第三十六話 彼女とのデートで遂に……
放課後になり里美の様子を伺うが、特に変わった感じはない。
朝に会った時は良からぬ事を企んでいないか、気になったが、仮に葉月さんに百瀬さんとちょっと話していたくらいなんだし、こっちは疚しい事はしてないんで、堂々としてりゃ良いんだ。
葉月さんもわかってほしいんだけどな……今朝だって、百瀬さんの方から話しかけて来たんだし、俺は本当に何もしてないんだからさ。
「何?」
「え? いや、別に」
何て考えていると、里美が俺の視線に気付いたのか、訝しげな顔をして
「なら、こっちをジロジロ見ないでよ」
「別にジロジロ見てるわけじゃないし」
誰が里美の顔なんぞ、ジロジロ見るかと言いたくなったが、こいつと付き合う前は里美の事が気になって、教室でも目が離せなかったのを思い出した。
まさか付き合えるとは思わなかったし、更に他の男と浮気しやがるとは……展開がジェットコースター過ぎて、思い返しただけで凄い体験をしているなと感心してしまう。
もうこれだけで本を一冊くらい作れそうだが、だからと言って、里美に感謝などする気はないがな。
「お前、あんまり変な事を言うなよ。今朝の事だって……」
「うるさい、話しかけないでくれる? 私、忙しいんだからね」
「はーい」
これ以上、里美と話していてもストレスが溜まるだけなので、さっさと帰ることにする。
しかし、里美に何か吹き込まれていないように、
『はーい、進一郎。ちょっと良いかしら?』
「何ですか、今日は?」
夜中になると、葉月さんがいつものように俺に電話をかけてきたので、すぐに出るが、まさか朝の事が葉月さんの耳に入ってないだろうな?
いや、ちょっと話しただけだぞ。
『今度の日曜のデートなんだけどさ。行きたいところ、ある?』
「あ、ああ……そうですね。葉月さんの行きたいところで良いですけど」
『本当? 私が行きたいところ、何処でも付き合ってくれる?』
「何処でも……何処行きたいんですか?」
『別に変な所じゃないわよ。ホテルよ、ホテル』
「ぶっ! 直球過ぎますって」
何かと思ったら、本当に日曜日にそんな所に行く気かよ。
『ああ? デートなら行って当り前でしょうが。あんた、何歳? 小学生じゃないでしょう、もう」
「高校生なんで、まだ大人ではないですよ」
『細かい事を言ってるんじゃないわよ! あんたのそういう所がムカつくのよね。私の方がお姉さんなんだから、グダグダ言わずに、私の生きたい場所に付き合いなさいよね」
どんどんと態度が横柄になってくるな……普通の人なら、これで嫌になるのかもしれないけど、最近はこれも葉月さんの個性だと思えるようにはなってきた。
そんな態度が彼女にどう思われるかわからないけど、とにかく温かい目で見てやろうって気持ちなのかな。
「ま、まあホテルはちょっと早いとして、折角なんですし、もっと葉月さんと遊びたいですよ」
『なら、どこ行きたいのよ?』
「遊園地とか……前に行きましたよね」
『行ったけど、そういう所じゃなくて、もっと大人な遊びしたいのよ。あんたさー、私達、付き合いだして、もう何日経っていると思っているのよ』
まだそんなに経ってないと思うんだけど、今時のカップルってそれが普通なのか?
里美しか、他に交際経験はないんだけど、あいつと付き合っている時は、そんな話は一切なかったんだけどね。
『あー、もうお子様過ぎるわね。話にならない。んで、今日もまた何とかっていう後輩と仲良くしていた訳?』
「その子とは何でもないですよ。朝、ちょっとバッタリ会って、話はしましたけど」
『やっぱり仲良くしてるんじゃない! てめえ、私の目の届かない所でよくも……』
「だから、本当にちょっと話しただけなんですって。駄目なんですか、それ? 話しかけたのも向こうからなんですから、無視も出来ないでしょう」
『ああいえば、こういう男ね。良いわ。今度の日曜、覚悟しておきなさい。あんた、タダで家に帰れると思わないことね』
タダで家に帰れないって何をする気なのか……とにかく、百瀬さんの件は潔白なんだし、そもそも英樹が言い寄っているのが原因な訳じゃん。
そう思いながら、この後も葉月さんの愚痴を聞かされ、夜遅くになり、やっと解放されたのであった。
日曜日――
「遂にこの日が来てしまったな」
葉月さんとのデートの日が来てしまい、緊張した面持ちで彼女を待つ。
うーん、葉月さんは本気なんだろうか?
