第三十八話 お姉さんも呆れてきている?
「と言うわけで、話は終わり。いい加減、やるわよ」
「ちょっと待ってください。いやー、まだ葉月さんの話、色々聞きたいなあって」
「あんた、いい加減にしなさいよ。どんだけ、猶予を与えてやったと思ってんの、ああ? 進一郎、本当に私の事、好きなんでしょうね?」
「本当ですって! もう死ぬほど、葉月さんの事、好きですから!」
「ふーん」
葉月を抱きながら、必死にそう言うが、今の言葉自体は嘘じゃない。
実際、葉月さんは性格と口は悪いかもしれないけど、一緒に居て楽しい人だから、嫌われたくはない。
「へえ、死ぬほど好きなんだ。じゃあ、今、死ね」
「は?」
「私の事、死ぬ程好きってなら、それを証明しろって言ってるの。ほら、今すぐ死んで」
「は、はは……いやー、今のは言葉の綾と言いますか……」
バンっ!
「いて!」
隣りにいた葉月さんに抱きつきながら、そう言うと、葉月さんは俺の足を思いっ切り踏みつけ、
「改めて思ったんだけど、進一郎って救いようがない馬鹿よね。英樹とは別方向の馬鹿野郎よ」
「そ、そこまで言わなくても……いでで!」
「私に口答えする気? まあ、英樹は可愛気のない馬鹿だけど、あんたはもう少し可愛気はあるかしらね? もしかして、事故のせいでこうなったのかしら? だったら、私にも責任はあるから、少しはあんたのお守はしてあげないとね」
「別に事故は関係ないですって」
頭を強く打ったわけではないし、あの事故で俺の性格が変わったなんて事は絶対にない。
「そう。もし、あんたが生まれつき、こういう性格なら、やっぱり大馬鹿男ね。あーあ、何でウチの周りにはこんな馬鹿ばかりなのかしら。弟もクソ馬鹿だし、彼氏も馬鹿なんて、可哀相な女だと思わない? ねえ?」
「ば、馬鹿と思われないように、頑張りますのでっ!」
もう、葉月さんに何回、『馬鹿』と言われたか、わかったものじゃないが、今の口ぶりから見ると、英樹も葉月さんにしょっちゅう、今みたいなことを言われているのか……。
そのせいで、あんな捻くれた性格になったのか、それとも元からか……ちょっと、葉月さんを見ているとわからないな。
「ヘラヘラしていて、あんたもムカつく面をしているわね。最近は私に媚びたような態度を取っているし、それが余計に不快だわ」
「媚びますよ、彼女なんですし」
「開き直る事じゃないでしょう。んで、いつ死ぬの? 死ぬほど、好きなら実践しろって言ってるでしょうが」
まだその話、忘れてなかったのかよ。
どうする? 流石に本気では言ってないんだよな? 仮にそうだったら、ちょっとヤバイ人なんてものじゃないけど、まさかね。
「嫌なら抱け。抱けないなら、死ね。ほら、シンプルな選択でしょう?」
「究極の選択過ぎますって。いやー、はは。俺、まだ高校生ですし、何かあると、葉月さんの方がまずいじゃないですか。俺、葉月さんを犯罪者にしたくないんですよ。大好きな彼女なんですし」
「アハハハ、面白いわね、進一郎は。てか、あんたのせいで、犯罪者になりかけたんだけどね。あの事故、普通に私の犯罪行為だし。業務上過失致傷罪って奴? 何か、そんなことを教習所で習ったわ」
あー、なるほどね。葉月さんがすぐに救急車呼んで、俺が軽傷で済んだけど、一応、あれも犯罪になるのか。
「でも、すぐに救急車呼んだから、大丈夫だったんでしょう」
「そうね。警察とか保険会社とか来て、大変だったけど、やっと落ち着いたわ。てか、そんな話は良いんだよ。さっさとやれ」
「もっと葉月さんとお話ししたいんですって。葉月さんと話すだけで楽しいんですから。ね?」
「きゃっ! こ、こら、またそんな事で誤魔化そうとして……」
