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一人と独りの静電気 改訂版  作者: 枕元


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4

 「よし、クラスに紙をばら撒くのは誰にも見られずに済んだな」

 「ああ。でも、これじゃあ舞華まで巻き込むことになるんじゃないのか?」


 放課後、ほとんどの生徒が出払った教室で、二人の男子生徒が話していた。


 「だからそれもこれも()()()のせいにしちゃえばいいんだよ。数の暴力でな」

 「ま、俺はバレたりしなきゃ何でもいいけどな。俺の目的は別だし!」


 日が沈み始め夕日さす教室で、二人の密談は続く。


 「てかさ、あいつが園田のことをいじめてたっての、ほんとのことなのか?もし違うなら、結構やばいんじゃないか?」

 「そこは問題ねーよ。何せあいつと同じ中学の友達からの情報だからな。間違いない。だから安心してくれ」


 「そうか、なら安心だな」


 となれば、と一人が続けた。


 「次はどうする?いっそのこと、直接脅してやるか?妥協なんてなさそうだし、手っ取り早くていいんじゃないか?」

 「いや、まだ舞華との関係性は謎だからな。ここは慎重にいこう」


 「確かにそうだな。となれば」


 ピロン♪


 「あ、悪りぃ。先輩からだ。早く練習でろってさ」

 「そうか、練習終わったらまた連絡してくれ」


 そんなやりとりの後、一人は足早にグランドへ向けて去っていった。


 もう一人は教室を出て、廊下を歩きながらポツリとつぶやいた。


 「大変だな、サッカー部のエース様は」


 空になった教室に、冷たい風が吹き込んでいた。



ーーーー


 甘いものが好きだ。


 私が好きなのは特にわたあめ。

 

 好きだからと言って、毎日食べるわけでもない。食べるのは年に何度か、お祭りとかでだ。


 甘いものが好きだ。食べてて幸せになれる。

 嫌なことがあった時は、いつだって甘いものに逃げる。そして気持ちを切り替えるのだ。


 だけどそれは、甘いものが好きなだけで、元となる砂糖が好きなわけじゃない。


 甘みの元は砂糖だ。それは間違いない。でも、だからって砂糖を舐めたりしない。


 剥き出しのそれは、受け入れるには強すぎる。


 必要な過程を経て、甘さは人に受け入れられるようになるのだ。


 あの時の私は、その過程を経ていなかった。


 ただ責めて、ただ貶めて、ただ許さなかった。

 

 本人の弁解すら聞かずに、ただ決めつけたのだ。


 実際私は、怒ってもいたのだ。いけないことをしたお兄ちゃんに本心から怒ってた。


 もはや、それは糾弾とは呼べない。ただの一方的な暴力だ。

 

 それでもいつか、ちゃんと元通りになるって、そう信じてた。


 だけど気づいた頃にはお兄ちゃんは、すでに不登校になってしまった。


 それでも当時は、いじけているだけだと、自業自得だと思っていた。


 いつかきっと立ち直るって、底に叩き落とした当人のくせに、そう思っていた。


 でも、兄が立ち直ることはなかった。それどころか、家族との距離はたちまち離れていった。


 1番の原因は、お母さんの態度。明らかに、お兄ちゃんのことを煙たがっていた。


 そしてついに、兄は家を出ていってしまった。


 私はお母さんに止めるように言った。お母さんは止めなかったけど、ここで止めなきゃ、取り返しがつかなくなると思ったから。

 私はお兄ちゃんに、どうして出ていっちゃうのって聞いた。


 「言っても()()()()()()


 私にとって、決定的な一言だった。

 取り返しのつかない事態は、とっくに過ぎていたのだ。


 あの時話をちゃんと聞かなかった時点で、すでに手遅れだったのだ。


 そんな事態を引き起こした自分の罪を、今更ながらに自覚したのだった。


 そしてお兄ちゃんは独りになった。


 家を出て行かれてからも、私は何度かお兄ちゃんに会いに行った。


 繋がりが完全に途絶えてしまうのが怖かった。


 お兄ちゃんは、優しい人だった。そんなお兄ちゃんを私は大好きだった。


 そんな大切な人を傷つけた。


 私がわたあめを好きなのは、お兄ちゃんがわたあめを好きだったからだ。


 一つのわたあめを、二人で分け合った。そうやって育ってきた。


 そんな日々を、私は取り戻したい。


 だから私は、ある計画を実行に移すことにした。


 迷惑を承知で、それでも私はするんだ。


 私は覚悟に満ちた目で、お母さんにそれを打ち明けた。


 「私、お兄ちゃんとまた一緒に暮らしたい」



ーーーー


 あの日から一週間、学校を休んだ。


 何故あの時涙を流したのか、答えを探すのは早々に諦めた。


 何故って、それを見つけちゃえば、自分が辛くなるだけって、誰よりも分かっているから。


 いろんな人が声をかけてくれた。電子上のやりとりだけど、とてもあったかい気持ちになった。


 それが私を支えてくれる。証明してくれる。


 「正しく」て「可哀想」な私を、作り上げてくれる。


 私が登校したのは、火曜日のことだった。


 もしかしたら、あの一件のことが露見しているかも、という心配も杞憂に終わった。


 私が悪いという話はひとつも出回っていなかった。


 代わりに()()()が噂となって出回ってることを、一週間ぶりに登校した私は知った。


 誰もが「本当なの?」って聞いてきた。だから私は、口をキュッと結んで、下を見る。


 私にとって苦い過去。


 ()()()()()()()()()()()()()()()


 私は何も言ってない。


 周りがみんな私を信じてしまうのだ。だから、私は悪くない。


 噂を流したのも私じゃない。誰かは知らないが、誰かが()()()()()()()()


 悪いのは私じゃない。


 私の知らない場所で起こってること。言ってしまえば、私だって「被害者」だ。暗い過去を掘り返されてる。


 なんて「可哀想」な、『私』。



 だけど、心配事が一つあった。


 舞華のことだ。


 昨日までメッセージも送ってくれてたのに、今日は一度も話していない。席に座って、私の方には来ようともしない。


 もしかして?


 舞華のことが書かれていた紙も私は知っていた。

 ()()()()()、可哀想だと思った。


 だけど、彼女は先週ずっと彼と一緒にいたらしい。


 私を心配していると口では言いながら、彼と会っていたのだ。


 「また、そうやって」


 多分彼女は、知っている。全てを知らずとも、怪しんでいる。


 学校を休む前の私に対しても、そう思われる言動はいくつかあった。


 「なんとか、しなきゃ」


 このままではまた、私は辛い目にあってしまう。


 だから、これは自衛だ。仕方ないことだ。


 都合のいいことに、今日も彼は学校を休んでいるようだ。






 ーー大丈夫。私はいつだって「被害者」だ。


 きっと()()()助けてくれる。


 

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