出来れば彼女とはもうちょっと清いお付き合いをしたいなって思っているんですけどね……まあ、その時に鳴ったら考えるか。
「それにしても遅いな」
もう待ち合わせ時間になるが、葉月さんはまだ来ない。
何かあったのかな? ちょっと電話かけてみるか。
「あれ……出ないな」
葉月さんに電話をかけるが、一向に出てこない。
どうしたんだろう? もしかして事故にでも遭ったんじゃ……まさかね。
「ゴメーン。遅くなっちゃった」
「あ。葉月さん」
電話を切り、彼女の家に迎えに行こうか考えていた所で、葉月さんが俺の元へと駆け寄ってきた。
「ちょっと準備に手間取ってさ」
「いえ、大丈夫ですよ。今、電話したんですけど、気づきました?」
「あら? 気づかなかったわ。マナーモードにしちゃってたからかな」
何だマナーモードにしていただけか。事故にでも遭ったのか心配したが、しかし……。
「ん? どうしたのよ?」
「いえ。今日もお美しいと思いまして」
「お世辞だけはいっちょ前じゃない。ま、私が美しいのは当然だけどね。感謝する事ね、こんな美人のお姉さんと付き合えていることに」
「もちろんですとも」
自分で言っちゃうのも中々凄い神経だが、今日の葉月さんは太腿が露わになったミニのデニムにヘソを出したキャミソールと言う実に開放的な格好だが、これは完全に誘っているだろ。
「んじゃ、行こうか」
「は、はい」
葉月さんは俺の腕を掴んで、歩き始める。
やっぱりモデルをやっているだけあって、スタイルは良いお人だな。
肌も綺麗で、手入れは良くしているんだなってのが素人目でもわかる。
「今日は何処に行くって聞くのは野暮ね。もう行く場所は決まっているの」
「何処ですか?」
「ああ? 何処も何もないでしょうが。えっと……ほら、ここよ」
「ん? って、ホテルかいっ!」
葉月さんに連れていかれたのは、人気のない路地にヒッソリと建っているホテルであった。
マジで直行かよ。もうちょっと色々とデートらしいことをしてからさ……気が変わるのを期待していたんだけど。
「入るわよ。あんたに話もあるからね」
「あのー、お腹空いちゃいました。お昼食べてからにしません?」
「心配無用。お弁当作ってきているから、中で食べれば良いわ」
弁当持参かよ! 用意が良いなあ……こういう家庭的な所は良いんだけどな。
「はーい。んじゃ、早速、やる?」
「うう……すみません、まだ心の準備が……」
「何日、時間をやったと思ったのよ! まあ、良いわ。話もあるし。あんた、例の後輩とは本当に何でもないのね?」
「何度も言っているじゃないですか。本当に潔白ですよ。どうすれば信じます?」
部屋に入ってベッドに一緒に座ると、早速百瀬さんの事を聞かれたが、これに関しては違うと言い張るしかない。
「ふーん。あ、ちょっと待って」
葉月さんがスマホをバッグから取り出し、何かをチェックする。
知り合いからラインでも来たのか? まあ、一服出来そうなので良いか。
「よし。シャワーを浴びてこい。私、朝に浴びてきたから」
「しゃ、シャワーですか……良いですよ。一緒に浴びます」
「良いからいけ。彼女さまの命令よ」
もはや女王様みたいな態度で俺にシャワーを浴びる事を命じたので、渋々、従う事にする。
トホホ……遂に一線を越える時が来るのか。




