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第22話 黒鉄の左腕

第22話


 スクラッパーに案内された先は、運河沿いの工房街の最奥だった。


 北地区に入ると、鉄と蒸気の匂いが濃くなる。金属を削る高い音が、一定のリズムで響いていた。


「ここだ。」

 分厚い鉄扉の前でスクラッパーが立ち止まる。

 躊躇なく扉を叩いた。

「メーカー!おもしれぇ素材連れてきたぞー!」


 数秒の沈黙。

 やがて内側から重い鍵の外れる音。 扉が軋みながら開いた。

 中は、異様だった。

 天井から無数の義肢が吊るされ、壁一面に機械部品が並ぶ。

 作業台には未完成の腕、脚、目玉型の装置。蒸気管が蜘蛛の巣のように張り巡らされている。


 その中央で、無造作にゴーグルをかけた人物がこちらを見た。

「なんだ。」


「コイツに義手を作ってやってほしい!俺のトモダチだ!」


「……欠損、左肩から上腕までか。」

 じろりとキーパーの全身を見て、最後に欠損した左肩から先をなめるように見た。


 小柄な身体に似合わず、筋肉が盛り上がった腕。顔の肌はシミだらけで、長い白髪を無造作に結んでいる。

 それが、メーカーだった。

「このお方は、万能製造者でな!ちょいと無愛想だが、どんなものでもつくりあげちまう!」

 スクラッパーが陽気に紹介する。

 メーカーはキーパーの肩口をじっと観察している。 触れもしないのに、まるで内部構造を見透かしているようだった。

 

 スクラッパーの紹介を無視して、メーカーは振り返り工房の奥へと歩いていく。

「生憎だが俺はそこまで暇じゃねえ。」

「ちょ、ちょいちょいメーカー!」

「そいつの身体は、異物を拒絶するだろう。

 外部から付与された強化じゃ、身体が受け入れない。」


 ーー恐らく、能力の影響だろうな。そう吐き捨てるメーカー。キーパーにも、心当たりはある。


 スクラッパーが肩をすくめる。

「だーかーら、頭のネジ外れてるお前に頼んでんだよ。アンタなら、"何でも創れる"。」

 メーカーは鼻で笑った。

「はっ、そもそもやってやる義理はねえ。」

 即答だった。

 

 そのやりとりを聞くレンの視線が鋭くスクラッパーに向けられる。

「報酬は前払いの約束だ。」

 スクラッパーは冷や汗をかきながら「まぁまぁ落ち着いて」と小声で言っている。

 既にスクラッパーの中でレンに対する恐怖心が植え付けられたようだ。


 スクラッパーはメーカーに向き直す。

「なぁ、メーカー。ついさっき、人体が限界以上に改造されたランク狩りが東地区を襲ってきてな」

 その一言に、メーカーの肩が一瞬ビクリと揺れた。

「明らかな異常改造でよ。しかも分解したパーツには黒鉄が使われてたんだが⋯」

 

