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一人と独りの静電気 改訂版  作者: 枕元


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16/40

15

 店に入ってくるなり大声でそんなことを言う板倉に、俺は目を丸くして驚いた。

  

 驚いたのは福村も同じようで、彼女は彼女で頭に疑問符を浮かべているようだ。


 「ちょっと。誰だか知らないですけど、もうお店閉めてるんですけど」


 そう言って榊原が間に割って入ってきた。


 そう、すでにお店は閉じてある。扉にぶら下がっている板は、すでにOPENからCLOSEに変わっている。


 にもかかわらず彼女は入ってきた。普通に迷惑行為だ。


 それでも彼女は自分には非がないと、その態度を崩すことはなかった。


 「友達が騙されてるのに、黙ってるわけないでしよう?関係ないのは黙ってて!」

 「なっ、関係ないって……私だって先輩のこと心配して!」


 「心配してるのはこっちも同じなの。わかる?ちょっと黙っててね?」


 有無を言わさないその態度に、榊原は気圧されてしまった。


 これ以上は彼女が可哀想だ。というか、勇気を出してくれたこと自体が、俺にとってはすごく嬉しかった。


 彼女はそこまで行動的ではない、というのが俺の印象だった。


 明るいのはあくまで知り合いにだけ。客にまで愛想を振りまくタイプではない。


 特に、急な出来事には慌ててしまうことが多い。


 俺が彼女の何を知っているんだと言う話だが、ともかく彼女は助けを出そうとしてくれた。


 それだけで俺にとっては十分だった。


 「榊原、大丈夫だから」

 「でも、先輩。この人例の人ですよね?」


 直接見たわけではないが、店長から多少の話は聞いていたのだろう。どんな相手かは察したらしい。


 「それでも大丈夫だ。ありがとうな、榊原」

 「あうぅ。わかりました、先輩」


 榊原は俺の言葉に、少々不服そうにしながらも従ってくれた。


 それでも心配なのだろう。その視線はずっとこちらに向けられたままだった。


 いつまでも話を進めないわけにもいかないので、とりあえず俺は板倉に尋ねる。


 「板倉さん。俺たち今大事な話をしてるんだけど、日を改めてもらえるかな?」


 きっとこれは避けられない衝突。だからせめて、と思ったのだが。


 「馬鹿言わないで。その内に手遅れになったらどうするのよ」


 これだ。まるで聞く耳を持たない。これは何を言っても無駄だろう。


 「これ以上舞華を傷つけさせるわけにはいかないのよ。それに、恵美もね」

 「瑞樹、別に私は、喜多見が悪いなんて思ってない」


 彼女の言葉に、福村はそう返す。


 その声ははっきりと震えていた。


 「恵美と喧嘩したのも?」

 「っ!そ、それは関係ないでしょ!!」


 「園田と、喧嘩?」


 嫌がらせを受けたりとかではなく、喧嘩?


 「あんた知らないの?恵美と舞華があんたのせいで喧嘩してるの」

 「俺のせいで、喧嘩か」


 状況を掴み切れてはいないが、福村の様子を見るに喧嘩をしたこと自体は本当みたいだ。


 「ち、違うから!喜多見のせいなんかじゃない!」


 福村が声を荒げて板倉の言葉を否定する。


 福村の様子は何かに怯えているようで、それはさっき俺に謝ってきた時にも彼女が見せたものだった。


 (怖いんだ、きっと)


 「なんでそいつを庇うのよ!そいつはいじめなんかをする最低なやつで、今恵美と喧嘩してるのもそいつのせいでしょ!」


 「ちがうの!あれは私が言いつけを破ったせいで、迷惑、かけたせいで……」


 彼女の言葉がそこで途絶えた。


 きっとこの事実を言うことが、彼女は怖かったのだろう。


 確かに驚いた。喧嘩という状況にまで発展していることは知らなかった。


 そしてそれが俺絡みだということ。


 それは確かに、俺は「迷惑だ」って言っただろう。


 「勝手なことをするな」「なんで関わろうとするんだ」


 「自己満足を押し付けるな」と。



 「舞華はなんでそいつに構うのよ!なんでそんな奴の味方をするの!?」

 「そ、それは……」


 受け入れるのも、突き放すのも、全部苦しくて辛いこと。


 だったら一人でいい。本気でそう思ってたし、そうなるように意識してきた。


 独りが嫌だから、一人を選んだ。


 それを否定されるのが嫌だった。


 人の幸せを決めつけないでほしかった。


 何かを捨てて選んだ道だなんて、思われたくなかった。



 そして何よりも、過去の自分を否定したかった。

 

