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第14話 クラッシャーの脳筋大作戦(前半)

第14話(前半)



 クラッシャーが部屋に戻る。

 そこには、シーカーとハンマーが二人。

「ありゃ?キーパーは?」

「ガンナーと散歩に行ってるよ〜」

 先ほどまでタイガーと話していたクラッシャーにとって、『散歩』という言葉の温度差に、思わず鼻で笑う。


「呑気な奴らだなあ」

 言いながら、クラッシャーは自室のドアに手をかける。


「あれ?もう寝るの?」

 キョトンとした目で、ハンマーが問いかける。

「あぁ〜。ちょっくら俺も疲れちった!

⋯起こすなよ。」

「⋯?

は~い。」


 自室に入っていくクラッシャーの背中を見て、シーカーとハンマーは顔を見合わせて、それぞれ首を傾げた。


 タイガーの自室。

 クラッシャーと別れて、タイガーも急いで準備を進めていた。


(一刻を争う。)


 パンサーの浄化期限もあるが、クラッシャーの作戦的にもゆっくりはしていられないのだ。


 ウツロの監視に「光」が関係している。光こそが奴の目であり、支配領域であるということ。


(腑に落ちる点はある。)


 この白い村に、影はほとんどない。

 陽が差しているとはいえ、建物の裏や裏路地、森の中に至るまで影が落ちていない。


 この世界の特異性によるものと勝手に見逃していたが、明らかに不自然だ。

 

 そこまでで、タイガーは考えるのを止めた。


 タイガーは部屋を出る。向かう先は⋯社。


『まずは⋯社に入り込む。』

『社に⋯?だがあそこに許可なく入れば、すぐに怪しまれるぞ』

『"下っ端"ならな。』


 社に入る。

 広間には、能面の男が一人。


「⋯タイガーか。どうした。」

 この声は、"ファイアー"。

 最も古くよりウツロに従い、忠誠を誓う幹部。

 炎を操る力、Zooの仲間も大勢焼かれた。


 口数は少なく、冷静。だがその内心は酷く残忍で冷徹な男だ。


「パンサーの件。もう一度だけウツロ様へ直訴させろ。」

「⋯無駄だ。」

「頼む。アイツはオレの大事な仲間なんだ。」

「だからどうした。」

「このとおりだ!」

 ズガァァン!!


 タイガーは大声で懇願しながら、地に伏せ額を全力で地面に叩きつける。

 タイガーの頭から血が流れる。あまりの力と勢い。

 床が、割れた。


「⋯なにやってんだ。」

「頼む!!!パンサーは!!!オレの!仲間なんだッッッ!!!」

 ガン!

 ガァン!

 ガアァン!!


 何度も頭を上げては地面に打ち付ける。血飛沫が舞う。

「ま、まてやめろ!頭おかしいのかお前は!?」

 普段は無口なファイアーが、ひどく焦り動揺する。

 タイガーの動きを止めようと駆け寄る。額を打ち付けないよう、タイガーの頭を押さえ込む。


「このまま燃やしてやろうか!?」

 凄むファイアーを睨み返し、タイガーが一言

「勝手な戦闘は"掟破り"なのではないのか?」


 その言葉に、たじろぐファイアー。

(⋯ぐっ。)

 確かに、パンサーの浄化を決行する手前、自分たちが掟を破るわけにはいかない。

(戦うにしても、一度ウツロ様へ確認をとらねばーー)


 その一瞬の硬直。一瞬の隙。

 一瞬の好機を、タイガーは見逃さない。


「ヌォオオオオオオオオオ!」

 タイガーの顔が、虎柄のマスクに覆われていく。

 

 タイガーの変身能力。タイガーマスクを被り、身体能力の向上。膂力や腕力の劇的強化。


 そしてーー

 自らを抑え込むファイアーの腕を掴む。単純な筋力で前へ押し投げ、俊敏な動きでファイアーの背後に立つ。

 ファイアーの両腕を持ち、固めたまま後方へ反り⋯。


「タイガァー!ジャーマンッ!!」

 ズガァァァアン

 ファイアーの上半身は、社の床に突き刺さる。かろうじて見える足は、ピクピクと痙攣している。

 

「な、何事だ!!!」

 広間に白装束の男たちが複数。そして奥からは二人の能面が近づいてくる。

 能面のうち一人、"コントローラー"が血だらけのタイガーを見て、笑い出した。

「ホッホッホ!気でも狂ったかタイガー!」


「勝手な戦闘⋯いや、それよりよっぽど重罪だな。ファイアーに攻撃するなど!」


「フーー、フーー!」

 タイガーは肩で息をする。額から大量の血を流し、視界も軽くぼやけている。


 白装束の者たちがタイガーにジリジリと近寄り囲む。

(⋯数はおよそ20人。しかも⋯)

 奥にはコントローラーと、"チーター"。


「ホッホッホ!前回の抵抗で学ばんかったようだな!それどころか、お前たった独りで何ができる!」


「所詮は獣!⋯白夜衆の者どもよ!」

 コントローラーは右手を掲げた。タイガーを囲む20人の白装束たちが構える。


「これは戦闘ではない。"鎮圧"だ。

ウツロ様の手を煩わすな。

裏切り者を殺せぇ!!!」


 その言葉を合図に、20人が一斉に襲いかかる。タイガーは両の手で頭をガードする。


 ドガァァァァァン!!!!


