第7話 笑い合って生き残った。
第7話
クラッシャーが戻ってきてから、何事もなく平和な日常があった。変わったことと言えば、拠点が少しだけ⋯いや結構、騒がしくなったことくらいだ。
ナイトタウンは、相変わらず“静かな街”。
ネオンは相変わらず、意味もなく瞬いている。
立体駐車場の最上階。
「最近のミッションは平和だね。」
ハンマーが、床に寝転がったまま言った。
「ガンナーがいると、飛行型マモノ相手でも苦戦しなくなったし、頼もしいよ!」
シーカーが、爛々と話しかける。ガンナーは、相変わらず無愛想な相槌をうつが、どこか嬉しそうにも視える。
「今までは、あのデンジャーって奴と3人で生き残っていたのか?」
「うーん、デンジャーくんは緊急ミッションのちょっと前に出会ったんだ。」
「あんまり話さない奴だったな!」
ハンマーは相変わらず寝転がって話す。コンクリートの床は冷たくないのだろうか。
「そうだね⋯。大型マモノ戦の後からは見かけないね」
「アイツはすぐ逃げ出したからな⋯。弱腰な奴はいるだけ迷惑だ。」
ガンナーが銃を手入れしながら、冷たく言い放つ。
「デンジャーね〜。なかなか"アブねえ"名前じゃねえの!俺も会ってみたかったなァ〜」
「思ってないだろ。」
「へへへっ」
「しっかし、その緊急ミッションってやつ。俺も参加したかったなぁ。」
「クラッシャーが居れば、もう少し楽に勝てたかもな。」
「どうだか⋯。コイツはいざってときに、頼りにならない」
ガンナーの鋭い一言に、クラッシャーは苦い顔をして言い返す。
「あのな〜、俺はこれ以上スコアが上がらないように待ってやってんだっての!」
「待ってもらう必要など無い。」
「なんだと!」
ギャーギャー
「楽しいね。」
「そうだね。クラッシャーくんとガンナーくんは仲良しだからね。」
「仲良くなどない」「仲良くねえ!」
「⋯息ピッタリじゃん。」
くだらない話をしながら、俺達は笑い合う。こんな時間も、悪くない。
◆
「そういえば、最近掲示板は見たかい?」
「いや、見てないな。」
「まー、掲示板周りは少し治安悪いからねぇ〜。」
ハンマーは大きな槌を軽々と振りながら言った。
「あー、こっちに戻ってくる時、軽く見たぜ。」
「上位陣は大方変わってねえな。DOWNの奴らと、サンセットタウンに居た奴らが、ゴッソリ消えたくらいで。」
クラッシャーは伸びをしながらあくびをする。
「⋯相打ちとはな。」
クラッシャーが戻ってきてから、サンセットタウンでの出来事は聞いていた。
DOWNと、リーダー達の相打ち。クラッシャーはリーダーがやられた隙を見て抜け出してきたと。
「⋯とはいえ全滅なんて⋯。そんな都合のいい話があるだろうか。」
顎に手を当てて考え込むシーカー。
「DOWNの奴らは新進気鋭の派閥として勢いもあったからなあ。もしかしたら別の派閥からも目をつけられてたのかもなっ!」
「なるほど、第3勢力がいた可能性もあるか⋯。」
「ま、目立ちすぎると良くないってこった。ソレで言うと俺達も最近目立ってきてるぜ」
「えぇ!マジで!?」
目を見開いて聞き返すハンマー。
「そりゃ、元々有名だったこのクラッシャー様の下に、大型マモノにトドメをさして一躍話題のガンナー含めてBランカーが4人。」
「この世界じゃ、危機感を持たねえ方が、不自然だよなぁ⋯?」
「そろそろトップランカーらへんが、俺達を潰しに来るんじゃねえか?」
クラッシャーの脅かしに、ハンマーは口をあんぐりと開けて涙目になってしまった。
ガンナーが「お前の下になった覚えは無い。」とでも言うかと思ったが、ハンマー達にからかわれたので、無視を決め込んでいる。
「確かに。気をつけておいた方がいいね。」
「や、ヤバいよぉ〜」
震えるハンマーの背中を、ニカッと笑ってクラッシャーが優しく叩く。
「冗談だよ!しょせんBランクだし、今どき生存者同士の殺し合いはナンセンスだって!」
「ほ、ほんとかよぉ〜」
「⋯とはいえ、僕たちはより強くならなくちゃ、戦闘になったときに生き残れません。」
シーカーはクイッとメガネを上げて、全員を見渡す。
「"アンサー"を探しに行きませんか?」
「「アンサー?」」
◆
"アンサー"
