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一人と独りの静電気 改訂版  作者: 枕元


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19/40

18

 「あ、おはよう」

 「あ、うん。おはよう」


 翌日、登校した俺は正門のところで福村と会った。


 別に待ち合わせをしていたとかではなく、本当にたまたま。


 「昨日はありがとね」

 「や、俺も色々と話せてスッキリしたっていうか。だからまぁ、お互い様ってことで」


 実際、色々と吹っ切れたというか、自分のとるべきスタンスはしっかりと確認できた。


 「私はあんまり話せなかったけどね?」

 「それは……なんというかすまん」


 実はそうなのだ。結局板倉の乱入のせいで、本来の彼女の目的は果たせていなかった。


 「また、時間作ろっか?バイト以外の時なら、全然暇だし」

 「んーん。結果的にはあれでよかったかな」


 そう言って、首を振りながら俺の提案を受け入れることはなかった彼女だが、その表情は特に思い詰めているようには見えず、それならばと俺も流した。


 「あ、でも何かあったら、その、相談はして欲しいかな?」

 

 少々上目遣いで、そう言ってくる。その姿は、照れているようにも見えた。


 というか、俺の周り上目遣いする人多くないですか?気のせいか?


 「あー、そうだな。そうさせてもらうよ」


 そうならないのがベストだが、向き合うと決めた以上それは避けては通れないだろう。


 「あと、これだけは言っておくけど……今は大してハブられたりとかしてないから。気にしてくれるのは嬉しいけど、そこはあんまり気にしないでね?」

 「そっか。わかった」


 とは言いつつも、気にはなるけどな。多分、向こうもそれはわかってる。


 分かってて、聞いたんだ。「私は大丈夫」と、遠回しに伝えるために。


 その気遣いに、胸があったかくなる。


 「じゃ、()()()

 「うん、()()()


 俺たちはそれぞれの教室へと入っていく。不思議とこれまでの不安は、心なしか軽くなっていた。



ーーーー


 そういえば、と思い出す。今篠原と園田って付き合ってるんだよな。


 正直俺としては打算が見え透いているような気がしてならず、一応何かされるかも知れないので用心に越したことはないだろう。


 その他嫌がらせ、何かあったら対応できるように身構えていたのだが。


 特に篠原からのアプローチもなく、何も起きることはなく、6限の授業が終了して放課後となった。


 白河が訪ねてくることも今日はなかった。


 身構えていた俺にとっては少々拍子抜けだが、何も起きないというなら、それはそれで構わない。


 別に、誰かを陥れるのが目的じゃない。あくまで俺は、俺を信じてくれた福村の立場さえ守れればそれでいいのだから。


 だけどなんというか、このタイミングで嫌がらせがパタンと止むのも、どこかタイミングが良すぎるというか。


 特に白河だ。あいつは俺に恥をかかされたと思い込んでるから、面倒なんだよな。完全に言いがかりであるのだが。


 だけど思い込みは恐ろしいもので、自分の非を見えなくしてしまう。きっと彼はもう、引き返せないところまで来ているのだろう。


 とは言え放課後だ。俺はさっさと帰ろうと思い、カバンを手に取った。


 ぴろん♪


 その時だった。俺の携帯が着信を知らせたのは。


 【いつでもいいのですが、お時間ありますか?できれば会って話がしたいです】


 そんな文面を送ってきたのは、宮島だった。


 何かあったのだろうか。いや、そもそもまた話したいと彼女は言っていたし、まだ言い残していたことがあったのかもしれない。


 彼女の想いを知った今、断る理由はない。


 ただ、俺は一つ彼女にお願いをした。彼女はそれを二つ返事で了承してくれた。


 突然だが、時間は今日の放課後になった。明日はバイトがあるし、できれば早めに話しておきたかったからだ。


 ともなれば、待ち合わせ場所に向かおう。


 その前に俺は、隣のクラスを訪れた。


 「あっ、喜多見?」

 「ちょっといいか?」

 

