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第19話 激光の果てに

第19話


 蒼白と黄金が、空を裂く。

 レンの四条の光が走る。対するウツロの日輪がそれを迎え撃つ。


 撃ち抜く。屈折し、掠める。そして弾ける。

 光と光がぶつかるたび、空間が歪む。


「速い……!」  

 キーパーが歯を食いしばる。

 レンの射撃は正確かつ光速。

 ウツロの照射は密度と質量で押し潰す。


 レンは日輪の中心、そのわずかな揺らぎを撃ち続ける。


 だが。

 黄金は、落ちない。


「到達者同士……拮抗、というわけですか……!」

 ウツロの笑みは狂気を帯びている。


 蒼白の光が右肩を抉る。黄金がレンの左太腿を掠め焦がす。


 互いに踏み込む。

 互いに退かない。


「エアリアル・レイ!」

 レンの両肩に浮かぶ銀筒が唸りを上げ、蒼白の噴流を地面へと叩きつける。

 その反動で、レンの身体が音も無く空を滑りだした。


 ときおりウツロはキーパーを狙うが、その全てをレンが撃ち落とす。


 長い均衡の末、

 ――日輪の輪郭が、一瞬明滅する。

 ほんの、わずかに。

 キーパーの瞳が細くなる。

「……光が、薄まってきている!」


 黄金の光線が、さきほどより細い。地面に戻る影が、濃くなる。


 ウツロの呼吸が乱れている。

「……ッ、まだ、だ。」

 断末魔の灯のように、、明滅は加速する。

 レンはその隙を見逃さなかった。蒼白の閃光が、日輪を撃つ。

 ウツロもその閃光を貫く光線を放つが、先程より明らかに威力の落ちた光線は呆気なく散った。


 黄金が、ひび割れる。


「貴様……!」

 ウツロの目に焦燥が走る。

 その瞬間。


 空が、暗くなった。

 日輪が収縮する。


 村全体の空気が震える。

 キーパーが叫ぶ。 「レン!下がれ!」


 ウツロが両腕を広げる。

 日輪が、圧縮される。

 黄金が濃くなり。橙に沈み。  やがて、白へ。


「足りぬなら……」

 掠れた声。

「使い切るのみ。」


 レンが歯を食いしばる。

「レン!」

「救済とは――」

 ウツロの瞳が見開かれる。

「等しく、焼き尽くすことだ。」


 静寂。

 一瞬。

 音が消える。


 そして。

 光。

 サンライズヴィレッジを照らす朝日すら塗りつぶす白い半球が広がった。


 音を消し、影を消し

 建物が消える。

 樹木が消える。

 地面が削れ、光に押し出されるように粉塵が波となる。

 全てを包み込みながら、光は膨張する。



 遠く。

 丘の上。

 避難した村人たちが、振り返る。

「あぁ⋯。私たちの村が⋯!」

 タイガーが歯を食いしばる。 パンサーが目を見開く。

 タイガーの肩に担がれたチーターは、小さく呼吸している。


 彼らの視界の先。

 白い半球が、朝を塗り替えた。


 天を覆い。大地を舐める。

 衝撃波が遅れて到達する。

 草が伏せ。土が舞う。


 そして。

 あらゆる大地を焼ききった光は、やがて霧散した。


「クラッシャー⋯戻ってきてないぞ」

 パンサーは不安そうに、タイガーの横顔を見つめた。

「アイツなら、きっと大丈夫だ。それよりも今は生きて、アイツに恩を返すことを考えよう。」


 タイガーはチーターを担ぎ直し、周囲の人々に話す。

「ついてきたい者はついてこい!!少なくとも、我々の住処は消えた。

⋯神の手によってな。」


「お前は⋯どうする。」

 張り上げた声から対象的に、小さく優しい声で尋ねる。

 尋ねられた少女は、赤く腫らした目を隠さずに答えた。

「ワタシは⋯残るよ。きっと、皆は生きてるはずなんだ。」


「そうか。」

 タイガーたちは、それ以上聞かなかった。 

 歩き出した二人は振り返らない。

 チーターと、そして避難についてきた数十人の住人たちを連れて、静かに南へと歩いて行った。

 一人の少女を、残して。

 


 全てを塗りつぶした"白"は音もなく引いた。

 むしろ、艶やかな黒色が嫌に目立つ世界が戻ってくる。


 そこにはもう、集落はなかった。

 社も。家々も。灯台座も。

 抉り取られた大地が、黒く燻っている。


 風が吹く。

 灰すら残らない焦土の上で、二つの影が重なっていた。

 キーパーが、レンに覆い被さっている。


 焼け焦げた背中から、細い煙が立ちのぼる。

 腕は無意識のまま、彼女を抱き込む形で固まっている。

「……レン。」

 かすれた声。


 返事はない。

 一瞬の、永遠のような沈黙。

 やがて。

「……結局、守られてしまったな。」


 胸元から、くぐもった声。

 キーパーの肩が、わずかに震える。


「……それが、俺の役割なんだ。」

 力が抜ける。

 キーパーはゆっくりと身を起こす。


 レンの姿は戻っていた。プロテクトスーツはいつもの軽装に戻り、蒼白の光もほとんど消えている。


 レンはゆっくりと起き上がる。

 二人は立つ。

 足元に広がるのは、何もない地面。

 境界も、道も、記憶も。

 ただ、風だけがある。


「皆は⋯。」

 キーパーが周囲を見渡す。

 気配はない。


「先に避難したのだろう。シーカーたちを引かせてから、結構な時間を稼げたはずだ。」

 レンは冷静に話し、小さな冷や汗をかくキーパーを落ち着かせる。

「それよりも、ウツロは⋯。」


 レンが改めて周囲を見渡す。

 やはり、何も気配を感じない。

 黄金の残光も。

 狂気も。

 何も。

 レンが空を見上げる。


 太陽は相変わらず昇りかけの位置に漂っている。

 それでも、サンライズヴィレッジに来たときより明らかに白んでいて、どこか薄暗い。

「確かに、朝の時間ってこんなもんだったな。」

 レンは懐かしむように語る。思い出していたのは、遠い昔。

 魂に刻まれていた、過去の記憶。


 しばらくして。


「……一旦、ここから離れよう。」

 短く。

 そして静かに。

 二人の影が、焦土に伸びる。

 村のあった場所に、足跡が刻まれる。


 キーパーが拳を握る。

「いったいどれだけの人を守れただろうか⋯。」

 珍しく弱音を吐いたキーパーに向けて、レンは、首を横に振る。

「少なくとも⋯たくさんだ。」

 いたずらっぽく笑うレン。蒼白の瞳が、まっすぐ前を向く。

「そうだと、いいな。」

 風が吹く。

 何もない大地を撫でる。


 遠くで、かすかに声がした。

 キーパーはそれを聞き、顔を上げる。

 そこには、溶けかけた槌を持った少女がこちらに走ってくる姿。

 一帯に何も無いので近く見えるが、実際には随分と遠くから走ってきている。


「……行こう。」

 レンがうなずく。

 二人は歩き出す。

 サンライズヴィレッジのあった場所を、背に。

 焼け野原に、確かな足音が響く。

 それは、消えなかった光の音だった。


(第ニ章・白夜誅戮編 終)

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