第11話 盗み聞きしても生き残った。
第11話
案内されたのは、小さな茅葺き屋根の小屋。
扉を開けると、拍子抜けするほど整っていた。
白い畳。白い壁。白い寝具。
窓から差し込み続ける、明るい日差し。
僕らを案内してすぐに、面の二人は出ていった。
「村の中を自由に過ごして良いが、勝手に外に出るのは駄目だ。」
タイガーは出ていく際に忠告してきた。
明らかに異常をきたしているキーパーとガンナーを、急いで寝具に寝かせる。
うなされ、脂汗が止まらない二人の体を、シーカーとハンマーが拭いてやる。
そんな様子を見てもどこ吹く風のクラッシャーは、何も言わずに部屋を出ていった。
◆
〜
視界に広がるのは、星の海。
そして星の光に紛れる、大量の戦艦。
一つの戦艦から、通信が入る。
『もう、終わりだ。お前たちは包囲された。投降せよ。MB1019。』
"私"は、通信ボタンを雑に押して、声高に叫んだ。
『ふざけるな!誰が貴様らなどに⋯!私たちはまだまだ戦える!!』
『お、おい待ってくれ!!アサ⋯隊長!』
『投降しましょう⋯このままじゃ全員宇宙の藻屑になる⋯!』
『な、何を弱気なことを!!貴様らに星を守る者としての誇りは無いのか!?ーーガハッ⋯!!?』
そのとき、"私"の腹部が燃えるように熱くなった。
『もう、うんざりなんだ⋯!』
いつまでも、熱いのに。
体は、少しずつ冷たくなって周りの声が聞こえなくなる。
『ア⋯ヒ⋯隊長には⋯ついて⋯ない』
〜
(⋯眩しい。)
ガンナーは目を覚ます。この世界はどの街もそうだが、どれだけ時間が経ったのか外の状況では分からない。
影の角度が、変わらない。
ガンナーはゆっくりと身体を起こした。
「ガンナー!平気?」
起き上がったガンナーを見て、ハンマーが駆け寄る。
その声に気づいたシーカーも寄ってくる。
「額に残っていた汗も引いていて、呼吸も安定している。良くなったみたいですね⋯」
シーカーが胸を撫で下ろす。
ガンナー自身も、あれほど激しかった頭痛が嘘のように消えていたことに驚いた。
だが。
「⋯!キーパーは!?」
ガンナーの問いかけに対し、ハンマーがゆっくり後ろの布団を指さした。
「キーパーは⋯まだ⋯。」
ガンナーは指さされた方へ駆け寄る。
「はぁ⋯はぁ。ウッ!!」
そこには、布団の上でうなされるキーパーがいる。
「お、おい何が⋯!キーパーは、キーパーは大丈夫なのか!?」
取り乱すガンナー。
「ガンナーも、あんな感じでずっとうなされていたんだよ。もしかしたら司祭の能力なのかも⋯」
「司祭の⋯?」
何かをされたような気分では無かった。それよりも"何かを引き出されそうになった"。そんな感覚。
「ガンナーさんも良くなったし、多分キーパーさんももう少し休めば治ると思うのですが⋯」
(キーパー⋯!!)
ガンナーは、その場に座り込み、心配そうにキーパーの顔をのぞき込む。
そして、キーパーの手を強く握りしめた。
「キーパー⋯!起きてくれ⋯」
◆
サンライズヴィレッジを歩く、白装束の男。
笑い声が遠くで響く。
花畑を男女が愛でている。
水車が回る。
平和だ。
——吐き気がするほどに。
「……救い、ねぇ。」
視線の先に、社が見える。
昼なのに、なぜかあの建物の周囲だけ、空気が淀んでいるように感じた。
入口に面の者はいない。
男はためらいなく裏手へ回る。
白い壁。
白い柱。
白い世界。
その中で、炉の煙だけが細く立ち上っている。
裏口の障子は、わずかに開いていた。
中から声が漏れている。
「——規律違反は明白です。」
覗き込むと、白い能面を被った者が3人と、虎面の者"タイガー"。
能面の者たちは、タイガーを囲むように立ち、話している。
「客人に、襲いかかった。」
「そ、それは⋯。」
「それは?」
沈黙。
「し、しかし⋯寸前で止めました⋯」
「問題なのはその"衝動"です。当たろうが当たらなかろうが、仕掛けた時点で問題。そうでしょう?」
もう一度、重い沈黙が室内を満たす。
「その衝動は⋯罪です。」
冷酷な判決。しかしその声は穏やかだった。
「だが……奴は侮辱した!」
タイガーの声がわずかに震える。
「Zooの名を……兄貴の名を……!」
「終わった組織の名など関係ありません。掟は掟。」
淡々とした宣告。
「浄化は、三日後に決まりました。」
「そんな⋯!」
わずかな間。
「本日、執り行うことも可能ですが?」
空気が凍る。
障子越しでも伝わる、緊張。
「おもしれぇことになってんなぁ。」
男は、白い歯を見せ笑う。
そのとき男の背後から、突然声がする。
「ーー何を、しているのですか?」
振り向くと、そこにいたのは司祭"ウツロ"。
「本日ここに警備が周る予定は無かったはずですが⋯。」
(チッ、社に集中し過ぎて油断した。)
間を空けるとマズイ。そう察した男は、すぐに取り繕う。
「お客人⋯クラッシャー様より、司祭様へお話があると仰せつかりまして。」
「ほう⋯。なぜ、裏手に?」
「どうやら、内密のお話と⋯。」
もちろん、嘘。だが、咄嗟の言い訳にしては上出来だ。男は心の中で自画自賛する。
「そうですか⋯。」
ウツロはジッと男を見つめ、何かを考えたようだが、納得してくれたのかすぐに薄い笑顔に戻す。
「では⋯⋯クラッシャー様をこちらへご案内してください。」
「かしこまりました。」
男は、すぐにその場を去る。
(あっぶねぇ〜)
チラリと振り返る。
ウツロはこちらに背を向け、社へと入っていくところだった。




