第14話 クラッシャーの脳筋大作戦(前半)
第14話(前半)
クラッシャーが部屋に戻る。
そこには、シーカーとハンマーが二人。
「ありゃ?キーパーは?」
「ガンナーと散歩に行ってるよ〜」
先ほどまでタイガーと話していたクラッシャーにとって、『散歩』という言葉の温度差に、思わず鼻で笑う。
「呑気な奴らだなあ」
言いながら、クラッシャーは自室のドアに手をかける。
「あれ?もう寝るの?」
キョトンとした目で、ハンマーが問いかける。
「あぁ〜。ちょっくら俺も疲れちった!
⋯起こすなよ。」
「⋯?
は~い。」
自室に入っていくクラッシャーの背中を見て、シーカーとハンマーは顔を見合わせて、それぞれ首を傾げた。
◆
タイガーの自室。
クラッシャーと別れて、タイガーも急いで準備を進めていた。
(一刻を争う。)
パンサーの浄化期限もあるが、クラッシャーの作戦的にもゆっくりはしていられないのだ。
ウツロの監視に「光」が関係している。光こそが奴の目であり、支配領域であるということ。
(腑に落ちる点はある。)
この白い村に、影はほとんどない。
陽が差しているとはいえ、建物の裏や裏路地、森の中に至るまで影が落ちていない。
この世界の特異性によるものと勝手に見逃していたが、明らかに不自然だ。
そこまでで、タイガーは考えるのを止めた。
タイガーは部屋を出る。向かう先は⋯社。
〜
『まずは⋯社に入り込む。』
『社に⋯?だがあそこに許可なく入れば、すぐに怪しまれるぞ』
『"下っ端"ならな。』
〜
社に入る。
広間には、能面の男が一人。
「⋯タイガーか。どうした。」
この声は、"ファイアー"。
最も古くよりウツロに従い、忠誠を誓う幹部。
炎を操る力、Zooの仲間も大勢焼かれた。
口数は少なく、冷静。だがその内心は酷く残忍で冷徹な男だ。
「パンサーの件。もう一度だけウツロ様へ直訴させろ。」
「⋯無駄だ。」
「頼む。アイツはオレの大事な仲間なんだ。」
「だからどうした。」
「このとおりだ!」
ズガァァン!!
タイガーは大声で懇願しながら、地に伏せ額を全力で地面に叩きつける。
タイガーの頭から血が流れる。あまりの力と勢い。
床が、割れた。
「⋯なにやってんだ。」
「頼む!!!パンサーは!!!オレの!仲間なんだッッッ!!!」
ガン!
ガァン!
ガアァン!!
何度も頭を上げては地面に打ち付ける。血飛沫が舞う。
「ま、まてやめろ!頭おかしいのかお前は!?」
普段は無口なファイアーが、ひどく焦り動揺する。
タイガーの動きを止めようと駆け寄る。額を打ち付けないよう、タイガーの頭を押さえ込む。
「このまま燃やしてやろうか!?」
凄むファイアーを睨み返し、タイガーが一言
「勝手な戦闘は"掟破り"なのではないのか?」
その言葉に、たじろぐファイアー。
(⋯ぐっ。)
確かに、パンサーの浄化を決行する手前、自分たちが掟を破るわけにはいかない。
(戦うにしても、一度ウツロ様へ確認をとらねばーー)
その一瞬の硬直。一瞬の隙。
一瞬の好機を、タイガーは見逃さない。
「ヌォオオオオオオオオオ!」
タイガーの顔が、虎柄のマスクに覆われていく。
タイガーの変身能力。タイガーマスクを被り、身体能力の向上。膂力や腕力の劇的強化。
そしてーー
自らを抑え込むファイアーの腕を掴む。単純な筋力で前へ押し投げ、俊敏な動きでファイアーの背後に立つ。
ファイアーの両腕を持ち、固めたまま後方へ反り⋯。
「タイガァー!ジャーマンッ!!」
ズガァァァアン
ファイアーの上半身は、社の床に突き刺さる。かろうじて見える足は、ピクピクと痙攣している。
「な、何事だ!!!」
広間に白装束の男たちが複数。そして奥からは二人の能面が近づいてくる。
能面のうち一人、"コントローラー"が血だらけのタイガーを見て、笑い出した。
「ホッホッホ!気でも狂ったかタイガー!」
「勝手な戦闘⋯いや、それよりよっぽど重罪だな。ファイアーに攻撃するなど!」
「フーー、フーー!」
タイガーは肩で息をする。額から大量の血を流し、視界も軽くぼやけている。
白装束の者たちがタイガーにジリジリと近寄り囲む。
(⋯数はおよそ20人。しかも⋯)
奥にはコントローラーと、"チーター"。
「ホッホッホ!前回の抵抗で学ばんかったようだな!それどころか、お前たった独りで何ができる!」
「所詮は獣!⋯白夜衆の者どもよ!」
コントローラーは右手を掲げた。タイガーを囲む20人の白装束たちが構える。
「これは戦闘ではない。"鎮圧"だ。
ウツロ様の手を煩わすな。
裏切り者を殺せぇ!!!」
その言葉を合図に、20人が一斉に襲いかかる。タイガーは両の手で頭をガードする。
ドガァァァァァン!!!!
