第四十一話 彼女のとんでもないお願い
「ふふふ、はーい、進一郎」
「は、葉月さん……なぜ、ここに?」
「はあ? 何でも何も、彼氏に会いに来ちゃいけない訳? 随分と冷たい事を言うのね、あんたも」
それはそうなんだが、やけに機嫌が良い……というか、不気味なくらいニコニコしているので、正直、恐怖すら感じてしまう。
まさか、百瀬さんとのやり取りを見ていた……いや、流石に校舎の外から見える位置ではなかったので、それはないはず。
「あはは、そうですよね。でも、大学はどうしたんです?」
「大学なんかどうでもいいでしょうが。そんなの自主休講よ、自主休講」
ようするにサボリな訳ね。大学の授業って、出席とか取らないのか? 葉月さんにとってはそんなことは大した問題じゃなさそうだけど。
「何かご機嫌ですね。良いことありました?」
「んーー、どっちかって言うと、悪い事かなあ。最愛の彼氏がまた馬鹿な事をやったみたいでさ」
「へ? いててっ!」
とニコニコしながら言うと、葉月さんは思いっきり俺の足を踏みつけ、
「進一郎~~……ちょっと、お姉さんに面貸しなよ。いつもの言い訳は良いからさ」
「わ、わかりましたから、足を踏まないでください!」
理由は分からないが、明らかに葉月さんは怒っていたので、また胃が痛くなりそうな展開になりそうだ。
うーん……今度はなんだろう? 身に覚えがあるような無いような感じなので、
「ほら、入りなさい」
「え? ここって葉月さんの?」
「そう。来るの初めてじゃないわよね」
葉月さんに案内された先は葉月さんの自宅。意外な所に連れて行かれたが、なぜ葉月さんの家へ?
「何、ボーっとしているのよ。早く入りなさい」
「は、はい。おじゃまします」
彼女の家となると、緊張してしまうな……。
「あら、葉月。早かったじゃない。大学は?」
「今日は休みなの」
「またサボったんじゃないでしょうね。全く、留年でもしたら、あんたが学費全部払いなさいよ!」
葉月さんの家に入ると、台所から葉月さんのおばさんらしき人が出てきたが、へ? も、もしかして……。
「あら、そちらは……」
「お母さんも前に会ったでしょう。事故の時の」
「ええっ!? え、えっと……今日はどういったご用件で?」
おばさんも俺の顔を見て、葉月さんが車で轢いた相手だと気づき、ビックリして後ずさるが、ビックリしたのは俺の方だって!
「は、葉月さん……なぜ、今日は……」
「ああ? 固い事を言うんじゃないわよ。実はウチら、付き合い始めたの。だから、よろしくねー」
「「ええっ!?」」
俺も葉月さんのお母さんも声を張り上げてしまったが、こ、こんな所で暴露しちゃって良いの?
