第14話 クラッシャーの脳筋大作戦(後半)
第14話(後半)
社の奥の奥。
ウツロが普段、村全体を監視する部屋「神隠しの間」
そこに恐らく、ウツロはいる。
「ま、ウツロが出てこなかったのはラッキーだったな。」
クラッシャーは頬から垂れる血を拭き呟く。
「確かに⋯。なぜ出てこないのか。この広間での戦いも、見られているはずだが。」
「一つ言えるのは、チーターがやられるとは思ってなかったんだろうな。」
歩きつつ、口に溜まった血を廊下に『ぺっ』と吐き出す。
血の中に歯が一本混じっていた。
甲高い音を立てて、廊下を転がっていく。
「⋯大丈夫なのか。一度、チーターがやり合ってるから分かるが、ウツロは強いぞ。」
「あ〜、やるしかねえだろ。というか、チーターが負けたって方が信じらんねぇ。」
呑気に話しながら歩く二人。
戦闘の疲労か、勝利の高揚か。社が、来たときよりも薄暗く、冷たくなっていることに気づかぬまま。
◆
最初に気づいたのは、キーパーだった。
クラッシャーが自室で寝ているため、起きてくるまでシーカー考案の遊び"さっかぁー"を外の公園でやっていた4人。
体を使うだけでなく、意外と頭も使う。
集落にいた白装束の村人たちも集まってきて、白熱していた。
ハンマーが球を槌で殴る。打ち出された球は、ものすごい勢いでキーパーの立つ"ごぅる"へ。
球はキーパーのちょうど右横へ入りかける。
「よっしゃ!」
ハンマーがワンテンポ早くガッツポーズをしたそのとき、銃声が聞こえ球の軌道が代わり、キーパーの手元へ収まる。
「⋯よし。」
撃ったのはもちろんガンナー。シーカー的"さっかぁ"では、圧倒的ルール違反である。
「んもー〜!だからガンナーはキーパーの仲間じゃないんだって!」
「知らん。皆でよってたかってキーパーに球を打ち込んでいるんだ。私ぐらい味方せねば。」
「⋯ははは。」
地面に線を削り、そこらへんにあった木で枠をつくった"ごぅる"。能力を使おうが何をしようがOK。とにかくごぅるに球を入れれば1点。キーパーに止められたり、ごぅるを破壊してしまうと退場。
そんなシンプルな遊びでさえ、大盛り上がりして既に20人近くの人だかりが出来ている。
「ねえ!オイラも入れて!」
「俺にもやらせてくれ!」
戦いを禁止され、慎ましく生活していた集落の者たちにとって、久しぶりに熱くなれる"娯楽"。
静かな集落に、歓喜の声や楽しい悲鳴が交差する。
そのとき――光が、揺れた。
「なんだか、暗くないか?」
キーパーが周りをキョロキョロと見渡す。
「え?そう?」
一人がよそ見をすれば、周囲の者もつられる。するとシーカーが公園から出た先を指さして
「あそこ!」と叫ぶ。
そこは、居住エリア。
乾拭き屋根の低い家々。それぞれの家から、同じ方向に向かって"影が生えていく"。
家だけではない。周囲の木々や、路地。集落全体に影が広がる。
「な、なんだこれ?」
「影が⋯、伸びて⋯。」
「い、いや違う!"光の方"だ。
影を照らしていた光が、引いているんだ!」
よく見ると、光が社の方へ引いていっていた。集落全体から、淡くぼんやりとした光が、社へと吸い寄せられていく。
しばらくして、伸びていた集落の影は止まった。
「なんだか、村全体が暗く感じる。」
ハンマーが影のある村を見て、話す
「いや⋯恐らくこれが、普通なんですよ。今までが"明るすぎた"。」
「⋯何か、あったのかもしれない。社へ向かおう。」
「クラッシャーは?」
ハンマーの問いかけに、キーパーは少し悩んで答えた。
「いや、アイツも疲れているのかもしれない。寝かしておこう。」
そうして、4人は社へ向かう。
このとき、もし社に向かわなければ。
もしクラッシャーを起こそうと部屋を確認していれば。
世界の結末は、変わっていたのかもしれない。
◆
広間での戦闘の余波で、社全体の壁や柱にきしみがはしる。
隙間から差し込んでいた白光が、脈打つように明滅する。
「あそこが、神隠しの間だ。」
タイガーは続ける。
「俺も、あの部屋には入ったことがない。だが、間違いなくウツロはそこにいる。」
「⋯なぁ、なんかちょっと"寒く"ねぇか?」
後ろを歩くクラッシャーからの疑問。それに応えようとタイガーが後ろを振り向いた、そのとき。
ボッという何かが燃える音と共に
社の白が、濃くなった。
影が消える。
床の亀裂も、倒れかけの柱も、血溜まりも――
白。
そして次の瞬間、視界すべてが塗り潰された。
クラッシャーは地面を殴りつける。"破壊"の力を使う。
床を砕き、床下を穿ち、更にその下の地面までも続くぶち抜く。
タイガーは突然の浮遊感に襲われる。落ちざまに、頭上で爆熱が走り髪の毛先が焦げた。
『その判断に要した時間は僅か2秒』
ほんの刹那でも遅れれば、二人は消し炭になっていた。




