第四十六話 彼女からの評価が最低に
「葉月さんへのプレゼント、何にしようかなあ」
帰りにショッピングセンターに行き、葉月さんが喜びそうなものがないか探す。
ったく、英樹もケチな野郎だな。
葉月さんが好きな物くらい教えてくれても良いだろうに。
ま、あんまり期待はしていなかったが、自分の姉貴の為なんだし、ケチ臭い野郎だな。
とはいえ、ブランド物を買う金はとてもないし……葉月さんが好きな食べ物って、何だろう?
よく考えると、俺は葉月さんのことをあまり知らないな。
最近は、葉月さんが俺にキツく当たっているから、余計に好きな物とかわからない。
「とはいえ、本当に嫌っていたら、俺と付き合い続けたりしないだろうしな」
そういう人ではないと思うし、何より英樹と同じ様な扱いをされているという点だ。
葉月さんはあいつの事を本当はどう思っているのか。曲がりなりにも実の弟なら、嫌ってはいないはずなので、もしかしたら、葉月さんの中では俺の株は意外に低くないのかもしれない。
愛情の裏返しだったり……いやー、はは。葉月さん、ツンデレっぽい所あるから、有り得るかもな。
違うかもしれないけど、そう言い聞かせて、ショッピングモールで葉月さんのプレゼントを探していったが、なかなか見つからなかったのであった。
「うーん、葉月さんが喜びそうなものってなんだろう」
やっぱりブランドものじゃないと嫌なのか? てか、彼女が普段着ているの、別にブランドものじゃないよな?
モデルの収入がどれくらいあるか知らないけど、いくら何でも数百万のブランド物を買えるだけの収入がある訳ないしな。
「はーい、クソムシ君」
「ん? は、葉月さん。どうしてここに?」
「どうしても何も私がショッピングセンターに居ちゃ行けない訳? あんたの顔を見たから、声をかけてやったのよ。ありがたいでしょう」
「は、はは。それはもう」
何て考え事をしていると、葉月さんに声をかけられたので、嬉しくて小躍りしそうになる。
理由はどうあれ、葉月さんと会うと嬉しいなー。
「んで、何を物色していたのよ?」
「いやあ、はは。葉月さんにプレゼントするなら、どんなものが良いかなって」
「ブランド物をプレゼントしろって頼んだでしょうが。ほら、さっさと買え。買ったら、インスタに上げた後、質屋に売って金にするから」
「売るんですかい!」
「当り前じゃない。最近、ちょっと金欠気味でさ。金になる物を売って、何が悪いのよ? 進一郎も嬉しいでしょう。最愛の彼女様が金に困らない様になるんだからさ」
堂々と俺の前で言っちゃうあたり、凄い神経をしているなと感心してしまうが、どうせブランド物なんかプレゼント出来ないだろってわかっているから、そんな事を言っているのかもしれない。
葉月さんも人が悪いなあ。今まで付き合ってきた彼氏にもそんな態度だったんだろうか?
「そうだ、今日のお弁当なんですけど」
「あらー、食べたんだ。私が愛情込めて作ったスペシャルメニューよ。美味しかったでしょう」
「あ、ははは……まあ、美味しかったんですけど、その……あのおにぎりは……」
大量のワサビを入れてあったおにぎりについて恐る恐る訊ねると、葉月さんは鼻で笑ったような顔をし、
「くす、あれが特別メニューよ。男子って辛い物好きだから、あんたも喜ぶと思って。ワサビって殺菌作用があるらしいから、クソムシもあれで少しは消毒されたんじゃない」
「な、なるほど。消毒の為に入れたんですね」
なんて言われて納得するわけはないんだが、ちょっとしたイタズラのつもりだったのかな?