 スクラッパーの手には、ランク狩りの蒸気炉に使われていたであろう、鈍い光を放つ黒鉄があった。

「メーカー⋯お前じゃねえだろうなぁ〜?」


「⋯わ、ワシはただ依頼を受けただけじゃ。」

 あからさまに動揺するメーカー。スクラッパーは見逃さない。

「東地区総出を挙げてテメェに賠償請求しても良いんだぜ⋯蒸気塔も壊されてよ⋯。」


「⋯。」

 観念したのか、メーカーは棚から黒鉄の義手を取り出した。過度な装飾はなく、機能性だけを追求した構造。


「見る限り、タンク寄りの役回りなんだろう。

この義手は誰にも馴染まない。重い。違和感が出る。戦闘中に動きが鈍る可能性もある。」

 ーーだが。と言葉を続ける

「壊れない。硬さだけを追求した義手だ。それでも良いなら付けてやる。」

 キーパーは即答した。

「構わない。」


 作業台に座る。

 接続。

 蒸気弁が鳴る。

 金属が肩口に噛み合う。


 この男は、どんなモノでも"創れる"のだろう。だが、創った設備を扱い、人体に接続し、さらに組み合わせて新たな形にする。

 それは能力だけではなく、積み重ねた時間の結晶だった。



 鈍い痛み。

 つながった左腕が、重い。

 動かそうとする。

 遅れる。

 半拍、感覚が遅れる。

「……なるほどな。」

 メーカーが興味深そうに呟く。

「予想通り、身体が“異物”として認識している。使いこなせるかどうかは、お前次第だな。」

 メーカーはすぐに視線を逸らし、奥の工房に下がる。小さな槌を握りしめ、別の作業を開始した。

 それをハンマーは、憧れにも似た眼差しで見つめていた。


 キーパーは拳を握る。

 ギギ、と金属音。

 力はある。

 だが、しっくり来ない。

「ま、無いよりはマシだ。」

 スクラッパーが笑う。

「とりあえず約束は守ったな?」


 そのとき。

 外から慌ただしい足音。

「スクラッパー!まただ!人さらいだ!」

 スクラッパーの表情が変わる。

「場所は?」

「街の外縁!運河の向こう!今回は大勢だ!」

 キーパーは立ち上がる。

 左腕が、重い。

 だが――

「試運転だな。」



 案内されたのは、東地区から運河の流れに沿って街を出た先にあるオアシス。

 本来は恵みの場所となるはずのオアシス周辺には、たくさんの廃倉庫群があり、端材や部品が捨てられている。


 倉庫の前には、十数人の集団が立っていた。

 足元には縛られた住人もおり、泣き声を押し殺している。

 そして、その背後。

 影が、揺れている。

 さらに上空にも何体かの影が見える。

 空気が冷えている。


「……アイツらがランク狩りの大元か」

 レンが低く呟く。

「そうだと思うが⋯。」

 キーパーは一歩前に出た。

「少なくとも一人、匂いが違う。」

 指さした先。十数人のあらくれ者たちの中に、一人だけ異質な黒衣の男。

 フードを被り、顔は見えない。

「アイツは、相当やるな。」


 キーパーたちを見つけたランク狩りの一人が声を張り上げる

「よく来たなあ!!Bランク以上の奴はソイツらかあ!!」

 その瞬間、影が浮き上がった。

 先程東地区で戦ったマモノより、一回り大きい。またしても犬のような四肢。

 だが今回のマモノは関節が逆に折れており顔は、無い。ただ暗い穴があるだけ。

 マモノと比べても明らかに異質だった。


 スクラッパーが歯を鳴らす。

「一人ひとりは大したことないんだが、あの“連れ物”たちが厄介なんだ。」

「行くぞ。」

 キーパーが踏み込む。

「まずは一体。」

 レンが閃光を撃ち抜く。大声を張り上げていた男の眉間を貫いた。

「ぴひゃっ⋯」

 他の奴らは青ざめた顔で騒ぐ。

「や!やりやがったなぁあ!!」

「こっちには人質もいんだぞ!?」


「れ、レン!おちつけーー⋯」

「クアドラ・レイ」

 四つの閃光が、縛られ泣きわめく人々の周囲にいるランク狩りたちの眉間や蒸気炉のコアを撃ち抜き爆散させた。

「手を出しそうなら、私が撃ち抜く。」


「ヒュ〜♪」

 スクラッパーが軽い口笛を鳴らす。

「そんなら、遠慮なくっ!」

 走り出し、マモノたちとの交戦が始まる。

(⋯とりあえず、ランク狩りたちはレンに任せるとして、マモノは地上型が三体と、空にいるのは二体か。)


「あとは⋯」

 キーパーは全速力で黒衣の男に向かう。左腕が重く、初速は上げられない。

(だが――両手があるだけで、戦いの幅は広がる!)

