第四十四話 彼女にしてほしいこと
「あーあ、つまんないデートね。帰ろうかしら」
「ちょっ、まだ会ったばかりじゃないですか」
カフェオレを飲み終わらない内に葉月さんは溜息を付いて帰ろうとしたので、慌てて引き留める。
本当に機嫌が悪いんだな……どうにかして、葉月さんの機嫌を直したいんだけど、彼女を抱くしかないのか?
「会ったばかりだろうが、どうだろうが、私がつまんないと思ったら帰るの」
「じゃ、じゃあ、葉月さんが喜ぶような事しますから」
「へえ。私が喜ぶことね。何をしてくれるってのよ?」
「それは……」
咄嗟にそう言ったが、すぐには思い浮かばないので困ってしまう。
というか、葉月さんの好きな物って何だろう?
付き合っているのに、未だによくわからないのヤバくないかな……。
「とにかく葉月さんの笑顔が見たいんですって」
「ふーん。そうね。じゃあ、今ここで死ね。そしたら笑ってやるわよ」
「あ、あのですね……そういう冗談は止めてくださいよ」
「あんた、私の笑顔が見たいんでしょ。なら、今死ねよ。そしたら、面白くて笑っちゃうかもしれないからさ。進一郎みたいなキモイ男が無様に死ぬ様を、この目で見るの、超面白いと思わない?」
全く面白くも何ともないんだが、葉月さんはもしかして、俺に早く別れてくれと言わせるために、わざとキツく当たっているのか?
本当に俺と付き合うのが嫌なら、自分の方から言ってくれれば良いのに、本当わからない方だな。
「死んだら、葉月さんの笑顔見れないですって。他にないですか?」
「はん、この腰抜けが。じゃあ、これ買ってよ」
「ん? これは……」
葉月さんが俺にスマホでバッグの写真を見せる。
どうやら、有名なブランド物のバッグらしいが、お値段はえっと……。
「私に似合うと思わない?」
「に、似合うと思いますが、お値段がですね……」
ゼロが一、二、三……税込みで二百五十万っ!?
たかがバッグに何でそんな値段がするんだよ?
「ほら、早く買ってよ。そしたら、私も超喜んでやるからさ」
「いやいや、無理ですって。そんな金、ある訳……いだだっ!」
無理難題を吹っ掛けまくって、一体何がしたいのかと思ったが、また葉月さんが足を踏みつけ、
「あんたさ、いっつもそれだよね? 私が何かお願い事をすれば、二言目には『そんなの無理です~~』って、グダグダ言い訳して、泣き言を言いやがって。金がないじゃねえよ。最愛の彼女が欲しいって言っているのよ。金がないなら、マグロ漁船に乗ってでも金を用意して、買いなさいよ!」
「あの、無理なものは無理ですって」
葉月さんが何を言おうが、二百万なんて金を高校生が払えるわけがないし、まさか葉月さんだって本気で俺が買えるとは思ってないよな?
