第四十二話 やっぱり無理があった
「は、ははは……いや、ここでですか? 冗談キツイですって」
「冗談は嫌いなの。好きだけど、こんな性質の悪い冗談を言う性格じゃないのよね」
「いや、どっちなんですか、それ? いてて!」
「もしもし? 相変わらず脳みそ足りない馬鹿よね。あんたが本当に私が好きだってなら、それこそいつだって抱けるでしょうが」
また葉月さんが俺の頭をポンポンと叩きながら言ってきたが、そうは言っても、ここは葉月さんの家だし、おまけに今日は親御さんが居るんだから、無理だってのわからないの?
「えっと、今日は葉月さんのお母さんも……」
「いるわよ。だから、何? バレなきゃ平気だっての。ここ、結構壁が厚いから、声も漏れにくいし。鍵かけときゃ、入ってこれはしないわよ」
そういう問題じゃない事くらいわかっているだろうに、無茶を言うお人だな。
「言っておくけど、あんたがこの前、ホテルでやっておけば、こんな事をしなくて済んだんだけどね。進一郎がグズっているせいで、どんどんハードルが上がっていくのよ。私とセックスをするハードルがね」
「ハードルって何ですか……怒っているなら、謝りますので……」
「謝って済む話じゃねえんだよ、タコ。ほら、さっさと抱きなさい。本当なら、一億積んでも抱けないような美女を彼女にしておいてさ。あんた、まさか勃たないんじゃないでしょうね?」
「うわっ! ちょっ、何するんですか?」
葉月さんがいきなり俺の股間を揉んできたので、慌てて彼女の手を振りほどくと、すかさず俺の耳を思いっきり抓り、
「立派なもんあるんなら、それを見せろっての。私をこれ以上、イライラさせるんじゃない」
「わ、わかりました。でも、ここだと、その……」
彼女のお母さんがいつ入ってくるかわからないと言うのに、出来るわけがない。
もはや、これは嫌がらせ? 鍵は……一応、かかってはいるみたいだな。
「ほら、早くしな。やらないと帰さないけど、まさか、今夜はウチに泊まる気? 良いけど、夕飯は英樹もお父さんも一緒だから、それでも良ければ良いわよ」
「さ、流石にそれは……」
「いいから、やりなさいよ。鍵はかけてあるから、大丈夫だって言っているでしょうが」
「うう……」
も、もう逃げ場がない状況か。仕方ない……。
「じゃ、じゃあ……ん」
「んっ……!」
葉月さんの肩を抱いて、彼女にキスをし、その場に押し倒す。
もうどうなっても知らないからな。全部葉月さんの責任だから
「ん……ふふ、やっとその気になってきたじゃない」
彼女の胸に手を当てると、葉月さんも珍しく嬉しそうにしていた。
ああ、この前、やっておけばよかったんだな。頭をぶっ叩かれても、仕方ないくらいの優柔不断っぷりではあったな。
「あのー、せめてベッドで……」
「そうね。ほら、来なさいよ。お姉さんがしっかり、教えてあげるから」
床でやるのはきついので、葉月さんのベッドへ行く。ああ、遂に大人の階段を上ってしまうのか……でも、音は本当に大丈夫なのか?
壁が厚いと言うが、絶対に聞こえちゃいそうだけど、葉月さんはそれで大丈夫なのか?