 もちろん福村に用があってだ。


 「この後、時間あるか?」

 「へ!?い、いや、あるけど……?」


 どうしたんだろうか。いきなり慌てふためく彼女。


 俺は本題に入ることにした。


 「実はさ、この後ある人と会うんだけど、くる?」

 「え、あぁそういうこと。てっきり」


 「てっきり?」

 「いや、なんでもないから!で?どんな人なの?」


 はぐらかされてしまったが、仕方ない。俺はご要望通りに宮島のことを少し説明する。


 「行く!でも、向こうは大丈夫なの?私が行っても」


 宮島のことを説明し終わり、彼女はすぐにそう答えた。だけど、向こうの都合が気になるようだ。


 「大丈夫。確認は取ったから」

 「なるほど、じゃあ安心だね」


 というわけで、俺と福村は二人でその場所へと向かうこととなった。


 福村と俺はバイト先へと足を進めていた。やっぱり話し合いをするなら、あそこが一番都合がいいからな。


 その途中、福村は気づいていなかったようだが白河と目が合った。


 十中八九なにか言われるだろうと身構えていたのだが、やつは俺に鋭い視線を向けただけで何もしてこなかった。

 

 意外だった。あいつの狙いは福村だから、もっと突っかかってくるものだと思ってたんだが。


 とはいえ、このまま現状維持が一番なのに変わりはない。向こうから何もしてこないのなら、こちらからは何もしないのが一番だ。


 「どうかした?」

 「や、何でもないよ」


 考え事にふけっていたら、隣を歩く福村にそう聞かれる。福村に話すことでもないと思い、俺は適当にはぐらかす。


 でも、そんな態度がお気に召さなかったようで。


 「ふーん。そうやって隠し事しちゃうんだー」

 

 なんて困ることを言ってきた。


 「別に隠し事ってわけじゃ」

 「ふふっ。冗談だよ。困らせちゃった?」


 からかわれたようだ。困っていたのなんて、わかってるくせに。


 「いいから行くよ」


 そう言って少し歩を速める。


 福村は特に文句も言わずについてきた。


 そんなこんなで到着。店内を見渡す。宮島はすでに席についていた。向こうもこちらに気づいたようだ。


 「え、加奈?」

 「もしかして、まいちゃん?」


 二人はお互いを見て、お互いに驚いたようにそうつぶやいた。


 あ、そっか。もしかしてこの二人って。


 「ちょっと、喜多見こっちきて」

 「えっ?ちょ、福村!?」


 急に福村が、俺の腕を引っ張って店の外まで連れ出した。


 「なんで加奈がここに居るのよ!」

 「いやなんでって、彼女が今日会うって言ってた人だし、てか、もしかして知り合い?」


 「そうよ!小学校が同じで……その、中学では疎遠になっちゃったけど、仲が良かったのよ」

 「あーなるほど」


 仲がいい云々はともかく、知り合いだっていう可能性は普通に考えられることだったな。福村は中学が園田たちと離れたと言ってたし、それまでが一緒でも全くおかしくない。


 「そ、それで、その」

 「ん、どうした?」


 福村は何か言い淀むようにしてもじもじとしていた。


 「あの子とどういう関係なのよ。その、仲いいの?」


 あーそっか。まだどんな人に会うかって話してなかったな。一応顔を合わせてからのほうがいいかと思ったんだけど、知り合いならまぁいいか。


 どちらにせよ、福村には知ってもらうつもりだしな。


 「例の証拠だよ。まぁ、詳しくは三人でな?」

 「え、証拠?……ああ!そういうこと!」


 明らかに動揺している福村。そこには安堵も見て取れた。何を危惧していたんだ?


 あ、もしかして?


 「別に付き合ってるとかじゃないから」

 