理不尽な八つ当たりをされている気分だが、俺も葉月さんには悪いことはしたと思っているので、何とかご機嫌を取らなければ。
「ふん、つまんない男ね。帰るわ。お代はあんたが持ちな」
「あ、待ってくださいって」
葉月さんがカフェオレを飲み干した後、席を立ってしまったので俺も慌てて伝票を持って彼女の後を追い、会計を済ませる。
「葉月さん、待ってください。まだ二人で遊びましょうよ」
「うっさいわね。帰るって言ってんでしょうが」
「まだ時間が早いですよ。ほら、行きましょう」
店を出た後、葉月さんを全速力で追いかけて、帰ろうとしていた彼女の手を掴む。
嫌だろうが何だろうが、付き合っているんだから、もうちょっとデートを楽しみたい。
「しつこい野郎ね。デートを続けたいなら、さっき見せたプラダのバッグ買えって言ったでしょう」
「い、いつか買えるように頑張りますので」
「いつかっていつよ? 今、買え。今が無理なら一か月くらい待ってやるから、それまでに金を用意しな」
「一か月で二百五十万ですか……はは、それは中々、ハードルが高いですね」
どう考えても無理に決まっているが、そんな短期間でそこまでの大金を稼げる方法が本当にあるなら、とっくにみんなやっているだろう。
「あんたもさ。私と付き合えるって事、もっとありがたがった方が良いわよ。進一郎みたいな冴えなくてキモイ男、本当なら一億円積んだって、こうやってデートできる相手じゃないんだから」
「そ、そうですよね。葉月さんの魅力はプライスレスですから! いたたっ!」
「全然、わかってねえだろ、てめえっ! あーあ、全く、イライラさせるのが得意な男ね」
「す、すみません……」
そう言うと、また機嫌を損ねてしまったのか葉月さんが俺の腕を思いっきり抓ってきたが、何だか最近、怒りっぱなしで葉月さんを楽しませる方法が何なのか悩んでしまう。
俺と別れたいのか? そうなら、そう言ってくれれば……良くはないけど、葉月さんは嫌いな人と付き合うような女性ではないと思うので、俺の事はきっと好きなんだと信じたい。
「ほら、ゲーセンにでも行きましょう。クレーンゲーム! 葉月さんが好きな景品、頑張って取りますから」
「私、そんなので喜ぶほど、ガキじゃないの」
「俺はまだガキなので……」
「そうね。ま、あのクソ弟よりガキだから、こんなものかもしれないけど、ちょっとあんたにも聞きたいことがあるわ」
「何でしょう?」
「あんた、私にどうしてほしいわけ?」
「どうって……」
葉月さんにどうしてほしいのか……あんまり、考えた事なかったが、葉月さんとは普通に付き合いたいだけなんだけどな。
「そうですね。前の彼女が浮気して散々だったので、浮気しなければ、もう何でも良いと言うか」
「ふーん。浮気しなきゃ良いわけ。んじゃ、しないでやるから、今、死ねよ」
「あのですね……俺と付き合うの嫌なんですか?」
「嫌とは言ってないでしょう。私を楽しませたいなら、ここで私が笑える方法で死ねって言っているのよ。こんな事、彼氏にしか頼めないでしょう。大して親しくもない奴に言えるわけないじゃない。あはは、私なりの愛情表現なんだから、ありがたく死んでほしいわね」
愉快そうに笑いながら、葉月さんはとんでもない鬼畜発言をしてきたが、この人は俺の事がそんなに嫌なのか?
「いやー、それは無理ですね。俺、葉月さんの手作り料理、また食べたいんですよ。そうだ、今度、お弁当作ってきてくれませんか? 葉月さんのお弁当、毎日でも食べたいです。食費は払いますから」
「へえ。また私の手を煩わせようっての」
「葉月さんの作ったお味噌汁とご飯を毎日食べたいんですよー。良いですよね?」
「きゃっ! こ、こらっ!」
葉月さんを人気のない路地裏に連れ込んだ後、胸を後ろから思いっきり掴みながら、彼女にそうおねだりする。
あれだけ私とセックスしろと迫ってきたんだから、これくらいしても良いはずだ。
「葉月さんの胸、大きいですねー」
「キモイから止めろっての。く、こんな所で、止めなさい!」
「はーい。あーあ、葉月さんと抱かないと死ねないなー」
「だったら、この前、ホテルでやりなさいよ! あんた、マジでわけわからない事するわね」
「いやー、今はもうしたいなって。今からでもホテルに行きましょうか」
「そうね。悪くないけど、明日も撮影があるの。でも、あんたの口からそういう言葉が出てきたのは評価してやるわ」
おっ、胸をいきなり揉んだのに満更でもなさそうだぞ。やっぱり、葉月さん、俺の事、まだ好きなんだな。
「ありがとうございます。もう葉月さん、最高ですね」
「え? ちょっ……んっ!」
感激のあまり葉月さんにキスをする。葉月さんもビックリしていたが、特に嫌がっている様子もなかったので、そのまま口づけを続けていった。
「んん……はあ! も、もういきなりやるから……」
「す、すみません。つい」
「ふ、ふん……もう行くわ。じゃあね」
顔を離した後、葉月さんは顔を赤くしながら、俺にそう呟いた後、その場を去っていった。




