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一人と独りの静電気 改訂版  作者: 枕元


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7

 あの子はあの笑顔の裏で、いったい何を思っていたのだろうか。


 あの笑顔は、どういうつもりで浮かべたものだったのだろうか。


 どうだろう。あれははたして自然にでるようなものものだったのだろうか。


 

 今の私は、笑えているだろうか。


 

ーーーー



 恵美が学校に来たのは、火曜日のことだった。


 みんな恵美を心配していたようだけど、私は素直に心配することができなかった。


 それほどまでに、私の恵美に対する不信感は大きかった。


 もはや、私の中で喜多見がただの加害者である可能性は完全に排除されていた。


 事情は掴みきれない。だけど、恵美がただの被害者であるとは、その態度からどうしても思えなかったのだ。


 そんな私の態度を見てか、変化は唐突に訪れた。


 「何か舞華、よくわかんないけど今ハブられてるらしいよ?」


 聞いてしまったのだ。私がいるのに気づかなかったのだろう。たまたまその会話を聞いてしまった。


 別に、ハブられてはいなかった。私が恵美に話しかけていなかっただけで、別に遠ざけられたわけではなかった。


 だけど、この話が色んなところに広がったのだろうか、普段教室でよく話すような友達も、私と距離をとっていた。


 早さからしてただ広がるのを待っているとは思えない。

 つまり、故意。明確な、悪意。


 どうして。その答えは、すでに浮かんでいた。


 (多分、恵美だよね)


 それしか、考えられなかった。他に心当たりがなかった。


 何でよっていう気持ちよりも、()()()()って気持ちが強かった。


 やっぱり知られたくないことがあるんだって、そう思った。


 知りたいと思った。それが何なのか。


 だけど、彼は線を引いた。今私が立たされている場所と、一線を置いた。


 私はその線に一歩踏み入れてしまった。だから、こうなってしまった。


 彼は多分、これを恐れていたんだと思う。今更にしてわかった。

 きっと彼には、踏み込めばこうなるって、分かっていたんだ。


 やっぱり優しいなって思った。

 結局彼は自分の都合だけじゃなく、私のことまで考えていたんだって、胸が熱くなった。


 それだけに、申し訳なさもあった。彼が危惧した状況に、あっさりと陥ってしまった。


 彼の優しさを、無下にしてしまった。


 この胸に浮かんでいるのは、後悔だろうか。


 もしそうなら、それを認めたくはない。

 

 あの日見たあの子の笑顔に感じたものを、私は否定したくない。


 私は今、笑えているだろうか。

 

 一人になってなお、自然に笑えているだろうか。


 教室を出ることはなかった。視線が怖くて、机に突っ伏した。


 そんな私を、世界は見つけない。見ていない。


 何もせずに、救われることなんてない。


 だけど、行動するって勇気がいる。

 

 独りで間違いに立ち向かうって、すごく難しいんだ。


 ()()()()()()()()()()()()()


 こんなものには、絶対に屈しない。



 そう、思っていた。



ーーーー


 翌日、水曜日の朝のことだ。


 机が、少しだけ移動していた。


 周りの席から少しだけ距離が空くように、私の席が移動していた。


 私にはそれがすぐに、誰かの悪戯だって、悪意だって分かった。


 たったそれだけだった。


 それだけで私の心は折れてしまった。


 ほんの小さな悪意に見えるかもしれないが、そのほんの少しで、私の心はあっさりと屈したのだ。


 こんなもの耐えられないって、本心が悟ってしまった。


 私はそのまま、早退した。笑顔なんて浮かんでくるわけがなかった。



ーーーー

 

 「おい、二股野郎。ちょっとこいや」


 金曜朝。俺は白河健司に絡まれていた。


 ちなみに名字はこいつが教室に入ってきた時、後ろの奴らの会話で知った。つまりついさっきだ。


 「嫌だ」


 嫌に決まってる。てか、二股って何のことだ。


 「とぼけんじゃねえぞ。とぼけんなら、全部バラしてやるからな」


 全部って何だよ。


 「あん?そんなの、お前が園田をいじめていたことに決まってんだろ!」

 「白河、お前」


 こいつ、やりやがった。


 今の会話を、全部周りに聞こえるように大声で喋りやがった。


 これでおそらく、噂程度のものだった情報が、クラスメイトたちにとって確かなものに近づいた。


 ここまでのことをしてくるとは、少々予想外だった。


 てか、二股って何のことだよ。答えになってないんだよ。


 「それで、俺にどうして欲しいんだ?」

 

 めんどくさいので、直接聞いた。


 「はぁ?普通わかるだろ?」


 そう言って白河は、口の端をニヤリと釣り上げた。


 嫌な、予感がした。


 「責任とれって言ってんだよ」


 教室に入ってくるなり、そう言ったのは篠原だった。


 「お前、最低だよ。何も反省しないで、()()のことまで追い詰めちまったんだもんな」


 は?俺が福村を追い詰めた?それってまさか?



