番外編 暇な時間の過ごし方
番外編
『暇な時間の過ごし方』
ナイトタウンの拠点。立体駐車場の中。
相も変わらずネオンの光が窓から覗き込む。
本日のミッションも終わり、外も静かな夜。
「暇⋯ですね。」
シーカーがぽつりと呟いた。
「暇だな。」
クラッシャーが背もたれに身体を預ける。
「よ〜し」
ハンマーが立ち上がった。
「それなら、ゲームしよう!」
「ゲームとは?」
ガンナーが視線だけ向ける。
「うーん⋯」
ハンマーは一瞬悩んだ後、答える。
「殴り合いとか?」
「恐ろしい子ッ!」
「そ、それはやめときましょう。怪我でもしたら大変です。」
「そうか〜。」
「なら⋯こんなのはどうだ?」
クラッシャーが、沈黙を破り不敵な笑みを浮かべる。
「人と狼ゲームだ!」
沈黙。
「……なんだそれ。」
キーパーが苦笑する。
「ルール分かるか?」
「なんとなくわかるな!」
ハンマーだけが元気よく答える。その一言が不安しかない。
「仕方ねえ。説明してやる」
■ 役職
・狼 ×一
・占い師 ×一
・村人 ×三
近くに転がっていた鉄筋の切れ端を五本拾う。
鉄筋の先端に傷をつける。傷が一つなら村人、二つなら占い師、三つなら狼だ。
その後、クラッシャーの雑な説明が続いた。誰も完全には理解していない。
「わかったか?」
「なんとなく⋯。」
キーパーは不安そうに答えるが、他の三人は早くやりたいとばかりに目を輝かせていた。
「こーゆーのは、やりながら覚えるもんだ!」
「ほら、配るぞー。」
ハンマーから、鉄筋を引いていく。
全員、こっそり確認。
誰がどの役かは分からない。
「この鉄筋は自分の前に置いとくんだ。そんで、占い師が占うときは相手の鉄筋を見る。他の人のは見るなよ!」
「そこは信じるのみだな。」
「そんで、狼が夜襲うときは、相手の鉄筋を折る。」
「目を開けて、自分の鉄筋が折られてたら、襲われたってことだね」
「よし、じゃあ夜だ!目閉じてくれ」
全員、目を閉じる。
「占い師だけ、目を開けてくれ!」
クラッシャーの言葉だけが、立体駐車場にこだまする。
「一人だけ、鉄筋を確認して役を見ていいぞ」
「終わったら、目を閉じて」
そして――
「朝だ!」
全員が目を開ける。
「さて、一日目は狼が喰うのは無しだって話だから。」
「とりあえず、占い師は誰だ!?」
沈黙。
「え⋯?」
「う、占い師だよ⋯。いねぇのか?」
クラッシャーはたじろぐ。いるはずの占いが⋯いない。
シーカーは顎に手を当てて考察を開始する。
(こ、これは高等テクニックか?あえて占いを名乗り出ないことで狼を誘い出そうと⋯いやいや出ないだろということは更にこうやって考察していることが⋯⋯)
「すまん。占いとはなんだ?」
キーパーが真剣な顔でクラッシャーを見つめる。
ズコーッ。
シーカーは一人で床に崩れ落ちる。
「え⋯」
「あはは⋯。」
クラッシャーが驚き、ハンマーは苦笑いする。
何故かガンナーだけはキーパーと一緒にこちらを見てくる。
「いや、鉄筋に傷⋯傷二つ無かったか?」
「あぁ。あったな。」
「じゃあ占い師なのよ」
「占い⋯?」
「もういいよ!」
激しいクラッシャーのツッコミが、キーパーのこめかみにペシッと当たる。
「と、とりあえず今回は占いはしてないってことで、次目を閉じたら、誰か一人の鉄筋を見るんだ。いいな?」
「良いだろう。」
「そんじゃ、一人狼だろって奴を吊ろう」
「クラッシャーだろ。」
ガンナーが即答する。
「はぁ!?」
クラッシャーが立ち上がる。
「なんで俺なんだよ!」
「お前は初めて会ったときから怪しい。」
「ふざ⋯ふざけんな!そんなのメタすぎるだろ!」
「メタ⋯?」
キーパーは聞き慣れない単語に首を傾げる。
「それに、さっきキーパーの頭を殴った。許せない。」
「おま、お前みたいな奴が居るとゲームが冷めるんだよ!」
「知らんな。」
「ま、まぁまぁ落ち着いてください。」