「な、なんだ!?」

 激しい衝撃と共に、砂埃が舞う。コントローラーは突然の轟音に、頭を守りその場に伏せた。


「何が⋯何が起きたのじゃ!?」

 周囲が静かになる。

 コントローラーがもう一度広間を見ると、20人いた白夜衆が吹っ飛んでいた。


 中央には、2つの人影

 一つは、タイガー。そしてもう一つ。

 

 クラッシャーが白い歯を見せ、こちらに笑いかけていた。



 砂煙の中。

 白装束が散乱している。


 タイガーの横に立つクラッシャーは、肩をすくめた。

「遅いぞ。」

「へへっ。計算通りだろ。」


 そう言った瞬間だった。

 ――消えた。

 コントローラーの横に立っていた、もう一人の能面。"チーター"の姿が、消えた。


 風だけが残る。

 タイガーの瞳が見開かれる。

「来る――」

 言葉は最後まで届かなかった。


 ドンッ!


 衝撃。

 クラッシャーの体が、横へ吹き飛ぶ。


 社の柱が砕ける。


「がっ……!」

 地面に叩きつけられる。

 何が起きたのか、視界が追いつかない。


 十数メートル先。

 チーターが立っている。

 ゆらり、と。


「ホッホッホ。速いだろう?」

 コントローラーが笑う。

「コイツは“最速”の能力者だ。」


 次の瞬間。

 また消える。

 今度はタイガー。


 ドガン!!


 巨体が宙を舞う。

 床を転がる。

「ヌグッ……!」

 虎のマスクが軋む。


 見えない。

 影もない。

 気配も残らない。

 ただ、衝撃だけが来る。


「これは戦いではない。」

 コントローラーが愉快そうに言う。

「"蹂躙"じゃ。」


 クラッシャーが立ち上がる。

 口元の血を拭う。

「なるほどな。」


 またチーターが、消える。

 ――来る。

 クラッシャーは動かない。

 衝撃の直前。

 わずかに体を傾ける。

 床が砕ける。

 当たっていない。

 だが、風圧だけで頬が裂ける。


「しかし、どこから現れた?なぜ、ウツロ様は気づかなんだ⋯。」

 コントローラーが先ほどまでクラッシャーの居た所を注視する。

 そこには、大きな"穴"が口を開けていた。


「なるほど。貴様ら、ウツロ様の"万視"に気がついたか。」

 話しながらも、チーターは止まらない。

 再び消える。

 連続。

 三撃。

 五撃。

 十撃。


 社が崩れていく。

 柱が折れ、床が裂け、白い粉塵が舞う。

「どうだ!どうだどうだ!!

これがチーター!

これが最速の生物!」

 高揚するコントローラー。

「貴様ら獣には飼育員が必要なんだ!あのメス猫は見せしめだ!殴り嫐り燃やしてくれるわ!」

 チーターの攻撃は単純な体当たり。しかしその速さが、体当たりを"斬撃"へと変える。


 だが。

 クラッシャーは笑っていた。

「速ぇのはいい。」

 拳を握る。

「だがな。」

 砂煙の中で、声が響く。

「俺の知っているチーターはもっと"バケモノ"だったぜ」


 チーターが、わずかに姿を現す。

 その一瞬。

 クラッシャーの目が細くなる。


「おらよっ!」

 クラッシャーは空に向かって拳を振るう。

 だがーー

 ガンッ!!


 地面に、突然現れたチーターが倒れる。


「な、なんだと!?」


「へへへっ⋯。どんだけ性能の良いキャラクターを使おうが、操作する奴が無能だと、この程度だなぁ?」


「な⋯!?」


「速い。速いが⋯操りきれてねぇ。」

 クラッシャーは、奥でたじろぐコントローラーに向かって指を刺し笑う。

「コントローラー、お前にとってもチーターは早すぎて、うまく操作出来ないんだろ?」


「ホホッ⋯強がりを!」

 チーターはすくりと立ちあがる。そしてまた消える。

 社の壁、柱。周囲の至る所を蹴りつける音が聞こえる。

「どうだ!壁や柱で高速の方向転換!どこから、いつ攻撃が来るか分からないだろう!?」


「⋯だからよぉ〜」

 クラッシャーは崩れ落ちた身の丈程もある柱を片手で軽々と持ち上げ、バットのように構える。

「どんだけ反射しようが動き回ろうが、直線的過ぎるんだよっ!!」

 ガギィーーーン゙!!

 フルスイング。

 壁に叩きつけられるチーター。


「ホッ!?」

「さて⋯次はお前だよコントローラー。」

 言いながら、クラッシャーは親指を立ててグッドポーズを向ける。そしてそのまま手を回転させ親指を下に向けた。

「強キャラ使って粋がってんじゃねえ!」


 風を切る音。


 コントローラーの背後に、タイガーマスクの目が光る。

「ホホッ!?!?」

 両腕をがっちりロックされ、抗えない。チーターを動かす間も無くーー


「タイガーァァァ・ジャーーーーマンッッ!!!」


ゴガァァァァン!!!


 コントローラーの体は、床に突き刺さった。 

 コントローラーの腰から、チーターの腰まで繋がっていたケーブルが、光の粒子となって消えていく。

 チーターの動きが、止まる。


「さぁ、後はウツロだけだ。」

 クラッシャーはタイガーに手を貸す。

 血が止まらない。呼吸が整わない。

 それでも、虎の瞳に宿る闘志の光は消えていない。

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