第18話 到達者
第18話
光が、押し潰す。
日輪から収束した黄金の奔流が、キーパーの全身を包む。
皮膚が焼ける。肉が焦げる。骨が軋む。
だが、崩れない。
「……まだだ。」
両脚が地面を削る。膝が砕けそうになる。
それでも、ひれ伏さない。
ウツロが目を細める。
「理解できませんね。」
「聞いてなかったのですか?既に私たちは皆死んでいます。ここは神の創り出した無限地獄。」
「助けること、生き残ることに意味なんてありません。
むしろ、死こそが解放。」
「……理由なんて単純だ。」
キーパーの声はかすれている。
「俺は皆を守る。そして俺も生き残ると決めた。だから耐える。」
黄金が強まる。地面が溶けていく。
キーパーの皮膚が裂け、血が蒸発する。
それでも――
「俺は守る。」
その瞬間。
キーパーの背後、社の正面広間から蒼白の光が4つ。閃光のように撃ち出された光がウツロを襲う。
黄金ではない。白でもない。
薄く、どこか冷たい蒼白のような輝き。
日輪の奔流が、わずかに歪む。
キーパーはその隙にウツロと距離をとる。
ウツロの眉が動く。
◆
時は少しだけ遡り、社から集落に向かって降りていく石階段。
「ガンナー!しっかり肩につかまって!」
「ガンナーさん!大丈夫ですか?」
シーカーたち3人は、急ぎ階段を降りて集落に向かう。
自室に置いてきてしまった、クラッシャーを救うため。
「キーパー、大丈夫かな⋯。」
「彼ならきっと大丈夫です。むしろ今は、我々に出来ることをしましょう。」
「うぅ⋯。」
〜
激しい頭痛に襲われながら、先程聞いたウツロの言葉と共に頭にいくつかのイメージが浮かぶ。
何人かの仲間たち。
指揮をしていた戦艦で、背後から撃ち抜かれた衝撃。
信じていた、守ってきた仲間の銃口。
血が染みて、熱いのに冷たくなっていく体。
自分を、呼ぶ声。
私はーーー。
〜
突然、ガンナーを背負っていた肩が軽くなる。
「えっ!?あっ⋯おっとと!」
ハンマーはバランスを崩しそうになる。
振り返ると、そこにはガンナーが立っている。
いや、正確には浮いている。
そして淡く蒼白色に光りだすガンナーの体。
まばゆい光は、刹那の間だけシーカーとハンマーの視界を覆い、光が収まる先に居たのは
白と青のプロテクトスーツで身を包むガンナー。
両手には元々持っていた銃が二つに割れたような形状のライフルを持ち、両肩には見たこともない白銀の筒が浮いている。
「が、ガンナー⋯?」
「⋯ハンマー。ここまでありがとう。だが、私は戻る。」
「え?」
「私は⋯キーパーを守るんだ。」
そう言って、駆け出すガンナー。
「が、ガンナーさん!」
制止しようとするシーカーの頭上を、ガンナーは軽々と飛び越え避ける。
「そっちは任せるぞ!」
風を切り社へと引き返していくガンナーを、シーカーたちはただ見送ることしか出来なかった。
「仕方ありません。こちらはクラッシャーさんを助けに行きましょう!」
「う、うん!」
◆
黄金色の光に包まれた体。その頬から垂れる血の赤色はひどく目立った。
「キーパーから離れろ。」
ガンナーの構える二つの銃口は、ウツロに向かっている。
「あなたは⋯。」
「ガンナー!?なぜ戻ってきた!?」
「私はアナタに守られてばっかりだった⋯。だから今度こそ、私がアナタを守る役割っ!」
二つの銃口から閃光が放たれる。蒼白の閃光は文字通り光の速さでウツロの右肩と左足を撃ち抜く。
「なんだと⋯!?」
高密度の光を纏い、あらゆる物質を通さない激熱の鎧をいとも容易く撃ち抜く閃光。
ウツロは更に距離をとり、日輪を輝かせる。
「光四刑ッ!」
日輪から4つの光が放たれる。
「させるか!」
だがそのことごとくを、発射直後に蒼白の光が撃ち抜き消滅させる。
(光同士の衝突だから⋯、密度の高い方が貫くのか!)
「それならばッ!」
日輪の中心が黄金に輝く。その色は徐々に濃くなる。眩い金から、ゆっくりと濃い茶色へと変色していく。
その間にも、ガンナーから放たれる閃光はウツロに向かう。
かろうじて急所への直撃は避けるウツロ。
日輪の中心から放たれる光が濃くなる。やがて漏れなく収束した光が、漆黒へと変質する。
「この光には耐えられまい!!」
照準は、ガンナーに向けられている。
「黒点大法ッッッ!!!!」
日輪から、巨大なレーザーが発射される。
「甘い!!」
ガンナーは冷静に銃口を構える。両手と、両肩。それぞれの照準を全て、日輪の片側に集中させる。
「クアドラレイ!!!」
放たれた4つの光が日輪の片側に重なり撃ち抜く。
光の衝撃で日輪は傾き、照準のズレた巨大な光線は空へと消えていく。
恐るべきは、その威力だけではなく"速さ"。
「キーパーは、私が守る。」
「ガンナー⋯。」
キーパーから見て、ガンナーは明らかに異質な姿をしている。服装や武器だけではなく、どこか顔立ちも変わっている気がする。
「キーパー、思い出したんだ。」
「⋯?」
「私は、レン。」
「レン⋯?」
「ガンナーではなく、レンと呼んでくれ!」
「お、おお?」
勝ち気な笑顔。だがその笑顔には、まだどこか幼さが残っている。
そしてその目に宿る闘志の光は、彼女がガンナーだと確信するに足る光。
「なるほど⋯あなたも魂の記憶を思い出したのですね。」
ウツロは軽くよろめきながら、レンを指さす。
「それこそが、この世界の真理ですッッッ!」
「この世界に居る人々は皆、魂の存在っ!そしてこの体は、神より賜りし仮初の肉体ッッッ!!!」
ウツロは激しく興奮している。
「名前だ能力だのは、その肉体が持つ神より借り与えられたスキルに過ぎない⋯!」
「魂が根本より持つ"特性"こそ、本来の私たちのチカラッッッ!」
ウツロは両手を天高く掲げる。
涎を垂らしながら、恍惚の笑みを浮かべる。
「魂の特性と、肉体のスキル。それらが重なったとき、本当にチカラに目覚める!」
「もう一度言いましょう。私は"栄光ノ灯火"!!!」
「アナタと同じ、"到達者"だ!!」
「フッ⋯それならば私も改めて名乗ろう。
私はレン・アサヒナ。
ーー機械仕掛けの銃撃者。」
「キーパーの敵は、全て撃ち抜くっ!!!」
ウツロの目に宿る黄金の光。レンの目に宿る蒼白の光。それぞれが、交錯する。




