第三十七話 思いもよらぬことで嫉妬してしまい
「う、うおお……ここがシャワー室ですか」
葉月さんに促されてシャワー室に入って、シャワーを浴びたが、ラブホでやっているってだけでもドキドキしてしまうな。
てか、ここに入っているのバレたら、停学とかにならないよな?
帽子くらいは被っておけば良かったかな……出る時は持ち込んだマスクでもした方が良いかも。
「ここで、二時間くらい時間稼ぐのは……」
うん、無理だな。
流石にこんな所に二時間以上も居られないって。湯船に浸かっていたら、茹蛸になっちまう。
『こらー、いつまでシャワー浴びてんだよ。さっさと来なさいって』
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ」
『まさか、時間ギリギリまでそこにいるつもりじゃないでしょうね。そんなことをしても無駄だからねっ!』
と、シャワーを浴びている間に葉月さんがドアを叩きながら、急かしてきたので、慌てて体を洗い、湯船に浸かる。
もうそんなに乱暴にドアを叩かないでくれって……女の子なら、もうちょっとお淑やかにですね……いや、葉月さんはああいう女性なんだな。
覚悟を決めるしかないのかな……俺ももう子供じゃないんだと言い聞かせながら、浴室を出ていった。
「お待たせしました」
「遅いわよ。時間過ぎちゃうでしょうが」
「延長すれば良いじゃないですか。出来ないんですか?」
「だったら、延長料金全部、あんたが払いな。年下だからって、あんまり甘えすぎないことね」
お風呂から出ると、葉月さんはスマホを一心に見ながら、そう言ってきたが、別に延長料金くらい払うのは惜しくはないけど、もはや俺のために何でもするという気持ちは、葉月さんにはなくなっていると思って良いのかもしれない。
事故の事なんぞ、こっちももう気にはしてないから、良いけどさ。
「あら、随分と頑張ったじゃない」
「何がです?」
「いやね。今日、英樹の奴、バスケの大会に出ているのよ。インターハイの予選。その試合に勝ったみたいね」
「へえ、そんなのスマホで見ていたんですか」
「試合の速報が見れるサイトがあるのよ。それでチェックしていたの。ふふ、あいつも最後の大会だから、張り切っているみたいね」
と、英樹……というより、ウチの学校のバスケ部が試合に勝ったという速報を嬉しそうに見ている葉月さんを見て、何だかモヤモヤした気分になってきた。
あの英樹って男は、俺の元カノを奪った奴なうえに、滅茶苦茶性格が悪い上に、今も百瀬さんの件に巻き込んでいるので、もう顔も見たくないくらいなんだが、そんな男でも葉月さんにとってはやっぱり大事な弟なのかと思うと、どうしてもスッキリしない気分になってしまう。
葉月さんはそりゃ悪くないのはわかるし、家族の事が気になるのはわかるんだけど……ああ、どういったら良いんだろうなこの気持ちは。
「あら、随分と嫌な顔をして、私を睨んでいるじゃない。もしかしなくても、英樹の奴に嫉妬しているでしょう」
「えっ! い、いえ……そんな事は無いですけど」
「顔に出ているっての。ふふ、少しは私の気持ちもわかったかしら? 言っておくけど、英樹が試合に勝とうが負けようが、それ自体はどうでも良いんだけどね。あいつ、高三だから、これが最後の大会でしょう。もし負けたら、ここで部活も引退になるし、そうしたら、家に居る時間が増えるから、うざったくなるってだけよ」
と、ニヤニヤしながら、葉月さんはそう語っているが、俺にはとてもそうは思えない。
もちろん、弟の試合を応援するのは姉として普通だし、何も疚しい事はないんだけど、何だろう……やっぱり、葉月さんってあいつの事、気にかけているんだなって。
「弟が部活で最後の大会に臨んでいるときに、姉である私は彼氏とデートしてホテルに居るなんて、良いご身分だと思わない?」
「そんなに気になるなら、応援に行けば良いじゃないですか」
「行く訳ないでしょう。来たら、あいつも絶対に嫌がるし、両親だって行ってないのに、どうして私が行かないといけないのよ。ま、インターハイに出場とかになったら、別だろうけど、そこまで行かないでしょ」
よく知らないけど、家族も応援に行かないものなのか、こういう試合って。
考えてみたら、俺も中学の時、運動部に入っていたけど、別に両親も試合の応援に来たことはなかったから、高校になってもそんな物なのかもしれない。
「ふーん」
「な、何ですか?」
「どうやら、昔の男のことを話すより、進一郎にはダメージがありそうね。もう少し、あいつの話をしてあげる。私も小学生の頃、ミニバスやっていてね。んで、英樹も私の後に続いて、同じミニバスのクラブに入ったの。練習に行くときはよく二人で一緒に行っていたわねー。今は、あんなクズ男に成り下がったけど、ガキの頃はもう少し素直で可愛げはあったのよ。姉ちゃん、姉ちゃんって私の後ろにくっついててさ」
「へえ……」
その姿を想像してみるが、話を聞いてみると、葉月さんと英樹は昔は仲が良い姉弟だったってことなんだろう。
というか、もしかして今も?
前に何度かあいつの交際を破綻に追いやってって、葉月さんが言っていたけど、もしかして弟に言い寄る女を排除していたとか……。
(う……ヤバイ、葉月さんの事が、ますますわからなくなってきた)
弟の英樹の事を実はめっちゃ大好きなんじゃないかと思い始めてきたが、それが悪いわけじゃない。むしろ普通なんだろうけど、何だろうこの気分は。
「アハハハ、何か暗い顔をしているじゃない。どうしたのー、進一郎?」
「暗い顔なんか……」
「ま、引退しても英樹は高三だから受験なんだけどね。知ってる? あいつ、地方の大学に行きたいとか言っているのよ。国公立なら文句ないだろうって」
「え? そうなんですか? 意外ですね」
地方の国公立大学に行きたい? そりゃ大した志望だが、何でそんな大学に?
「研究したいことがあるとか言っているけど、絶対に嘘ね。あいつさ。地方のそれなりの大学に行けば真面目で純朴な女子に会えるとか思っているのよ。馬鹿よね~~。地方で純粋な女子を食いまくろうとしているとか。女の敵よ。そんなロクでもない動機で地方の大学を志望とか。趣味が悪すぎ」
「それ、本人から聞いたんですか?」
「そりゃ言わないけど、地方の国公立を受験しようとしているのはマジなのよ。親もそれなら、学費も少し安く済むから問題ないだろうって言っているけど、そんなに上手く行くかしらねー。地方で誰もあいつを知らない所に行けば、存分に女遊び出来ると思っているの。そういう男なの、あいつは。わかるんだからさ、姉なんだから」
意外な進路志望に驚いたが、葉月さんは英樹の考えていることは何でもお見通しって言いたいわけ?
つまり、それだけ弟の事をよく理解しているってこと……。
「葉月さんはそれでいいんですか?」
「良いに決まっているじゃん。むしろ、卒業したらさっさと一人暮らししろっての。あいつが居るから、進一郎だって自宅に連れ込めないんじゃん。でも、東京の大学とか専門になったら、自宅通学になるからさー。もう合格を今から祈りまくっている訳」
「…………」
弟の事を案じているのか、そうでないのかよくわからないが、葉月さんが英樹の事を想像以上に考えているってのはよくわかった。
俺は……葉月さんの中では、まだ弟の英樹に遠く及ばない存在なのか? 比較できないのはわかるけど、そう考えると




