第1話 轢かれたけれど生き残った。
第1話
繁華街のような街。至るところでネオンがピカピカと眩く光る。
空は闇より暗い。
真っ暗な空の中に、たった1つ、紫色に妖しく光る巨大な星が漂っている。
そんな街にある、強烈な違和感。
人が1人も、居ないこと。
いや、いるのだろう。どこそこから視線を感じる。
だが、安易に出てきたりはしないのだろう。それはそうだ。
ーーーこの第ニラウンドに進んでいる者は全て、あの凄惨な第一ラウンドを勝ち抜いてきた者たち。
あらゆる能力者たちと殺し合い、奪い合い、そして生き残った者なのだ。
周りから見れば、俺もその生き残りの1人。軽率な行動はしないのが賢明だ。
視線をビシビシと感じながら、俺は上を向く。
ひときわ大きく、高い建物に、巨大な掲示板があり名前とスコアを表示している。
本当なら詳しく見たいところだが…
(やめておこう。一旦、ここから離れた方が良いな。)
突然集団で襲われないとも限らない。まずは第一ラウンド同様、この世界について知ることからだ。
そう思い、俺は視線の少ない方へ向かおうと振り返るとーーー
路地の先、俺の目線の少し遠くに、ネオンに照らされた人型のシルエット。
(早速か…)
その男はこちらを見て、何かに跨った。そのまま前傾姿勢になり⋯
ブゥン!ゥンォボボボボ!!!!
爆発音と共に猛スピードでこちらへ突っ込んでくる。
(なっ、はや…!避けきれなっー)
轢かれる直前、咄嗟にキーパーとしての力を発動させる。
突っ込んでくるソレは俺にぶつかり、激しくふっ飛ばされる。
ガシャーーン!!
俺は、路地に置いてあった看板にぶつかりながら受け身をとった。
「だ、誰だ!!」
「チッ!直撃したのにピンピンしてら。当たりどころが良かったか⋯運の良い野郎なのかァ?」
猛スピードで突っ込んできた男は、俺を轢いた後すぐにこちらへ振り返り、また轟音を吹かしている。
「オメェ、新入りだろぉ?キョロキョロウロウロ…来たばっかだってバレバレだぜえ?」
黒い革製の服を着て、頭には真っ黒な被り物をした男。近くに来たから分かる。その男が乗っているのはバイクーーーーではなく、"アヒルのおもちゃ"に跨っていた。
「あ、アヒル…?」
「アッ!オメェ今バカにしたな!?バカにしただろ!!オメェ新入りのくせに俺をバカにしただろ!!!」
男は早口で捲し立てる。
「色々試したけど、この街にある物で、これが一番機動性が高くて取り回しがいいんだよ!!」
そう言って男はアヒルのおもちゃの羽部分を捻る動作を行う。
(実際に捻られては無いのだが)
ブゥゥブォボボボボ!!
またアヒルから爆発音のようなエンジン音が響き、猛スピードで突っ込んでくる。
「オレっちの"イエロースワン400cc(自称)"をバカにすんじゃねえエエエエ!!!」
ふざけた名前だが、初速から圧倒的なスピードに、俺はまたも
轟音を鳴らしながら、また突っ込んでくる男と"イエロースワン400(自称)"。
(マズイ…!耐えられるとは言っても、次喰らったら大怪我じゃ済まないかも…!)
ブォオォォンォォオオオオオオ
猛スピードで走り寄ってくる。黄色いアヒルが、俺の視界を埋めていく。
(クソッ!耐えろッッッ!)
身構えた瞬間。
ガシャァァアン!
アヒルは突然視界から消えた。
(!?)
「グッハァァ!」
俺の真横から男の声がして、横を見ると、アヒルと男は路地の端でぶっ倒れていた。
「な、何が…」
「あぶねーところだったな!」
また別の声がした。
その声の主は、長い金髪とピアス。顔以外のあらゆる肌に入れ墨の入った軽薄そうな男。
「オイオイ、助けてやったんだぜ?礼ぐらい言ったらどーよ?」
「あ、あぁ。すまん。助かった」
そう言うと、金髪の男はニカッと笑い、"どーいたまし〜"と言った。
そんなやりとりをしていると、アヒルと男がヨロヨロと立ち上がり叫ぶ
「て、テメェは…!"クラッシャー"!」
クラッシャー。"破壊者"。
「へへっ、知ってもらえてるとは光栄だね。俺もゆーめーになったもんだなぁ。」
クラッシャーはそう笑いながらアヒルに近づく。
「このアヒルちゃん…。いや、"イエロースワン50"かぁ?この原付、スクラップにしてやっても良いんだぜ?