「な、なんだ!?」
激しい衝撃と共に、砂埃が舞う。コントローラーは突然の轟音に、頭を守りその場に伏せた。
「何が⋯何が起きたのじゃ!?」
周囲が静かになる。
コントローラーがもう一度広間を見ると、20人いた白夜衆が吹っ飛んでいた。
中央には、2つの人影
一つは、タイガー。そしてもう一つ。
クラッシャーが白い歯を見せ、こちらに笑いかけていた。
◆
砂煙の中。
白装束が散乱している。
タイガーの横に立つクラッシャーは、肩をすくめた。
「遅いぞ。」
「へへっ。計算通りだろ。」
そう言った瞬間だった。
――消えた。
コントローラーの横に立っていた、もう一人の能面。"チーター"の姿が、消えた。
風だけが残る。
タイガーの瞳が見開かれる。
「来る――」
言葉は最後まで届かなかった。
ドンッ!
衝撃。
クラッシャーの体が、横へ吹き飛ぶ。
社の柱が砕ける。
「がっ……!」
地面に叩きつけられる。
何が起きたのか、視界が追いつかない。
十数メートル先。
チーターが立っている。
ゆらり、と。
「ホッホッホ。速いだろう?」
コントローラーが笑う。
「コイツは“最速”の能力者だ。」
次の瞬間。
また消える。
今度はタイガー。
ドガン!!
巨体が宙を舞う。
床を転がる。
「ヌグッ……!」
虎のマスクが軋む。
見えない。
影もない。
気配も残らない。
ただ、衝撃だけが来る。
「これは戦いではない。」
コントローラーが愉快そうに言う。
「"蹂躙"じゃ。」
クラッシャーが立ち上がる。
口元の血を拭う。
「なるほどな。」
またチーターが、消える。
――来る。
クラッシャーは動かない。
衝撃の直前。
わずかに体を傾ける。
床が砕ける。
当たっていない。
だが、風圧だけで頬が裂ける。
「しかし、どこから現れた?なぜ、ウツロ様は気づかなんだ⋯。」
コントローラーが先ほどまでクラッシャーの居た所を注視する。
そこには、大きな"穴"が口を開けていた。
「なるほど。貴様ら、ウツロ様の"万視"に気がついたか。」
話しながらも、チーターは止まらない。
再び消える。
連続。
三撃。
五撃。
十撃。
社が崩れていく。
柱が折れ、床が裂け、白い粉塵が舞う。
「どうだ!どうだどうだ!!
これがチーター!
これが最速の生物!」
高揚するコントローラー。
「貴様ら獣には飼育員が必要なんだ!あのメス猫は見せしめだ!殴り嫐り燃やしてくれるわ!」
チーターの攻撃は単純な体当たり。しかしその速さが、体当たりを"斬撃"へと変える。
だが。
クラッシャーは笑っていた。
「速ぇのはいい。」
拳を握る。
「だがな。」
砂煙の中で、声が響く。
「俺の知っているチーターはもっと"バケモノ"だったぜ」
チーターが、わずかに姿を現す。
その一瞬。
クラッシャーの目が細くなる。
「おらよっ!」
クラッシャーは空に向かって拳を振るう。
だがーー
ガンッ!!
地面に、突然現れたチーターが倒れる。
「な、なんだと!?」
「へへへっ⋯。どんだけ性能の良いキャラクターを使おうが、操作する奴が無能だと、この程度だなぁ?」
「な⋯!?」
「速い。速いが⋯操りきれてねぇ。」
クラッシャーは、奥でたじろぐコントローラーに向かって指を刺し笑う。
「コントローラー、お前にとってもチーターは早すぎて、うまく操作出来ないんだろ?」
「ホホッ⋯強がりを!」
チーターはすくりと立ちあがる。そしてまた消える。
社の壁、柱。周囲の至る所を蹴りつける音が聞こえる。
「どうだ!壁や柱で高速の方向転換!どこから、いつ攻撃が来るか分からないだろう!?」
「⋯だからよぉ〜」
クラッシャーは崩れ落ちた身の丈程もある柱を片手で軽々と持ち上げ、バットのように構える。
「どんだけ反射しようが動き回ろうが、直線的過ぎるんだよっ!!」
ガギィーーーン゙!!
フルスイング。
壁に叩きつけられるチーター。
「ホッ!?」
「さて⋯次はお前だよコントローラー。」
言いながら、クラッシャーは親指を立ててグッドポーズを向ける。そしてそのまま手を回転させ親指を下に向けた。
「強キャラ使って粋がってんじゃねえ!」
風を切る音。
コントローラーの背後に、タイガーマスクの目が光る。
「ホホッ!?!?」
両腕をがっちりロックされ、抗えない。チーターを動かす間も無くーー
「タイガーァァァ・ジャーーーーマンッッ!!!」
ゴガァァァァン!!!
コントローラーの体は、床に突き刺さった。
コントローラーの腰から、チーターの腰まで繋がっていたケーブルが、光の粒子となって消えていく。
チーターの動きが、止まる。
「さぁ、後はウツロだけだ。」
クラッシャーはタイガーに手を貸す。
血が止まらない。呼吸が整わない。
それでも、虎の瞳に宿る闘志の光は消えていない。