 間違った考えだと、二度と間違いが起こらないようにと。




 「嬉しかったんだよ、本当は」 

 「……喜多見?」


 俺の言葉の真意を掴めない様子の二人。


 構わず、続ける。


 「自分が否定されたものを、誰かに肯定してもらえた気がしてさ」


 その在り方は、理想だった。


 別に深い理由なんかなく、手を差し伸べることができる。


 かつて否定したら自分に、手が差し出された。


 そう感じたんだ。


 「別に今の自分が間違ってるなんて思わない。今だって、踏み込むのも、踏み込まれるのも怖くて苦しい」


 それでも、今こうして幸に、母さんに向き合おうと思えているのは、そのきっかけを作ってくれたのは、間違いなく彼女だ。


 俺があの時、一緒に住もうと言う幸の提案を受け入れられたのは、どうしてだろうか。


 連日付き纏ってきた福村から、無理矢理距離を取らなかったのはどうしてだろうか。


 「はっきりとは言えないけど、多分辛かったんだと思う」


 かつて彼女が言った言葉は、自分の思う以上に響いていた。


 きっとその言葉に、知らず知らずのうちに救われていた。


 「今こんな状況になっても、正直学校のこととかはどうでもいいんだよね」


 嘘じゃない。心底どうでもいい。


 だって、俺には逃げ道があるから。全てを捨てて逃げられるから。


 「だけど福村が今置かれてる状況は、無視できなくなった」

 「え、わ、私の?」


 思いがけないタイミングで自分の名前が出てきたことに、福村は驚いていたようだった。


 「ああ、福村の状況だけは改善したいと思ってる」

 「どうして?私は、自業自得で、私が悪いのに?」


 なんで俺が手を差し伸べるのか、分からないようだった。


 言葉たらずだろう。そのままの意味じゃない。


 だけどあえて俺は、その言葉を選んだ。


 「福村が、()()()()()()()()

 「っーー!」


 きっと伝わる。彼女になら。これ以上は、蛇足だと思った。


 だけど、それでは伝わらない存在がここに入る。


 「ちょっと、黙って聞いてればなんなの?意味わかんない!!とやかく言ったところで、あんたが最低なやつってことには変わらないのよ!?」


 板倉なら、きっとそう言うと思った。


 「そ、それは違うって」


 福村が反論しようとしてくれるが、彼女は知らない。


 あの日何があったのか。俺が何を思ったのか。


 彼女は踏み込んでくれた。俺に救いの手を差し伸べてくれた。


 だから、今度は。


 「今から話すよ」


 「「え?」」


 二人の声が重なった。


 俺は深呼吸を入れて、覚悟を決めた。


 「あの日、何があったのか話すよ」


 俺も踏み込む時が、きた。



ーーーー


 「ちょっと待っててくれ」


 そう言って俺は一度席を外す。二人ともそれに何も言うことはなかった。


 俺は少し離れたところで、見守ってくれていた店長に声をかける。


 「店長、その、もう少しかかりそうなんですけど」

 「気にするな。もし遅くなったら、車で送ってやる」


 ここは店長の優しさに甘えさせてもらうことにしよう。


 俺は店長の横を通り過ぎて、休憩室に入った。


 そこに置いてあった自分の携帯で、電話をかける。


 「もしもし、幸ーーーー」

 「お兄ちゃん!?なんで電話出てくれないの!?」


 幸の大声に、少し驚く。

 電話をしながら着信を確認すると、確かに何件も入っていた。


 連絡なしに帰りが遅くなったから心配してくれたのだろう。


 「もー心配したよ?なんかあったの?」

 「いや、なんかはあったんだけど、どう説明したものか」


 結果が出るのはこれからだしな。


 「ま、無事ならなんでもいいけどね?」

 「ありがとな。それで、ひとついいか?」

 

 どうしても幸には言っておかないといけないことがある。


 「今ある人と一緒にいて、それで、あの日のことを話そうと思ってるんだ」

 「……うん。それで?」


 あの日というのがいつのことか、そしてそれがどういう意味かは、幸はきっと正しくわかってる。それでも幸は、俺に言わせてくれた。


 「本当は一番に幸にしなきゃいけないのに、だ」

 「うん」


 「もし幸がさ、嫌ならやめる。帰って、幸に話してからにする。俺はどうすればいいと思う?」


 この期に及んで、また同じだ。結局幸に頼ってる。


 これもまた、ずるい質問だ。


 「意地悪だね、お兄ちゃん」

 「そうなんだ、ごめんな、幸」


 声だけで、幸が少し微笑んだのがわかった。


 「言ったよね?待ってるって。だからお兄ちゃんの好きにして?」

 「ありがとうな、幸」


 こうして俺は、再び背中を押してもらった。

 もう逃げるわけにはいかない。


 大丈夫。気負うことはない。


 こんなにも頼りになる家族がいるのだ。


 だから大丈夫。


 俺は気持ちを落ち着かせ、二人の元へと戻っていった。

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