「ボーっとしてないの。さっさと来る。二階が私の部屋だから」
「は……はい。お、おじゃまします」
思いもかけない彼女の行動に呆気に取られてしまい、言葉も出なかったが、唖然としていたおばさんを他所に葉月さんは俺を二階へと案内していった。
「ここが私の部屋で、ここが英樹の部屋ね」
「は、はあ……ここが……って、勝手に入って良いんですか?」
「そんなもん、バレなきゃ良いし、バレたってどうってことないわよ。弟の部屋に入るのに、どうして私が遠慮しなきゃ行けない訳?」
葉月さんは二階に上がると、まず自分の部屋の隣にある、英樹の部屋に勝手に入ってしまい、部屋を物色する。
英樹の事は嫌いだが、それでも勝手に部屋に入るのは気が引ける……てか、葉月さんはいつもこんな風に入っているのか。
「ふん、いつ見てもつまらない部屋ね。男の子の部屋って、こんな感じなの多いわよね。前の男の部屋も、似たような感じだったし」
さらりと爆弾発言をしてきたが、葉月さんなら、彼氏の一人や二人や三人、過去に居ても不思議じゃないし、俺も敢えてスルーする。
英樹の部屋は親が掃除しているからか、ちゃんと片付けられており、俺の部屋と似たような感じで、壁にはアメリカのバスケ選手っぽいポスターが貼ってあった。
机や本棚には結構参考書も多いな……今年、受験生だからか。
「ちっ、本棚に鍵をかけやがって。私が漫画本や雑誌を持っていくもんだから、鍵付きの棚を買いやがったのよ。ムカ付く男よね。姉である私を泥棒扱いしやがって。今度、弁当にわさびたっぷり入ったおにぎり、持たせてやろうかしら」
そりゃ、勝手に持っていく方が悪いだろと突っ込みたくなったが、こういうお姉さんと毎日、過ごしているあいつはどんな心境何だろうか。
今のやり取りを聞いていると、正直、かなりストレスが溜まりそうだが、もしかして将来、葉月さんと結婚したら、俺も同じような目に……。
「あの、そろそろ出ましょうよ。俺、葉月さんの部屋を見てみたいです」
「ふん。そうね。こっち来なさい」
ここでたむろしてもしょうがないので、葉月さんの部屋に入ることにする。
どんな部屋なのかなっと緊張しながら入っていくと、
「さあ、入りなさい」
「おじゃまします……お、おお……」
葉月さんの部屋に入ると、アロマの良い香りが仄かにし、更に部屋の中もカーテン、ベッドのシーツ、クッションにぬいぐるみにライト、高そうなインテリアとお洒落にコーディネートされていた。
「入っても良いんですかね?」
「さっさと入れっての。あ、汚したら弁償してもらうけどね」
「はは……いやー、流石ですね、葉月さん。センスが良い部屋に住んでいらっしゃる」
正にイケてる女子大生の部屋って感じで、いかにもインスタ映えもしそうだが、そういうのも常に意識をしているんだな、葉月さんは。
おお、クッションもフカフカだ。良いなあ、こういう彼女ならやっぱり大歓迎。
「それより、今日はどうしたんですか? なぜ、俺を葉月さんの家に……」
「うーん? 親にもそろそろ紹介しておこうと思って。あんた、どうせ親が居るって話したら、ビビって逃げ出すだろうしさ」
「う……で、でも突然は……い、痛いですって!」
「ふん、頭に脳みそ入ってない馬鹿ね。あんたが、そんなヘタレだから、こうやって抜き打ちで、家に招くしかなかったの。わかれよ、そんくらい」
「すみません……」
葉月さんの言う事も尤もだったので、縮こまって、彼女の言葉に頷く。
でもいきなり葉月さんのお母さんが出てきて、ビックリしてしまった。
初対面かと思ったら、事故の時に顔は合わせていたんだよな。すっかり忘れていたが、まさかあの後、俺と葉月さんが付き合う事になるなんて、ビックリするなんてもんじゃないだろうな。
「今日は英樹の奴、遅くなるみたいだから、安心して。明日、また試合があるみたいだから、遅くまで練習しているのよ」
「へえ。葉月さんも応援に行くんですか……って、痛いですって!」
また葉月さんに頭をコンコンぶん殴られてしまったが、ちょっと頭をぶつのは止めてほしいんだけど……。
「てめえ、人の話を聞いてるの? 行く訳ないでしょうが。ガキじゃないんだし、私だって大学があるの。決勝とかまで行けば話は別かもだけど、そこまで行ける訳ないんだし。ま、明日の試合は何とか勝って、次の試合で負けって所かしらね。あいつの実力じゃその程度よ」
随分と手厳しい評価だが、確かにウチの学校のバスケ部も特に強いって評判は聞かないしな。
「そうかもですね。それで今日は本当にどうして……」
「んー? 抱け」
「は?」
葉月さんが何を言うかと思うと、俺の手をがっしり握り、
「今、抱いて。セックス。ほら、早く」
「…………」
俺の手を握り、体を密着させながら、とんでもない事を告げる。
えーっと……この人、何を言っているんだ? 冗談だよね?