なぁ、"ライダー"?」
そう言いながら歩き寄るクラッシャー。
「チッ!ほんっとーに運の良い野郎だな!今日のところは引き上げてやる!」
捨て台詞を吐き、アヒルの羽を捻り、走り去るライダー
ブォン!ブルルル!!!
「へっ、エンジン音だけは一丁前に"白鳥"だな。」
クラッシャーはライダーが走り去るのを見届けて、こちらを向く。
「ま、運が良いってのは当たりだ。このオレサマに出会えたんだからな。」
「ライダーの野郎も、あんなナリだがBランカーだ。"どんなものでも乗りこなす能力"。なかなか手ごわい奴なのは間違いない」
「何故…助けたんだ?」
「なぜって…。お前、モロに轢かれてたじゃん。」
「助けねえと死んじまうかもなって思ったからだよ。」
唖然。一瞬、理解が出来なかった。このデスゲームで見ず知らずの者を"助ける"なんて…
「あー、お前新入りだったか!第一ラウンド終わったばっかなら、そりゃ驚くよな!」
そう言ってまた笑う。
(よく…笑う奴だな。)
「まぁもちろん助けるのも裏がある。立ち話もなんだし、ちょっと俺の拠点へ行かねえか?
…"ここじゃ耳が多すぎる"」
辺りを見渡しながら小声で囁くクラッシャー。
確かに、事の顛末を見届けようという外野の視線は多い。
(まぁ、何かあっても、キーパーの能力があれば死ぬことは無いか…)
俺は、クラッシャーについていくことにした。
◆
クラッシャーは軽い足取りで歩き出す。
ネオンの光を背に鼻歌を唄いながら、まるで散歩でもするような調子だった。
「つっても大した拠点じゃねえけどな。奪った場所をそのまま使ってるだけでよ。」
通されたのは、繁華街の裏にある立体駐車場だった。
だが、ただの駐車場ではない。入口付近のコンクリートはひび割れ、柱の一本は途中から消えている。
奥に進むと、崩れた瓦礫と抉り取られたコンクリートが小さな小屋のように積み重ねられていた。
(……破壊の痕跡か。)
俺が視線を向けると、クラッシャーは肩をすくめた。
「安心しろよ。ここはもう“安全”だ」
「安全……?」
「ほれ。」
クラッシャーが指さした先には、ボロボロの板がコンクリートに突き刺さっていた。
『クラッシャー様の城!』
汚い字で、そう書かれていた。
「これ見て入ってくるバカはそういねえだろ!」
そう言ってまたクラッシャーは白い歯を見せる。
冗談なのか本気なのか分からない口調。
「さて、とりあえず改めて自己紹介だ。俺はクラッシャー。能力はそのまま破壊。ランクは…Aランクだ。」
Aランク。もはや解放条件であるSランクまで、もうすぐそこ。
「俺は…キーパー。能力は…」
少し躊躇する。このゲームにおいて、自分の能力をペラペラと話すものではない。
そう思ったが…
「希望を持っている限り、俺は死なない。」
言うことにした。少なくとも助けてくれた相手。それに、ここで下手な嘘をつくのもなんだがバツが悪い気がしたからだ。
「へっ。キーパー…"耐久者"か。スゲェ能力だけど、お前ってバカなんだな。」
「なっ…!」
突然の罵倒。
「こんな見ず知らずの相手に能力をバラすやつなんて、バカだろ?」
そう言って目を細めて笑う。
「俺が⋯嘘をついてるかもしれないだろ。」
「んにゃ、俺は信じるぜ。お前は嘘をついてねえ目をしてる。」
「それに⋯バカな奴は嫌いじゃねえよ」
クラッシャーは、真っ直ぐ俺を見つめる。
「ま、ぶっちゃけお前がライダーに轢かれても立ち上がってたのは見てた。モロに直撃してたし、防御系の能力だろうなってことはなんとなく分かってたさ」
「なんだ。1回は見殺しにしたのか。」
なんとなく見透かされたことに腹が立ち、俺は言い返す
「1回目は間に合わなかったんだよ!それに⋯」
クラッシャーは少し間を置いて
「あんな程度で死ぬやつは、助ける価値もねえさ」
驚くほど冷たい目をして笑った。この目は、先ほどまでの笑っていた姿より、余程人間味があった。
「価値⋯か。」
「そうそう!さっき言ってたことさ。
お前を助けた"裏"ってやつ。」
そうだ。
