第七話 目を覚ましたらお姉さんと……
「どうしたもんかな……」
次の日になっても葉月さんの告白の返事をどうするか、考えがまとまらずに頭を悩ましてしまう。
葉月さんの事、嫌いではないし、むしろ好きなんだけど、最近は色々とあり過ぎて頭の中がグチャグチャになっているというか。
里美の事なんてもはや未練もないし、寄りを戻そうなんて気もないんだけど、やっぱり思い出すと腹が立ってしまい、この状況で葉月さんと付き合っても上手く行くのかどうか……。
「あの……」
「ん? さ、里美。何だよ?」
何て休み時間に悶々と考えながら、廊下を歩いていると、里美がバツの悪そうな顔をして、俺に声をかけてきた。
「事故に遭ったって聞いて……怪我は大丈夫なの?」
「ああ、大したことないよ。それがどうした?」
「そ、そう。ならよかった。お大事に」
「あ、おい」
何か言いたそうだったが、里美はそう言うとそそくさと立ち去ってしまった。
流石に俺をフったその日に、交通事故に遭ったってのを聞いて、不憫に思ったのだろうか。
そんな同情ももはや何の慰めにもなりゃしないけど、お前のせいであんな目に遭ったんだよクソ。
「あ、もしもし、進一郎?」
「葉月さん。どうしたんですか?」
ちょうど帰りのホームルームが終わり、学校から出た所で葉月さんから電話がかかってきたので、出てみると、
『昨夜はゴメンね。ちょっと、強引過ぎちゃったかなって思って』
「いえ……俺の方こそ、すみません。ハッキリと返事出来なくて」
『ううん、良いの。やっぱり、私もやり過ぎたって反省しているよ。それで進一郎にお詫びしたいと思うんだけど、今度の土曜日、暇?』
「土曜日ですか? 特に予定はないですけど」
『本当? なら、ちょっとだけ付き合ってくれない。私がお茶を奢るからさ。事故や保険の事で話したいこともあるし』
事故や保険の事なら、俺じゃなくて親に話を付けた方が良い気がするけど、それを理由にしたデートって事かな。
『駄目?』
「いいですよ。葉月さんと会って話をしたいって思っていましたし」
『ありがとう。じゃ、土曜日の午後にね♪』
今度の土曜日にまた葉月さんと会う約束をしてしまったが、その時に返事をすればいいかな。
めっちゃ迷うんだけど、引き延ばしをあまりするのも失礼だし、そこで覚悟を決めるか。
『えへへ、やっぱり進一郎は良い人だね』
「そ、そうですか」
『うん。進一郎を振った元カノ、見る目ないと思うよ。しかも浮気していたんでしょう。とんでもない子じゃない』
「あはは……まあ、まだ引きずってはいますけど、出来る限り、早く吹っ切れたいなって思っています」
『だよね。私も協力するからさ。本当にごめんね、そんな日に私が……』
「いえ、それは偶然ですし」
別に里美の件に関して、彼女が責任を感じる必要はないんだけど、実際、凄いタイミングで事故に遭っちまったもんだよな。
あれでもし死んでいたら、神も仏もこの世に居ない事になるけど、葉月さんが良い人だったのがせめてもの救いか。
『じゃあ、土曜日にね。楽しみにしているから』
土曜日に会う約束をし、葉月さんとまたデートする事になってしまった。
そこで気持ちを伝えないと……いい加減、里美の事も吹っ切れないとな。
そして約束の日――
「あ、こっちこっち」
葉月さんと待ち合わせ場所の駅前に行くと、既に葉月さんが待っており、俺の姿をみるや大きく手を振って、手招く。
「すみません、待たせちゃいましたか?」
「ううん、今、来た所。じゃ、行こうか」
葉月さんが俺の手を握り、二人で手を繋ぎながら、歩き始める。
もう傍から見たらカップルだよなこれは。
(葉月さんが俺の彼女に……)
いや、まだ返事はしていないし、あの告白も本気なのかどうかわからない。
慎重すぎるかもしれないけど、里美の事もあるから、どうしても及び腰になっちゃうんだよな。
「ナゲットのセットにしようかな。進一郎は?」
「あ、俺も同じで」
近くのファストフード店に行き、二人で軽食を摂ることにする。
何処に連れていくのかと思ったら、普通の店だったので、ちょっとホッとした。
「ここが良いかな。今日も進一郎に会えて嬉しいよ。えへへ、ねえ、この前の事なんだけど」
「は、はい」
隅っこの方の席が空いていたので、そこに座り、葉月さんが本当に嬉しそうな笑みで俺に話しかける。
やっぱり葉月さん可愛いなあ……俺より、ちょっと年上だけど、何ていうか頼れるお姉さんって感じもするし、付き合いやすいかも。
「あー、えっと。私もやり過ぎちゃったかな。本当にゴメンね。進一郎が喜んでくれることって何かなって思ったら、ああいう事、しちゃって。迷惑だったよね?」
「迷惑というか、ビックリしちゃったというか。ああいう経験初めてだったんで」
「そうなの? 彼女とはその……」
「あー、そういう経験は……」
里美とはなかったんだよな。もちろん、したい気持ちはあったんだけど、何となく踏み切れなかった。
「ふーん。ま、高校生だしね。って、私も結構最近まで高校生だったんだけど」
「葉月さんはその……」
「何?」
もう経験済みなのか聞こうとしたが、流石に止める。
いくら何でもここで聞くのはまずいわな。一見すると、結構遊んでそうな雰囲気だけど、どうなんだろう?
「いえ、この前の返事、ここでしないとまずいのかなって」
「ああ、別に焦らなくてもいいよ。私もちょっとまずかったなって思ったし」
「そ、そうですか。すみません」
ここで返事しないといけないかと身構えたが、葉月さんは軽い口調でそう言ってくれたので、ホッとする。
何かキープをしているみたいだけど、俺もいきなりああいう事をされちゃうとね。
「体の方はもう大丈夫?」
「はい。多分、検査でも異常はないと思います」
「よかった! じゃあ、安心だね」
もう体に痛みもないし、心配はないだろう。葉月さんもまだ事故の事は気にしているだろうし、俺が完治したってわかれば、気も楽になるだろう。
「すみません、また払ってもらって……」
「いいの、いいの。これも事故のお詫び兼ねているし」
食べ終わった後、二人で店を出て、しばらく彼女に腕を組まれて街中を歩いていく。
さり気なく腕を組んだりしているけど、これって葉月さんなりのスキンシップなのか?
「体の方は本当に大丈夫?」
「ええ。もう平気ですよ……ふわ……何か、眠くなってきたな」
「だ、大丈夫? ちょっと休もうか?」
「いえ……」
何だろう? 急に眠気が……昨日、寝不足だったかな?
「た、大変。ここで休憩しようか?」
「え? そ、そうですね」
葉月さんが近くにあった建物を指差してそう言ってきたので、意識がもうろうとする中、建物に入っていく。
何だか知らないが、仮眠を取らないと……。
「…………う。ふわあ……寝ちゃったか……ん?」
目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋の中におり、辺りを見渡す。
あれ? ここは何処? てか、何でこんな所に……?
手を置くと、何か柔らかい物が触れたので、見てみると、俺の横で葉月さんが寝ていた。
何だ葉月さんと……はっ!?
「うおおああっ!!」
「う……あ、進一郎、起きたんだ」
「ふえっ! え、何でっ!?」
葉月さんが俺の横で裸で寝ており、しかも今、気づいたんだが、俺も服を着ていなかった。
は? どうなっているのこれ? まさか……。




