第13話 イチャイチャしてたら生き残った。
第13話
パンサー浄化が決定してから、二日目。
タイガーは別の部屋にて、白装束の男と話している。
傍目には、ただの白装束同士の会話。何もおかしくはない。
視線すら動かさずに話す二人。だがその顔を隠す面の隙間から、白い歯を見せ笑う姿。その一点を除けばーー
タイガーとクラッシャーは、密かにパンサー救出に向けて話し合っていた。
「一度だけだが⋯元Zooのメンバーでウツロ達に反抗したことがある。」
「そのとき、ウツロについて分かったことが三つある。」
タイガーは身振り手振りはせず、直立不動のまま話を続ける。
「この村で起こることは全て奴に見られている。⋯細かく言うなら、村の周りも多少は見られていると考えて良いだろう。
⋯だが、どうやら声や音は聞かれていない。」
クラッシャーは反応しない。それでも、真っ直ぐタイガーの方を向き話を聞く。
「俺たちの反抗は、一部成功したからだ。ウツロの側近だった男を⋯一人殺せた。
もし、話も聞かれていたのであれば、防がれていたはずだ。」
「へぇ〜。ちなみに殺した奴ってのはどんな奴だ?」
「よく覚えている。ソイツは"ヒーター"。幹部の中では珍しく傲慢で⋯とにかく高圧的な奴だったからな。」
「ヒーター⋯ねぇ。」
「それと2つ目。ウツロの監視は⋯戦闘中は発揮されなかった。」
「俺たちが戦っていた際、一人だけこの村から出られた奴がいた。そのときチーターは既に奴らに操られていたから、見えていたのであれば追えたはずだ。」
「なるほどな。」
「俺達の仲間⋯Zooの元幹部に"ジャガー"という奴だ。」
ジャガーという名前を聞いて、何かを思い出す仕草を小さく見せるクラッシャー。
「Zooの四天王と呼ばれた4人。お前らとチーター⋯そしてジャガー。一時期は有名だったもんな。アイツは逃げたのか。」
「あいつだけは、外へ出られた。」
タイガーは三度周囲を見回す。 「……それと、ウツロの仲間についてだが。」
「幹部は三人。」
「一人目は⋯チーター。といっても、操られているのは間違いない。幹部というより、戦闘特化で使われてる印象だ。」
「そしてチーターを操っているのは⋯コントローラー。」
「特定の対象を操る能力。奴の体から延びるケーブルがチーターに繋がっていた。」
タイガーは一度言葉を止め、周囲を警戒し、また話を再開する。
「二人はケーブルの長さ以上は離れられない。」
クラッシャーの口角がわずかに上がる。
「ソイツはでけぇ情報だな。」
「そして三人目は⋯」
そのとき、クラッシャーが口を挟む。
「ファイアー。だろ?」
タイガーは驚きのあまり一瞬反応をしてしまう。
「青い炎を生み出し、自らの体すら炎に変えられる。」
「ウツロの⋯いや"ライター"の最も古い仲間。」
「ウツロたちのことを⋯知っていたのか?」
「あぁ。ただヒーターの名前を聞くまで確信はしてなかったけどな。」
クラッシャーはわざとらしく「へへっ」と笑った。
「俺はこの世界なげぇからよ。掲示板もチェックしてた。一時期、成り上がってた派閥があった。」
「ファイアー、ヒーター⋯そしてライター。」
「能力も知ってる。だが、ライターについては⋯明らかにあの頃より能力の幅が広がっている印象だな。」
「そうだったのか。恐らく、能力の"成長"があったのか⋯。」
「シン化。」
「⋯なんだ、それは。」
「お前らの言う"能力の成長"。シン化って、呼んでるぜ。俺の仲間はな。」
「シン化⋯。」
「とりあえず、方向性は決まったなっ。まずは小技で攻めよう。」
クラッシャーが言う。
「小技だと?どうするつもりだ?」
「まずは⋯社に入り込む。」
「社に⋯?だがあそこに許可なく入れば、すぐに怪しまれるぞ」
「"下っ端"ならな。」
「俺も一つ気づいたことがある。この白装束⋯誰から奪ったと思う?」
「そういえば⋯」
「まぁ俺も誰なのかは知らね!でも、奪えた。テキトーに"用意する"こともできたが、人数を管理されてる可能性もあるしな。」
「アイツの目には、死角があるってことだ。ついてきな!」
そう言って、クラッシャーはドアに手をかけ外に出ていく。
タイガーも追いかける。見られていることを自覚しながら、自然に、丁寧に。
「それで、死角ってなんだ?」
「影だよ。」
「最初は小さなことから実験した。アイツはどこまで見てんのか、いつ見てんのか。」
「そんである程度確信が出来た。アイツは全部見えてる。だが恐らく、光が届かねぇ場所はーー別だ。」
「だから影でテキトーな信者を襲って、服を奪った。案の定、バレてねえ。」
(なんて奴だ⋯。)