「じゃ、じゃあ……」
トントン。
「――っ! だ、誰か来ましたよ」
「どうせ、お母さんよ。そんなのでなくて良いから」
「で、でも……」
流石に部屋の前におばさんがいるとなると、やるのはまずい。いくら、音を抑えても聞こえちゃうしで……。
「葉月。ちょっと来なさい」
「うっさいわね。今、立て込んでいるのよ」
「あんたに荷物が届いているわよ。ちょっと来て」
「ああ? 荷物って……」
おばさんに言われて、葉月さんも衣服を整えて、渋々、部屋を出る。
た……助かった……ナイスなタイミングで来てくれたな。
一瞬、我を忘れそうになったけど、やっぱりここでやるのはまずいよな。
「あんたが時間を指定したんでしょう。忘れちゃ駄目よ」
「はいはい。ったく、タイミング悪いわねえ」
葉月さんが箱を持って部屋に入ってきたが、どうやら何か通販で買ったものが届いたようであった。
「何ですか、それ」
「ん? 頼んだコスメが届いただけよ。全く、タイミング悪いわね、邪魔しやがって。もう少し遅く届けなさいよね」
ブツブツ文句言いながら、葉月さんが箱を開けて中身を確認するが、自分でこの時間を指定したんなら、文句を言える筋合いではあるまい。
取り敢えず、助かった……俺も我を忘れいたから、あのままだとどうなるかわかったもんじゃなかった。
「んじゃ、続きしようか」
「え? いやー、葉月さんのお母様に挨拶を……ぐえ!」
葉月さんが配達品が入っていた空き段ボールを俺の顔に思いっ切り投げつけ、
「てめえ、まだグダグダ言ってんのか、マジでぶち殺すわよ! ああ、さっきは良い顔していたのに、またすぐにヘタレのアホ面に戻りやがったわね。進一郎の顔、私がこの場で整形してやろうかしら」
「ちょっ、そんな物騒なもの持ち出さないで下さいって!」
葉月さんがつくえから、メスみたいな短刀を持ち出して、俺に向けてきたので、慌てて宥める。
「ふふ、あんたの腑抜け面を変えてやろうってんだから、むしろ感謝して欲しいわね。ほら、逃げるんじゃないわよ」
え? マジで言ってるのかこれ? 流石に葉月さんに整形の技術があるとは思えないが、これはもう逃げるか腹を括るか…….
「わ、わかりました! やりますよ! ほら、葉月さんもベッドへ!」
「わかりゃ良いのよ。取り敢えず進一郎も脱ぎなさい。あんたが逃げないように預かるから」
え、ええ? 全部脱いじゃうといざって時に外に出れないのでまずいと思うんだが……葉月さんのお母さんだって居るんだし。
「葉月さんの裸がみたいなーって。えい」
「きゃっ! もう、あんま乱暴に押し倒さない。あーん、こんな所でやるなんて、スリルあるじゃない♪」
もうヤケだと思い、葉月さんをベッドに押し倒してやる。
どうなっても知らないぞ……。
「って、どう脱がすんだこれ……うわっ!」
「きゃっ! ああ、こら気を付けなさいよ!」
ベッドからうっかり足を踏み外してしまい、葉月さんごと転げ落ちてしまう。
やっちまった……てか、ここのベッド小さいんだよな。やっぱり、ダブルじゃないと駄目なんかね。
「ほら、とっとと体を起こしなさい! ったく、どんくさい男ね」
「す、すみません。おっと……」
葉月さんを起こそうとするが、また態勢を崩してしまい、手こずっていると、
「うるせえな、何やってるんだよ……は?」
「え?」
突然、部屋のドアが開かれ、目の前に見覚えのある男子……英樹が現れた。
あ、あちゃあ……一番、見られちゃいけない奴に見られてしまったではないか。
「でっ!? 俺ん家で何やってるんだよ、てめえらはっ!」
「いや、葉月さんに誘われて……」
「そうよ。何が俺の家よ。大体、何でこんなに早く帰ってきているのよ、あんた」
「明日、試合だから、今日は明日に備えて、ゆっくり体調を整えろって顧問に言われたんだよ。ああ、もうっ! 変な物見せやがって!」
帰ってきたら、姉が彼氏とやっている最中の姿を見るとか、想像してみたら最悪なので、英樹が怒るのはまあ仕方ないが、だから止めろと言ったのに。
「てか、鍵かけとけっての」
「鍵とか問題じゃねえよ! あ、というか、俺の部屋に勝手に入ってねえだろうな」
う……やっぱり、入っちゃったんだけど、葉月さんが……。
「はん、器の小さい奴ね。大したものねえくせに」
「そういう問題じゃねえよ! あれほど、勝手に入るなって言っているだろ! 姉貴はすぐ俺の物、盗みやがるしよ!」
うわー、本当に盗んでいたのかよ。
鍵をかけられてもしょうがないわな。
「俺、もう帰りますね。今日はお邪魔しました」
「全く英樹が邪魔したせいで……」
「俺のせいにするな! もう、本当、いつもロクな事しねえんだから!」
姉弟の喧嘩に付き合いきれないので、さっさと家を出る。