「全部食べたんでしょうね?」
「もちろん。葉月さんの手作りのお弁当を残す訳ないじゃないですか」
「はは、そうよね。当然よ。残したら、あんたのその薄気味悪い顔、へし折っているところだったわ。あの弁当作るのに、私、今朝は朝の六時前に起きたんだからね。朝が弱い私にそこまでの苦労をさせておいて、残すなんて、そんな罰当たりな真似するわけないわよねえ」
本当にやりそうなので怖いが、取り敢えず何とか完食しておいて良かった。
「弁当と言えば、この前、英樹にもサンドウィッチ作ったんだけどさ。あいつ、辛い物が好きだから、サンドウィッチにマスタードをちょっと多めに入れておいたのよ。そしたら、あの馬鹿、『こんな物食えるか!』って言って、サンドウィッチ投げつけて来やがったのよ。信じられないことするわよね。何様のつもりだっての。折角、私が作ったのに、食べ物を粗末にしやがって。本当、とんでもないクズ男よね」
ああ、さっき英樹が言っていた奴か。
葉月さんはちょっと多めにしたって話しているけど、恐らく大量に食えないくらいに入れていたんだろう。
英樹の反応がむしろ普通だと思うが、もしかして日常的にやっているのか?
「そ、そう言えば、葉月さんの誕生日って四月二十日だったんですね」
「それがどうしたのよ?」
「いやー、はは……今日、英樹……じゃなくて、葉月さんの弟さんに話した時に聞いたので……」
「へえ……今日知ったんだ」
「はい。すみません、誕生日プレゼント、遅くなっちゃうけど、何か……」
「このウスラ馬鹿のタコがっ!」
バンっ!
「い、いたっ! な、何するんですか!?」
葉月さんに誕生日の事を話すと、葉月さんは俺の頭を怒鳴りながら、思いっきり叩く。
「あんた私の誕生日を今日まで知らなかったですって? やっぱりあんた、クソムシね。最低最悪の馬鹿彼氏よ!」
「は、はあ? でも、葉月さん、俺の誕生日を今まで……」
「そんなのが言い訳になる訳ないでしょうが。ほら、これ見なよ。私のインスタのプロフィールよ!」
「えっと……あ」
葉月さんのSNSのプロフィール蘭を見ると、『birth April 20』と思いっきり書いてあった。
「誕生日の投稿だってだって毎年しているのよ。つまり、あんたは私のインスタも全然見てなかったって事ね」
「す、すみません。たまに見ていたんですが……」
「やっぱり見てないんじゃないっ! どうりで、コメントもⅮⅯも全然来ないと思ったら。このクソムシっ! 脳みそ入ってねえだろ、てめえっ!」
「ごめんなさい~~!」
俺がインスタをチェックしていなかったことがよっぽどお怒りだったのか、俺の事を人目もはばからず、バンバン叩きまくる。
トホホ……また怒らせてしまったじゃないか。
「はあ、はあ……ああ、もうイライラするわね。進一郎、あんたは彼氏としても百点満点でマイナス点よ。赤点どころか0点すら付けられないわ!」
「そ、そんな~~……じゃあ、そんな男と付き合っている葉月さんは……」
「てめえの事故の詫びに付き合ってやってるんだよ! マイナスを解消したいならね……もうちょっと男らしい所、見せろってのっ!」
「は……はいい……」
またも俺の株が暴落してしまい、葉月さんの怒りを鎮めるにはどうすれば良いのか悩んでしまう。
というか、もはや事故のお詫びに付き合ってやってるって認識なのね。
「ふん、もう帰るわ。じゃあね」
「あのー、今度、またデートしましょうよ」
「ああ? そんな気分じゃねえ……って、こらっ! いきなり抱きつくなっての」
帰ろうとした葉月さんの後ろから抱きつき、デートに付き合ってくれっておねだりする。
実に情けない姿だが、とにかく葉月さんのご機嫌を取るためには何でもしたかったのだ。
「お願いしますって。葉月さんと楽しみたいんですよ」
「ほおずりすんな、キモイわね! ああ、もうわかったわよ。日曜日、付き合ってやるから」
「本当ですか? ありがとうございます。流石、葉月さん。五つ星の彼女のだけありますね」
「ふん。わかったら、離れろ」
何だかんだでOKしてくれるので、葉月さんも俺の事は嫌いではないのだろう。
やっぱり、好きな人には敢えて冷たく当たる人なのかもな。英樹や俺への態度も愛情の裏返しなんだと。