 「知らねぇのかよ。ほんとに最低だな。昨日から舞華はな、学校休んでんだよ!!」


 まぁ、そういうことだろうと思ったよ。だけど俺はその表情を崩すことをしない。


 「それは、福村がそう言ったのか?」


 遠回りはしない。はっきりと、一番大事なことを聞いた。


 「あ!?タイミング的にそれしかありえないって話だろーが!誤魔化してんじゃねぇぞ!」


 誤魔化してなんかいない。タイミング的に、それしかあり得ないわけではない。


 (こいつら、多分本当に俺が原因だと思ってるな)


 福村が学校を休むことになったのは、昨日の反応からしておそらくこいつらにとって想定外。


 こいつらは紙をばらまいたことが、福村に何の影響力も無いと本気でそう思っているらしい。


 となれば、やはり福村を追い詰めたのは園田だ。


 というか福村は今日も学校休んでるのか。



 ともかくだ、こいつらは(推測だが)福村が誰に追い詰められたかに気づいてないらしい。


 「で、責任をとるって?」


 責任をとれと言われても、俺にできることなんてほとんどないけどな。


 俺の問いに答えたのは篠原だった。


 「当然のことをしてもらうだけだよ」


 真意が汲み取れない俺に向けて、篠原は続けた。


 「二人に謝ってもらう。できるよな?」


 心からこいつらは馬鹿なんだって、俺は再確認した。謝るって何をだ。そんな俺の反論も待たずに、篠原は続ける。


 「そうだな、ちょうど明日から2日休みなんだ。月曜日までに謝っとけよ」

 「そうだな。もし謝ってなかったら、わかるよなぁ!?」


 わからんし、いちいち凄まないと喋れないのか。やっぱ頭悪そうだな。


 「じゃ、そういうことで」


 2人は言うことだけ言って帰っていった。


 教室にはなんとも形容し難い空気が流れていた。

 

 居心地の悪さを感じながらも、机に突っ伏した状態でホームルームが始まるのを待った。


ーーーー


 その後、あいつらが接触してくることはなかった。


 俺は特に行動を起こすわけでもなく、真っ直ぐに帰路についた。


 家に着いた俺は、先にシャワーを浴びた。


 今日は朝からめんどくさいことになった。疲れが洗い流される感覚が心地よい。


 シャワーを浴び終え、夕飯の支度をしていると幸が帰ってきた。


 「……ただいま」

 「ん?おかえり?」


 俺はすぐに、幸の様子がおかしいのに気づいた。

 それに、いつもよりもだいぶ帰ってくるのが遅い。


 別に落ち込んでいるわけではないが、何か考え込んでいるような、そんな表情。


 「どうした?」

 

 思わず、そう聞いていた。人の心配ができるほど、余裕があるわけではないが。


 「あーえっと、その、長くなるから後でもいい?」

 「あ、ああ。別にいいけど」


 もとより何かを俺に話すつもりだったらしい。


 心の準備ができていない。そんな印象を受けた。


 別に急かす必要もないだろう。幸に先に風呂を済ませることを促し、俺は夕飯の支度を進めた。



ーーーー


 「それでね、さっきのことなんだけど」


 そう言って幸は、洗い物をすました後に話を切り出した。

 幸の普段はあまり見せない真剣な表情に、少し居住まいを正す。

 

 「今日、帰り遅かったでしょ?あのね、お母さんのところに一旦帰ってたの」

 「そうだったのか」


 どうりで遅かったわけだ。だけど、それがどうしたのだろうか。


 今俺と住んでるのがイレギュラーなだけで、そっちが本来の形だから、別にわざわざ改まって言うことでもないだろう。


 「私ね、色々話をしたの。これからのこととか、どんな生活してるかとか」

 「そうか」


 「それで、お兄ちゃんにね、どうしても聞いて欲しいお願いがあるの」

 「お願い?」


 うん。と言って幸は続けた。


 それは俺にとって、いつぶりになるかも思い出せない、そんな提案だった。




 「明日、三人で出掛けない?」



 「お母さんと幸とで、三人で?」

 「うん。三人で。一緒に出かけたい」


 正直、気が進まないどころの話ではなかった。

 

 だって、母さんは俺のことを嫌っているはずだから。


 「ちなみに、お母さんからはすでにオッケーを貰ってるから」

 「え?母さんが?」


 それはかなり予想外のことだった。

 幸の居候を認めた時といい、俺の知ってる母さんの像から少しずれがあるように感じる。


 「それで、お兄ちゃんがよければだけど、どうかな?」

 「俺は」


 どうしようかって、本気で悩む。


 気は進まないが、かと言って幸の想いを無下にするのも憚られる。


 かといって、会えばきっと俺は。



 ピリリリリリリ。



 「母さんから?」


 考えに耽っていた俺の携帯に、一つの着信。

 それは、母さんからのものだった。


 「お願い。出てあげて欲しい」


 幸がそう言った。そのおかげで、少しだけ踏ん張る覚悟ができた。


 電話に、出る。



 『もしもし?その、私、ううん、()()()()だけど、今少しいいかしら?』

 『…うん』


 電話越しの声は、少しだけ震えているように聞こえた。

 電話に出た以上、ここで引く理由もない。


 『急でごめんね。その、明日、修也がよければだけど、会えないかしら。幸も一緒に、三人で』


 母さんからの提案は、幸がしたものと一緒だった。

 それでも驚きが隠せない。それほどまでに、母さんからは考えられない提案だった。


 『少し、時間が欲しいな。また後で、こっちから連絡するから』

 『分かったわ。考えてくれるだけでも、ありがとう』


 ありがとう。その言葉が妙に引っかかった。

 その正体を確かめる前に、通話は途切れた。


 「本当は私が誘うって話だったんだけど、自分から誘いたかったみたい、お母さんは」  


 そんな裏話をする幸。


 「これは()()()。ずるいかもしれないけど、どうかお願い」


 あぁ、本当だ。幸のいう通り、ずるい。


 だから俺は言い訳にする。幸のせいで、()()()()行くのだ。


 「わかった、行くよ」


 いつぶりかの、三人でのお出かけが決まった。

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