この世界にまことしやかに噂される、伝説の生存者。
ありとあらゆる問いに対して、必ず正しい"答え"を教えてくれる。
古参の生存者でさえ、出会ったことは無いというが、掲示板には確かに名前が存在している。
噂だと、どこかの強力な派閥に囲われているとか、人里離れた山奥でひっそりと暮らしているとか⋯
「って、ことなんですが、気になりませんか?」
「う、嘘くせえ⋯。本当にいんのかよそんなチート能力な奴。」
クラッシャーは懐疑的な目をしてシーカーを見つめる。
「能力の詳細は分かりません。ただ⋯結構前ですが、僕も一度気になって掲示板で探したことがあります。」
「でた!シーカーの好奇心!」
「そのとき、確かにありました。"アンサー"という生存者の名前は。」
(アンサー⋯。確かに、あらゆる疑問の答えを知るのであれば、それは驚異的な力だ。)
「だが⋯どこにいるかも分からないんだろう?それに、会って何を聞くんだ?」
「キーパーの言うとおりだ。」
俺の言葉に、ガンナーは同調する。
「まず、居場所についてなのですが、僕の"探求者"としての能力によると、『サンライズヴィレッジ』に手がかりがあると思っています」
サンライズヴィレッジ。知らない名前の街。
「それに、もし会えたら"シン化"について聞きたいのです。キーパーさんだけでなく、僕やハンマー、ガンナーさんもシン化出切れば⋯」
「戦力アップ⋯ってわけだね。」
「シン化ね〜。それも眉唾だけどな〜。」
「そ、それはあります!キーパーさんの能力が⋯」
「能力が強くなったんじゃなくて、使い方が上手くなっただけカモよ?」
珍しく、クラッシャーは否定的だった。
(こんな話こそ、おもしろがって聞きそうなものなのに)
「とりあえず、サンライズヴィレッジには行ってみませんか?そこで何も無ければ、泣く泣く諦めますから!」
シーカーの必死な懇願に、見ていられなくなった俺は加勢してやることにした。
「まあ、行くだけ行ってもいいんじゃないか?道中でもミッションは出来るし、どこにいても危険度はそう変わらないだろう。」
「なら、私も行こう。」
ガンナーは真っ直ぐに俺を見る。さっきから俺の同調しかしてないような気もするが、今は良いだろう。
「そうだね。皆で行けば、怖くないよ!」
(さて、残すはクラッシャーだが⋯)
「しょーがねえな〜。キーパーに言われちゃ、拒否できねえよ!」
「あ、ありがとう⋯!みんな!」
満面の笑顔を浮かべるシーカー。
「とはいえ準備もある。今日は休もうぜ。」
クラッシャーの一言で、出発は明日ということになった。
サンライズヴィレッジの場所や行き方等を軽く話し合ったあと、いつの間にか決まった各々の寝床へと散っていく。
◆
立体駐車場の3階
3階に、キーパーの自室⋯とはいっても小さな壁の凹凸に、布のカーテンをかけている程度のスペースがある。
柵にもたれ、街を見下ろす。
大型マモノとの戦闘、サンセットタウンの壊滅。この世界では、やはり死は身近なもの。
(皆を⋯守りたい。)
気づけば、そう思っていた。
最初は自分が生き残るためだった。だが、今は違う。
ここで笑いあう時間を、この仲間を、守りたいと思っている。
「……何をボーッとしているんだ?」
そう言って、俺の隣に立ったのはガンナーだった。
「いや⋯。」
俺は一瞬誤魔化す。
「なんだ、不安なのか?」
少しだけ、考える。
「……まぁ、な。」
「ふふ。」
ガンナーは静かに笑う。
「おおかた、自分のことよりも私たちを守れるのか不安なのだろう。」
相変わらず、ガンナーの考えは鋭い。
「私も、仲間を失った。」
「この世界は、あまりにも死が日常だ。」
「でも、だからこそお前と出会えて良かった。キーパー。」
「そうか。」
「お前と一緒にいると、戦場でも落ち着いていられるんだ。」
「射撃手が焦ってるようじゃ、いつ背中を撃たれるか分からないからな。」
俺が軽口をたたくと、ガンナーは「間違いない」と笑った。
「お前が盾である限り、私が矛となろう。どんなヤツでも、私が撃ち抜いてみせる。」
真っ直ぐな瞳。自信と、深い信頼を感じる。
「頼りにしてるぞ。」
「あぁ。任せろ!」
短いやり取り。 それだけで、少し肩の力が抜けた。