 

 黒衣の男は鎌を持ち出し、刃が振り上げられる。

「オマエ、ツヨソウダナァ」

 フードの奥から、赤い眼差しが鋭く光る。

 振り下ろされた鎌をキーパーは左の義手で受ける。鎌が義手の関節部隙間に食い込み、小さな火花が散る。空いた右手でフードを掴む。

 金属が軋む。

 そのまま地面へ叩きつける。黒衣の男の、骨が折れる音が鈍く広がる。

「……悪くない。」

 違和感はある。だが、押し切れる。


 マモノの一体が滑るように接近する。爪で切り裂こうと飛びかかってくるところを、黒鉄の義手で止める。

「傷一つつかんか。いい耐久性だ。」

 そこにハンマーの大槌が横から叩き込まれる。

 マモノの黒い肉片が腹から潰れ周囲へ飛び散った。


 スクラッパーを見ると、すでに一体のマモノをぺしゃんこに潰している。


 飛行型のマモノが空から急襲してくるが、スクラッパーと一緒についてきた街の人々が応戦する。

(勝てる⋯!)


 その、一瞬の隙。一瞬の油断。

 黒衣の男が地面を這い、キーパーの背後へ。

「後ろ!」

 ハンマーが咄嗟に声をかけてきて、振り向く。

 左腕がわずかに重く、反応が遅れた。肩の奥で、能力が軋む。


 黒衣の腕が胸元へ伸びる。その手を咄嗟に右手で掴むと、それは剥き出しの"骨"。

「なっ⋯!?」

 勢いで、フードがめくれる。その下には、大きく口を開いた"骸骨"。

「契約ハ、オマエラノ捕縛ダァ〜」

 その瞬間。

 キーパーは踏み込み、大きく開かれた骸骨の口に義手の拳をねじこんだ。

「ンガハッ!」

 だが――

「砕け散れ。」

 

 左手をそのまま、オーバースロー気味に振り抜く。

バチッ!バチチッ!!

 義手から火花が散る。

 骸骨ごと、拳を地面に叩きつけた。すると義手の甲に刻まれた黒鉄の紋様が赤く走り、爆発した。

 ドガァァァァァン

 砂煙が舞い、廃倉庫が震える。

「あの爺さん⋯、余計なギミック足してやがったな。」

 爆発の中心に居たキーパーも、能力のおかげで無傷。ここまで見越しての自爆効果なら、大したものだ。


 静寂。


 レンが、最後の飛行型マモノを撃ち抜く。残ったランク狩りたちは戦意を失い、逃げようとする。

 しかしスクラッパーが捕まえ、触れた瞬間武器が分解されていく。


 決着は、早かった。


「しかし、この骸骨⋯何者だったんだ。」

「どーせなんかの能力者だろ。気にしたってむだむだ。ほれっ」

 スクラッパーが肩を叩いて、キーパーにハイタッチを求める。

「まぁ、そうだな。」

 パチーン


「住人はこれで全てか?」

「そうだな⋯ひぃふぅみ〜」


『てめぇら!!!動くな!!!』


 振り返ると、隠れていたランク狩りが、一人の住人にナイフを突き立てこちらを威嚇していた。

「オイオイ、もう勝ち目ないって。」

『て、手ぶらで戻っても、殺されるだけだ。せめてこの女は貰っていく!道を開けろぉ!!』

「あんまり無茶するなよ。」

 スクラッパーが苦笑する。余裕な振りをしているが、軽率に動けば人質が死ぬ。

 レンが、銃を握る。

「お、おいその女!!銃を持つな!!コイツバラすぞ!!」

「レン、放してくれ。」

「⋯キーパーが言うなら。」

 レンは銃を静かにおろす。


「道をあけろ⋯あけろ!!」


 皆、おずおずと道を開ける。

 そのとき、スクラッパーが耳打ちをしてくる。

「アイツが通る瞬間、俺が倉庫を分解する、その隙に⋯」

 そのとき"音のない風が一行の間を通り抜けた"。


「ぴぇっ⋯?」

 人質の首を握ったまま、ランク狩りの男の首が、静かに滑り落ちる。


「きっ⋯キャァァ!!」

 人質だった女の膝に、男の首が転がった。

 女は錯乱して首を蹴り上げ、走ってくる。スクラッパーが静かに抱きしめ、落ち着かせる。


「今のは」

「わからん⋯何も見えなかった。」

 見えなかっただけじゃない。何も"聞こえなかった"。


 帰り道、あの"音のない一撃"だけが脳裏に焼付き、誰もが言葉を発することのないまま、東地区への帰路についた。

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