兄貴をバカにされ、パンサーが怒ったとき、内心では震える殺意を抑えるのに精一杯だった。ふざけた奴だと、舐めた奴だと怒りが生まれた。
だが、タイガーは認識を改めざるを得ない。
(コイツは⋯ウツロと同じ類いの"怪物"かもしれない。)
顔は動かさず、視線も揺らさず、へへへと笑う男の背中を見て、頼もしさと同時に心の底から恐怖も湧き上がってくる。
(俺は⋯)
(とんでもないやつに借りをつくることになるんじゃないだろうか。)
タイガーの予感は、恐らく的中するだろう。
あらゆるものを見透かすウツロでさえ聞こえない、クラッシャーの笑い声。
それを今、もっとも近くで聞いているのだから。
◆
サンライズヴィレッジを、キーパーとガンナーはゆっくりと歩いていた。
〜
「キーパーさん、もう体調は大丈夫ですか?」
「あぁ。問題ない。」
「本当か?どこか、痛いところは⋯」
「大丈夫だ。むしろガンナーの方こそ、俺と同じように寝込んでいたんだろう。」
ガンナーの顔を覗き込むキーパー。ガンナーは顔を真っ赤にして、目を逸らす。
「わ、私は大丈夫だ!何も問題ない!」
「ん?なんか顔が赤くないか?」
「だい、だいじょーぶだ!」
ハンマーはそんなガンナーを見て、終始ニヤニヤしている。
「良くなったんだったら、散歩でもしてきたら〜?あ、キーパー付き添ってあげなよ!」
シーカーも同調する。
「それは良いですね!この村では戦闘も禁止されているとのことですし⋯気分転換になりますよ!」
〜
そんなこんなで、二人は村を歩いていた。
「どうだ⋯。体は問題ないか?」
ガンナーが問いかける。
「さっきも言ったが、もう大丈夫だ。心配ない。」
この確認ももう3回目だ。
「!段差があるぞ。気をつけて歩くんだぞっ」
「介護か。」
キーパーは苦笑しながら、歩く。ガンナーはキーパーに歩幅を合わせる。
サンライズヴィレッジは、とても穏やかだった。 水車が回り、ススキが揺れ、町は古いが丁寧に整えられている。
どこを見ても、静かで、白い。
「こんな時間も……悪くないな。」
「え?」
「こういう時間。ぼーっと歩くってのも、悪くないよなって。」
ガンナーは少し考えてから答える。
「そうだな。今は、こんな時間も悪くないと思えるようになった。」
「なぁ、ガンナー⋯寝込んでいたときなんだがーー」
夢について、ガンナーに話そうとしたが、キーパーは少し間をおいて
「いや、なんでもない。」
「なんだ!気になるじゃないか。」
「いやいや、本当になんでもないんだ。」
「なんなんだ。まったく⋯。」
ブツブツとぼやくガンナー。
他愛もない、軽い会話。
けれどガンナーの視線は、ずっとキーパーに向いている。
そのはずなのに、周囲には気を配っている。
段差があれば手を伸ばす。風が強ければ位置を変わる。人が近づけば、さりげなく前に出る。
「護衛みたいだ。なんか、落ち着かないな。」
その言葉に、ガンナーは立ち止まりまっすぐとキーパーを見つめる。
「キーパーが皆を守るなら、私はキーパーを守るんだ。」
「なんだそれは。」
「少し前に、クラッシャーが言っていた。役割ってやつについて。」
「言ってたらしいな。」
「そのときは納得できなかったが⋯。確かに、役割ってやつはそれぞれにあるんだ。」
「ふむ。」
「だからな!⋯私の役割も考えたんだ。」
「ガンナーの役割か⋯。」
後方からの援護射撃。それがガンナーの役割だと、キーパーは思った。
だがガンナーは、キーパーの予想と違う答えを自信満々に宣言した。
「私の役割は、キーパーを⋯助けることなんだ。」
「俺のことは⋯」
いい。そう言おうとして、キーパーは小さく笑う。
だがガンナーは笑わない。
「……キーパーが、皆のことを守る。ときには自分の身を犠牲にして。そんなキーパーを、守る人が必要だ。」
声が少し低い。
キーパーは足を止める。
「心配しすぎだ。」
「してない。」
「してる。」
「…まぁ…してる。」
素直だった。
キーパーは一瞬だけ目を細める。
「ははは、ありがとな。」
何気ない言葉。
だがガンナーの肩が、ほんの少し緩む。
こっそり、キーパーとの距離を詰める。
自然に、さりげなく。
「近い。」
「ま、守ってるんだ!」
「ここには敵いないだろ。」
「念のためだ。」
キーパーはため息をつく。
けれど、キーパーも離れない。
むしろ、歩幅を合わせる。
水車の音が、一定のリズムで回り続けている。
沈黙。
でも、嫌な沈黙ではない。
ただ隣にいるだけで、落ち着く距離。
「……そろそろ戻るか?」
「いや、もうちょっと歩こう。キーパー。」
「そうか⋯そうだな。」
白い光の中で、二人は並んで歩き続けた。