 何に向けての言い訳なんだと思いながら、俺はそう言った。でも、俺の予想はおそらく当たっていたようで。


 「ふーん。な、ならいいけど」


 ならいいけどって、聞きようによっては、だよなぁ。


 ここで余計なことを言って機嫌を損ねるのも嫌だしな。


 そうやって俺は目をそらした。


 「とりあえず。入るぞ」

 「ん、そうだね」


 そう言って俺と福村は、宮島のいる席へと向かっていった。


`ーーーー


 「それにしても本当に久しぶりだね、加奈」

 「そうだね、まいちゃん」


 席について、二人はそんな言葉を交わす。しかし明らかに宮島の声色は暗いものだった。


 それもそうだろう。なんせ彼女はこれから、自分の犯した罪を友人に明かすのだ。


 俺以外の人間が来るのは事前に伝えていたから、覚悟はしてきただろう。だけど、かつての友人だったことまでは予想できていただろうか。


 仮にできていたとしても、彼女はこの場に来たと思うけど。


 「あのね、まいちゃん」

 「ん、どうしたの?」


 宮島の態度から、真剣な話が始まると察したのだろう。彼女は聞き入れる姿勢をとった。


 「私ね」


 彼女は話し始めた。その姿は、あの日と変わらず断罪を望む子供のようだった。


 それだけで彼女の、この場にかける思いが伝わってきたのだったーー



ーーーー


 「ってことなの」

 「そう、だったんだ」


 宮島は全てを打ち明けた。俺に告白したことを、彼女にとって関係のないはずの福村に全てを話した。


 それを聞いた福村は、しばらくの沈黙の後、こう語り出した。


 「正直、私から言うことはないかな?」

 「え?」


 そんな言葉に疑問符を浮かべる宮島。

 

 きっと彼女は、福村に責められると思っていたのだろう。だけどそうはならなかった。


 「そりゃ腹は立ったし、ひどいとも思った。でも、許すか許さないかは喜多見次第だし、そもそもそれを望んで行動したわけではないんでしょ?」

 「うん。これは私がそうしなきゃって思ってるだけ。許してもらえるかは、関係ない、かな」


 たしかにそうかもな。福村に宮島をどうこうする権利は無い。大事なのは俺と宮島の意思だ。


 それに宮島は許されることを望んだわけではない、か。それって実はすごいことなんじゃないかって思う。


 謝るのは、許してもらうためだ。許してもらえなきゃ意味がない。少なくとも、俺はそう思っていた。


 許してもらえるようにと彼女は言っていた。でもそれはあくまで、許されることが彼女の罪滅ぼしに繋がるからそう言っただけか。


 謝るという行為にも色々あるんだな。


 そしてそれを、宮島は実行している。きっと、たくさんの勇気が必要だったことだろう。


 「喜多見がいいっていうなら、もちろん私はいいと思う。それになんていうか……加奈の反省が伝わってきたっていうか、それをただ否定するのも、違うかなって」

 「ありがとう、まいちゃん」


 まぁなんだ?二人が納得できる形になって良かった。


 ここで仲違いされても困るし、実を言うと少し懸念していたことでもある。


 晴れて本題に入れると言うものだ。




ーーーー


 「で、宮島。話って?」

 「うん。まずはこれをみてほしい」


 そう言って彼女は携帯を差し出してきた。その画面には、メールが表示されていた。 


 なんかデジャブ。


 【☆速報☆喜多見、また色んな人に迷惑をかけてる模様!!反省の色なし!!】

 

 「まじか」

 「また?」


 誹謗中傷、再びである。


 「またこんなメールが回ってきてね、しかも送信元が、その」


 彼女は画面をスクロールして見せてくれる。


 画面には【Itakura@zmail.com】と書かれていた。


 「板倉か…」

 「そんな、瑞樹、どうしてよ」


 隣の福村は、俺以上にショックを受けていた。


 まぁそれもそうか。もしかしたらわかってくれるかも、なんて期待が彼女にはあったのかもしれないしな。


 「その、他にもあって」

 「これだけじゃないのか」

 

 そう言って宮島は、似たようなメールを2.3通見せてくれた。


 「一応伝えておいたほうが、いいと思って」

 「ああ、助かるよ。ありがとな」


 その後、宮島はすぐに帰った。といっても帰らせた、と言ったほうが正しいか。


 この後俺はそのままバイトだし、用もなくこの場には留まりたくないだろうしないな。だけど多分俺が促してやらないと、帰りづらいだろうし。


 福村は宮島と一緒に店を出た。きっとこの後、色々と話すのだろう。


 「先輩、お疲れ様でした」

 「ん?ああ、ありがとな」


 俺がシフトに入っている時間まではまだ時間があったので、少しゆっくりしてたのだが、そこに榊原がお茶を持ってきてくれた。


 「今お客さんいないからゆっくりしとけって、店長からです」

 「ああ、あとでお礼言わなきゃな」


 榊原は二人分のお茶を机に置いて、隣に座った。


 「いいんですよ、お礼なんて。こんなの、あの時の分ですって」

 「ああ、あの誤解の話か」


 俺がクビになったと勘違いした事を言ってるようだ。それにしたって引っ張りすぎでは?