人助けなんて、このゲームでどんな意味があるのか。
クラッシャーは、また元のニヤケ面になって言う
「第二ラウンドは、協力が肝だからだ。」
「協力⋯だと?」
「ルールをよく思い返してみろ。今回は、1位が独りで生き残るもんじゃねえ。
今回の解放条件は何だ?」
「それは⋯」
"Sランク到達者が4人以上になって、4人以上のまま7日経過した場合、Sランクは全員解放される"
「そう。つまり⋯Sランクにさえなれれば、殺し合う必要もない。なんなら、Sランク同士は人数が減らないように助け合う必要さえある」
「極端な話、Sランクにさえなることが出来るなら、ここの参加者全員が解放されることだって可能なんだ。」
確かに、そうだ。Sランクの者が全員解放されるということは、4人だけである必要も無い。
クラッシャーは続ける。
「今やおおかたの奴はこのことに気づいてる。だから表立って戦闘が行われることや、やたら恨みを買うようなことはしねえ」
「それに、このゲームの参加者は全員第一ラウンドの生き残りだぜ?雑魚なんていねえ。」
「だからこそ⋯協力か。」
「そーゆーこった!」
クラッシャーは落ちていたコンクリートの欠片を拾い、手で転がしながら「へへへ」と笑った。
「だが、殺し合わずに、どうやってSランクになるんだ?」
「それが協力し合う、もうひとつの理由だ!」
そう言って、持っていたコンクリートを壁に投げる。
「ちょうど時間になった。そろそろ⋯」
クラッシャーがそう言って、静かに空を見つめる。
すると、俺の視界の端が、淡く光った。
『――本日のボーナスミッションを掲示します』
無機質な声。 俺は思わず立ち止まり、空を仰ぐ。
駐車場の奥、クラッシャーの城の壁面に、光の文字が浮かび上がる。
【本日のボーナスミッション】
・制限時間:2時間
・条件:侵入者の討伐
・達成報酬:侵入者一人の撃破につき、500スコア
「……ボーナス⋯ミッション」
空を見つめながら、クラッシャーは呟く
「うーん、今回は美味しくねえな。ハズレだ。」
そう言って、地面に寝転がる。
「侵入者⋯?ハズレ⋯?どういうことだ?」
「まー、侵入者ってのはたまにいる。俺達参加者とはまた別のニンゲンで、敵らしい。」
「あ。他にも、マモノってのもたまに入ってくる。」
侵入者⋯マモノ⋯。俺はますます分からなくなる。
「これ以上聞かれても、詳しいことは俺にも分からねえ!
だが、確かなのは参加者同士で殺し合わなくても、こうやって1日に1回、ミッションが発生して達成すればボーナススコアが手に入る。」
「それに、スペシャルミッションってやつも時々ある。そんときゃ期間も長くて、スコアもでけぇー。」
耳を掻いた小指に「フッ」と息を吹きかけるクラッシャー。
「なるほど。それでスコアを増やしていくのか。」
「ま、内容はまちまちだからな。なんとも言えんけど。」
「それが俺を助けた理由か?」
「そうだ。お前は守護に特化した能力だろ。それなら俺の仲間としてピッタリじゃねえか!」
(破壊と、守護⋯。)
クラッシャーの言うことは一理ある。破壊の能力だと、仲間が出来ても、巻き込む可能性がある。
その点俺なら、耐えられる。
無傷とはいかないかもしれないが。
「なら、この侵入者ってやつを探しに行かないのか?」
「あぁ。これはテキトーな他の奴に任せようぜ。侵入者つっても、弱くねえ。その割に、スコアが少ない。」
あっけらかんと答えて、クラッシャーは目を瞑った。
「死なないことが一番だしな。休めるときは休むに限るぜ⋯」
「ガー⋯ンムニャムニャ」
そしてクラッシャーは、いびきをかきはじめた。
「嘘だろ⋯。」
衝撃だった。こんな無防備な姿を晒して、俺の前で眠るなんて。この隙に殺されるとは考えないのか?
そんなことを考えたが、寝込みを襲う気にはなれない。
俺はなんとなくボーナスミッションの詳細を見る。
【侵入者情報】
ウィザード
ナイト
シーフ
名前と、外見の写真。それぞれどう見ても、自分と同じ人間にしか見えなかった。
第1話 了