一旦シーカーが場を宥める。
「クラッシャーさんには申し訳ないのですが、今回はガンナーさんに賛成です。」
クラッシャーは驚きを隠せない。
「な、なななぜ⋯!?」
「いやもちろん分からないんですけどね⋯なんとなく全体を誘導しているなぁと思いまして」
ガンナーが冷静に言う。
「遺言あるか?」
「お前ら全員が狼だ!!」
「すみません⋯。」
シーカー含め、全員がクラッシャーを指さす。
クラッシャーは壁際に座らされる。
死人扱い。
「よし、夜だ!」
クラッシャーが腕を組む。
「俺は死人だが、ゲーム進行のために仕切らせてもらうぜ」
「つまり、クラッシャーさんは狼じゃ⋯?」
「ねえよ!」
「とりあえず皆目閉じて!」
〜占いと狼行動中〜
「目を開けて!」
「昨夜の犠牲者は⋯キーパーだな。」
キーパーの目の前に置かれた鉄筋は折られていた。
「なっ⋯!?」
「私が守らないといけなかった⋯!」
キーパーよりもガンナーが落ち込んでいる。
「これは演技とは思えない。どうしてもメタ読みにはなりますが、キーパーさんを襲えるのは、ハンマーさん。」
「あなたが、狼ですね?」
シーカーが指を指す。眼鏡が光る。
「えええ!?いやいや、おかしいよ!」
「お前カァ⋯!?」
「いやいや、ガンナーも殺気を出さないで!」
「冗談ですよ。メタはやめましょう。」
「メタ⋯?」
「シッ、俺たち死人はしゃべったらだめだ。」
「メタ。」
シーカーは真剣な顔をして考える。ハンマーはオロオロと残る二人を交互に見ている。
ガンナーは、復讐の炎を目に宿す。
「少し、良いでしょうか?」
最初に口を開いたのはシーカーだった。
「一日目、クラッシャーくんを積極的に吊ろうとしていたのはガンナーさんだ。」
「怪しいからな!出会ったときから。」
「それやめて?」
「クラッシャー、俺たちは話したら駄目なのではないのか?」
「むぐ⋯。」
「すみません、続けますね。そしてここでキーパーくんを襲えば、自然と自分は狼の候補から外れる。そう考えたとしたら、自然ではないでしょうか?」
「な、なるほど。確かに、ついついキーパーを襲うわけないと思っちゃってたね」
「メタをやめるとなると⋯怪しいのはガンナーさんでは?」
場の勢いに乗じて、クラッシャーがぼそりと呟く。
「なんならコイツ、皆が寝たときちょくちょくキーパーの部屋に行ってるぞ⋯」
「え、えええ!?日常的に襲って⋯!?」
「ふ、ふふふふざけるな!!襲うか!少し話をしたいときがあるだけだ!」
「と、いうかクラッシャー!お前は死んでいる!黙っていろ!」
「プププ」
「ま、まぁとりあえず、私はガンナーさんだと思います。」
「いや待て!私は⋯」
「タイムアーーップ!さ、夜が来るので、指をさして!」
シーカーはガンナーに指を指す。対するガンナーは、シーカーに指を向ける。
ハンマーは少し悩んだ後、ガンナーを指さした。
「処刑されるのは、ガンナーだ!キーパーとあの世でもよろしくやってな!」
「ぐぬぬぬ」
「さあ!今、残り二人になって⋯」
「人狼は――シーカー!」
一瞬、沈黙。
「ええええ!?」
ハンマーが跳ねる。
「貴様!」
ガンナーが静かに言う。
「ははは。ちょっと強引過ぎましたかね」
シーカーは、少し照れたように笑う。
「すみません。」
「全然怪しくなかったぞ!」
「だからこそ、ですよ。」
キーパーが小さく笑う。
「完敗だ。」
「疑われないのが一番強いってことか。」
クラッシャーが腕を組む。
「いやー、楽しかったですね。」
シーカーが言う。
ランプの光が揺れる。
「もう一回リベンジだ。」
ガンナーはシーカーを見ながら話す。
「お前絶対シーカーを喰う気だろ」
クラッシャーが叫ぶ。
「今度は俺が人狼だ!」
「絶対バレる。」
ガンナーが即答する。
笑い声が倉庫に響く。
外は、ナイトタウンの闇。
中は、暖かい光。
その夜は、何も失われていない夜だった。