 「いいんです!!だって、ショックだったのは先輩だけじゃないんですから」

 「え?俺だけじゃない?」


 それってつまり、榊原もショックだったってことか?


 「さ、早く飲まなきゃさめちゃいますよ!てか、この気温ならあったかい必要ないかもですけど」

 

 何だかはぐらかされた気がするが、まぁいいか。


 最近どんどんあったかくなってるし、今こうして心が落ち着いてきたのも、きっとそのおかげもあるのだろう。


 「あったかいですね」

 「そーだな」

 

 だけどそれは、きっとそれだけが理由じゃないってことを、俺はしっかりと自覚していた。



ーーーー


 私は再会したかつての友人、加奈と駅に向かって二人で歩いていた。


 喜多見はこの後バイトらしい。長居するのもアレなので、二人して出てきたというわけだ。


 私の家は駅とは反対なんだけど、そんな距離もないし、何より今は彼女と話がしたかった。


 「ごめんね、こんな再会になっちゃって」


 加奈が神妙な面持ちで、そんなことを言ってきた。


 たしかに、理想とはかけ離れた再会と言えるだろう。


 「いいよ、別に。その、すごい反省してるみたいだし」


 今日少し話しているだけでも、それがわかった。


 彼女は後悔している。過去の行いを、自分の犯してしまった罪を。


 その後悔を行動に移している。それが簡単なことでないことは、私にだってよくわかる。


 それに喜多見が、加奈の行動を受け入れているんだ。私がとやかくいっても仕方ない。


 「彼、不思議な人だよね」

 「不思議な人?」


 彼、というのはもちろん喜多見のことだろう。


 「うん。なんていうか自分の痛みにというかさ、正直私ね、もっと恨まれていると思った。少しも受け入れてもらえなくて、はっきり拒絶されると思ってたんだよ」

 「それは」


 違うよ。そう、言うつもりだった。


 だけどついで言葉が出ることは無かった。私はその言葉を飲み込んだ。


 「確かに、そうかもね」


 違う。本心ではそう思ってない。


 彼は変わったんだ。以前に比べて、なんていうか余裕ができただけだ。


 別に痛みに無頓着なんじゃない。彼は目を逸らしてるだけ。


 実際に彼は、「辛かった」と言っていたわけだし。


 本当は人並みに傷ついてるし、人並みに悲しんでる。


 でないと、私が感じていた苦しみに気づけるはずがないから。


 ただ、それを表に出さないだけ。


 私は思うのだ。


 彼が私の立場を案じてくれるのは、自分の痛みから目を逸らそうとしてるだけなんじゃないかって。


 つまりは自分と似た境遇(噂や誤解による立場の悪化)に陥った私を助けることで、自分を助けたつもりになりたいんじゃないかって。


 人を助けることは、時に自分を助けることになるから。


 かつて喜多見に話しかけた私だって、「あの子」に対する後悔があったわけだし。


 つまり彼は私に、自分自身を重ねてるんじゃないのだろうか。


 要するに、「自分と似た境遇の人」を助けようとしているだけで、私を助けたいわけではない、ということ。


 私が特別なわけでは、ない。


 そう思ってしまったのにも、理由がある。


 だって彼が加奈に向けていた目は、すごく優しいものだったから。


 端的に言えば、嫉妬した。


 何でもないように受け入れ、彼女と話す喜多見。それを受ける加奈に、嫉妬した。


 そうだ。彼は誰にだって優しいんだ。私にだけ特別優しいわけじゃない。


 だけどそれを認めたくはなかった。


 「ちょっと抜けてるところがあるからね、喜多見は」


 だから誤魔化した。嘘をついた。


 本当は彼が優しいからって、そう言うべきだ。痛みは感じてるし、悲しいことだってあるんだよって、伝えるべきだ。


 だけど私にはできなかった。彼を、喜多見を優しい人間って言ったら、自分の特別が消えてしまいそうだから。


 そしてそんな私欲に満ちた、自分の思考に嫌気がさす。


 駅で彼女と別れた後、まっすぐ帰宅した私はすぐに寝る準備をした。


 一刻も早く眠りにつきたかった。これ以上の自己嫌悪には耐えられそうになかった。

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