第四十話 今カノの横暴が続く
「うーむ、どうしたものか」
翌日、学校に行きながら、葉月さんの中で絶賛暴落中であろう、俺の株をどう立て直すか考える。
というか、彼女は俺の事を本当に好きなんだろうか……好きじゃなきゃ、付き合ったりしないとは思うけど、事故や英樹の件で負い目を感じて、付き合っているだけの可能性も。
しかし、葉月さんもどんどん横暴になってきているな。平気で手も上げるし、口汚く俺を罵っていくしで、あれが仮に愛情の裏返しだとしても、なかなかキツくはなってきた。
「ちょっと」
「ん? 里美か。何だよ」
学校に到着し、上履きに履き替えたところで、里美に会い声を掛けられる。
こいつと話すのも久しぶりな気もするが、そんなことなかったっけ?
「あんたも随分と物好きな男よね。あんな性格も口も態度も何もかも最悪な女と付き合うなんて」
「葉月さんの事か? それを言ったら、お前だって葉月さんの弟と付き合っていたんだけど」
「彼はそこまで酷くなかったし、何よりもう別れたから。何処が良いわけ、あの女の?」
「うーん……美人だし、付き合ってて面白いところかな」
「何それ。全然、面白いとは思えないんだけど」
まあ、傍から見るとそうかもしれないが、何となく一緒に居て飽きないんだよな。
とはいえ、このままではまずいので、葉月さんに愛想を尽かされないようにしないと。
「女の趣味悪すぎ。変態じゃないの」
「その変態とお前だって付き合っていたんだろうが」
ったく、相変わらず嫌味しか言えないのか、この女は。
付き合っていた頃の真面目な里美は何処に行ったんだか……てか、あれは本当に今の里美と同一人物か?
外見が同じなだけの別人じゃないかと思いたいくらいの性格の悪さ。
もはや、遠い過去の記憶だが、正直、里美の事なんかどうでも良い。
葉月さんの事を相談したいのであれば、実は彼女の弟の英樹が一番なんだろうけど、あいつはちょっと性格的に無理だ。
仮に頼んでも協力してはくれないだろうし、どうしたら良いのか……。
あいつとは仲良くした方が……無理ですね、うん。里美の事を置いておいても性格が悪すぎるって。何であんなのがモテるんだか、理解できないわ。
休み時間になり――
「はー疲れた……あ、葉月さんからだ。はい」
体育の時間も終わり、持久走だったのでグッタリしながら、教室に戻ろうとすると、葉月さんから電話がかかってきたので、出る。
『進一郎、あんたさっきからライン送っているのに、何で既読マーク付かないのよ』
「は? LINEって……」
『さっきから何回も送っているでしょう。ったく、愛する彼女からの連絡なのに、どうしてすぐに読まないのよ』
スマホを見てなかったので、着ていたこと自体に気づかなかったが、何でも何も体育の時間だったわけでな。
「すみません、体育だったんで、出られなかったんですよ」
『カーーー。あんた、本当に言い訳ばかりね。彼女からのLINEと体育の授業。どっちが大事な訳? 優先順位、おかしいでしょうが』
ゆ、優先順位? そんなのどっちが大事とか選べるものじゃないでしょう。
「相変わらず無茶言いますね。じゃあ、葉月さんは授業中に俺がメールしても、すぐに返信できるんですか?」
『私、授業中でも普通にSNSやゲームやっているけど?』
「それ、先生に怒られないんですか?」
『見つかれば怒られるけど、バレないようにやれば良いじゃない。意外にバレないものよ。高校の時も数回しか見つかって、スマホ没収されなかったし』
思いっきりバレているじゃねえか、それ。
てか、授業中にスマホでSNSって、やっぱりこの人、不真面目な生活を送っていたんだな……。
「とにかく、体育の時間は無理ですよ。スマホ持ちながら、体育出来ます?」
『サボれよ』
「…………」
おお、ダメだ。傍若無人過ぎて、返す言葉がない。
(すげえよな、このお姉さん……)
ここまで自分勝手な人は初めて見たって言うか、世界中探しても、なかなか居ないレベルじゃないか?
友達とか居るのかね、これで。
「わかりました。出来る限り、ご希望に添えるよう努力しますので」
『政治家みてえな口ぶり好きね、あんた。言っておくけど、政治家の奥さんとか嫌だからね。面倒くさそうだし。目指すなら、せめて公務員にしておいてよ。私みたいなS級の彼女に到底、釣り合いが取れてないんだから、せめて安定した職に就いて、私を安心させることね』
「は、はは……そうですか」
遂に俺の進路まで勝手に決めちゃう勢いだが、葉月さんも今まで彼氏に対して、こんな態度を取ってきたのか?
俺はまだ良いが、これだと嫌がる人もそりゃ出て来るわなと思っちゃうけど、葉月さんにもう少し、事故当初みたいな謙虚さがあると良いなって、思ってしまう。
「すみません、そろそろ休み時間、終わっちゃうのでこれで」
『あ、待ちなさいよ』
葉月さんと話し込んでいる間に、休み時間が終わりそうになっている事に気が付き、さっさと電話を切って、教室へと急ぐ。
また怒られそうだけど、後でフォローするしかないかと思うことにした。
「どうすれば、良いのか……ん?」
放課後になり、葉月さんの事を考えながら、教室を出ると、中庭で見覚えのある男女二人が話しているのが見えた。
(あれは英樹と百瀬さん?)
あいつ、まだ百瀬さんに言い寄っているのか? 今、インターハイの予選中だってのに、随分と余裕だな。
流石にこれから部活には行くんだろうけど、百瀬さんがちょっと嫌そうな顔をしているので、少しだけ様子を覗いてみるか。
バレたら、葉月さんに怒られるから、コッソリとね。
「だからさ。大会が終わったら、考えてくれって言ってるじゃん」
「あの、ですから、困るんです……あのことは、なかったことにしてほしいと」
「そっちから、言ってきたのに、勝手な女だな。ったく、どいつもこいつも……」
「おい、大場。何やっているんだ、早く来い」
「あ、はい。じゃあ、後でラインするから」
百瀬さんが英樹に何か言われていたようだが、バスケ部の顧問っぽい先生に呼ばれて、英樹は体育館へと小走りで走っていき、百瀬さんもホッとした顔をしていた。
何やっているんだか……インターハイの予選の真っ最中だろ?
「やあ、百瀬さん」
「え? 先輩。どうしたんですか?」
「いや、何かたまたま通りかかってさ。どうしたの?」
「い、いえ……何でも……」
何となく見られてバツが悪そうな顔をしていたが、百瀬さんにとっても見られたくない光景だったって事か。
あんまり深入りするのはどうかと思ったけど、やっぱり気になっちゃうんだよなあ。
葉月さんに止めろと言われても、彼女の弟の事だから、無関係とは言えないし。
「えっと、インターハイの予選、やっているんだよね? どうだった?」
「あ……バスケ部は女子も男子も一回戦は勝ちましたよ」
「そりゃよかった。女バスも頑張っているんだな」
ウチの学校のバスケ部がどうなのか、全く興味もなかったし、話題にしたことありゃしないけど、結構強いのか。
「あの、私はこれで」
「ああ。またね」
百瀬さんだって部活もあるので、あんまり長話は出来ないと、彼女も体育館へと急いでいく。
良い子……なんだよな? 見た目はおとなしくて真面目そうだけど、里美みたいな性格をしているとかってのはないよな?
もうあいつのせいで、女性不信になりそうだが、今は葉月さんの事が最優先だ。




