛り上がる。

 亀裂。

 そして――

 ドゴォォォン!!

 石畳が爆ぜた。

 土煙の中から、巨大な何かが突き上がる。

 それは――

 巨大なワーム型のマモノだった。

 人の体など軽く飲み込めそうな、太い肉の柱。

 節のない肉の柱のような胴が、何メートルも続いている。

 頭部には目がない。

 あるのは、縦に裂けた巨大な口。その奥には、幾重にも並ぶ円形の牙。

 そして――

 ヌルリ。

 粘液に濡れた口が開いた。

「……新たなマモノか!」

 レンが銃を向ける。

 だが。

 その前に。

 ブシュゥゥッ!!

 口の奥から、黒い液体が噴き出した。

「ッ!」

 キーパーが咄嗟にレンを引き寄せ、守るように抱きしめる。

 液体が、キーパーの肩や腕に飛び散る。

 ジュウゥゥ……

 煙が上がった。

「……毒か!?」

 レンが顔を歪める。

 キーパーの義手に黒い液が流れ落ちる。

 その間にも。

 マモノは闘技場中央から体を伸ばしていく。

 そして。

 その胴体の上に――

「いやぁ」

 ヨロコビがよろめきながら立ち上がった。

 血まみれの顔で、楽しそうに笑う。

「楽しかったですよ」

 マモノの肉の背を足場にして、よじ登る。

 レンが銃を向ける。

「逃がすか!」

 発砲。

 蒼白の閃光が走る。

 だが。

 マモノの体が大きくうねった。

 弾は肉をかすめただけで逸れる。

 ヨロコビが笑った。

「残念」

「この子は、地面を泳ぐのが得意でしてね」

 ワームの体が大きくうねる。

 石畳の亀裂がさらに広がる。

 キーパーが踏み出す。

「降りろ!」

 ヨロコビは肩をすくめた。

「おやおや」

「まだ遊びます?」

 そして。

 マモノは、闘技場に穿たれた大穴へと戻っていく。

 ワームの体が、その穴へと潜り始める。

 ヨロコビが振り返った。

「そうそう」

 最後に言う。

「フィアーのこと殺ってもいいですよ。」

 そして。

「ある意味――」

 言いながら、ニヤリと笑う。

 ワームが地面に潜り込む。

 ズズズズズズ……

 巨大な体が、地下へ消えていく。

 最後にヨロコビの声だけが残った。

「アイツももう、役立たずの用無しですから。」

 ズドン。

 完全に地面が閉じた。

 静寂。

 闘技場には、崩れた石畳だけが残る。

 レンが舌打ちした。

「……逃げられた」

 キーパーはゆっくりと拳を下ろす。

 そして。

 闘技場の天井を見上げた。

「観覧車か」

 レンが銃を構え直す。

「とりあえず、行くしかないな」

 キーパーは短く頷いた。

「すぐにハンマーを助けにいく」

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