とにかく、今はこれが限界だと、葉月さんに抱きついて、彼女の頬にキスをする。
頼む……こんなヘタレな彼氏を許してください。
「もう葉月さんの事、好きすぎて、色々とやりたいことがあるんですって」
「く……この、詐欺師がっ!」
「酷い言い方しないでくださいよ。詐欺じゃないですって」
「あんたのその口調が詐欺師臭いって言っているのよ。吐き気がするほどの醜悪さを感じるわ」
凄い事を言われてしまったが、葉月さんの中で俺の株はどんどん落ちて行っているのだろうが、俺だって葉月さんのイメージは最初の頃とは全く違っているのだから、お互い様か。
「それより、お腹が空きましたね。お弁当を食べましょうよ」
「お弁当ねえ……」
「そうですよ。作ってくれたんでしょう。冷めちゃいますし」
「どっか外で食べて、あんたが時間を稼げない様に作っておいたんだけどね。こっちもいい加減、興醒めしちゃったわ。ほら、さっさと食いなさい」
「おお、ありがとうございます」
葉月さんは弁当箱とペットボトルのお茶をテーブルの上に置き、ありがたく頂くことにする。
これをゆっくり食えば時間稼ぎは出来そうだ。
弁当箱を開けてみると、中にはおにぎりや唐揚げ、卵焼きにミニトマト、リンゴなどが入っており、男子が喜びそうな内容のお弁当であった。
やっぱり、葉月さんはわかっているなあ。弁当はこういうので良いんだよ。
「ああ、そうそう。英樹にも同じ弁当作ってるから。あいつも今頃、試合会場かどっかで、これと同じの食べているんじゃない」
「う……そ、そうなんですか」
「いらないって言ったんだけどね。一人分の弁当を作るのって、結構大変だから、ついでにあいつと私のも作っておいたの。今日の試合、勝てたのもこの弁当のおかげかもね」
「そうかもしれないですね……」
姉の手作り弁当とか、実際に渡されると、かなり恥ずかしいかもしれないが、やっぱり葉月さんは英樹の事を気にかけているのか。
彼女の手作り弁当は嬉しいけど、あいつと同じのだと思うと、ちょっと複雑な気分になる。
「弟さんの面倒、よく見ているんですね」
「よく? あはは、そんな訳ないし。昔はそうだっかもしれないけど、今となっては恥ずかしい弟よ。出てきたいなら、さっさと出てけって感じ。卒業したら、あいつも家を出て、一人暮らししたいって盛んに言っているからね。何か、私の暴力が耐えられないとか何とか言ってさ。てめえがクソみたいな性格しているから、こっちもムカついてるってのに」
これ以上ないくらいの罵倒を英樹にしているけど、そこまで悪く言っておきながら、大事な試合に弁当を作ってあげるってのもよくわからないお人だな。
姉だから当然なんだろうけど……やっぱり、葉月さんは英樹の事はちゃんと弟として気にかけていると見て良いのかもしれない。
「この唐揚げ、美味しいですね。こりゃ力が出ますよ」
「そう。そりゃよかったわ。全く、インスタ映えもしない弁当ねえ。男子はこういうの喜ぶらしいけど」
と、ブツブツ文句を言いながらも自分で作った弁当を食べていく。
「葉月さんが好きな食べ物、入れればよかったじゃないですか。何が好きなんです?」
「ん? スイーツ」
「そ、そうですか……うーん、お弁当だと難しいですね」
ケーキとかだと、流石に弁当に入れるような物じゃないからな。
何て思いながら、葉月さんのお弁当を食べていったが、口は悪いけど、料理も上手だし、何だかんだで面倒見も良いから、やっぱりこの人の事は彼女として大切にしたい。
だけどな……性格と、この人の弟に難があるんだよな……そんな弟の事も気にかけているから、そこでどうしても嫉妬みたいな感情が湧いてきてしまう。




