第三十五話 元カノの悪巧み?
「あーあ、全く楽しくないデートだったわね」
「す、すみません。不快な思いをさせてしまって」
「謝れば済む話じゃないって言っているでしょうが。全く、こんな浮気をする男だとは思わなかったわ」
「だから、浮気じゃないですって。ちょっと相談に乗っただけで……俺の好きなのは葉月さんだけですから」
「あん。こら、こんな所で……」
未だに百瀬さんの事を疑っているみたいだが、本当に何でもないのに、ここまで疑われているとなると、ちょっと悲しくなってしまう。
そんなに俺の事を信用してないんかな……葉月さんの事は本当に好きなのにな。
「口だけじゃなくて、体で示せって言っているでしょう。あんた、結婚詐欺とかやりそうなくらい、口が軽いわね」
「詐欺なんかする訳ないでしょう。葉月さんの事、こんなに好きなのに、何で疑うんですか?」
「ふふ、面白い奴ね。私の中では、進一郎の株は絶賛、暴落中だけど、おちょくりがいがありそうだから、しばらくは飼っておいてあげるわ」
「飼うって……」
まるでペットか奴隷みたいだが、葉月さんの中では俺への株はそこまで下がっていたのか。
最初に会った時はさ、事故のお詫びに何でもするみたいなしおらしい女性だと思ったのに、もはやその面影は微塵も見られない。
今の葉月さんも好きだけど、何だか悲しい気持ちもあるな。
「あんたさ、私の何処が好き?」
「え? いやー、はは。一緒に居て面白い所ですかね」
「面白い? 初めて言われたわね」
「そうですよ。葉月さんと一緒だと楽しいんですよ。色々な面が見れると言うか」
さっき叩かれたのは痛かったけど、全体的に見ると面白い人だなって思う。
性格というか態度や口はちょっと悪いけど、悪い人ではないってのは事故後の対応を見てもわかるからな。
「へえ。意外な所を見ているじゃない。進一郎のそういう所は嫌いじゃないわ。でも、だからって他の女に気を取られることが許されるとは思わないことね」
「そういう訳じゃないですよ。本当にそう思っているんですって」
「はいはい。今のは信じてあげるわ。でも、今度の日曜日の事、忘れるんじゃないわよ。土曜は撮影もあるんだから、私をイライラさせて肌にダメージを与えるような事をしないで欲しいわね」
「は、はい。それはもう。葉月さんのお美しい顔を汚すような真似は絶対にしませんので」
何だか主人と召使みたいな関係になってきている気がするが、葉月さんも流石に本気では言ってないんだよな?
まあ、彼女にストレスを与えて、モデルの仕事に支障を来たすような事はあってはならないよな。
「ぷ……何だか、お笑いコンビみたいになってきたわね」
「えー……あはは、そうですかね?」
「笑ってんじゃないわよ。私、そういう目で見られるの死ぬほど嫌なんだからね。わかったら、もうちょっと彼氏らしくしなさい。高校生なんだから、こっちも多くは要求しないわよ」
「そう言ってくれると助かります」
エルメスのバッグとかは冗談っぽかったので、ホッとするが、やっぱり子供扱いされるのはしょうがないか。
それより今度のデートはちゃんと決めないとな。
彼女とするかどうかは……うん、その時になったら考えれば良いか。
翌日――
「あのっ!」
「ん? あ、君は……百瀬さん」
朝、学校に到着し、上履きに履き替えた所で、百瀬さんに声をかけられたので、
「どうしたの? 何かあった?」
「いえ。ちょっと姿を見たので、挨拶を。おはようございます」
「ああ、おはよう。あのー、あいつには何かされていない?」
「昨日は特に何も……大会も近いので、色々と忙しいんです」
なるほど、インターハイの予選だかが近いんだっけか。
だったら、百瀬さんも英樹もあんまりお互いの事を構っている余裕はないのかも。
「そう。頑張ってね。てか、ウチのバスケ部って強いんだっけ?」
「ど、どうでしょう。普通くらいだと思います。県大会にたまに出れるくらいの強さっていうか。男子も女子もそれくらいです」
ふーん。英樹は結構凄い選手っぽかったけど、全国レベルとかそういう感じではないのか。
「私はマネージャーなので、実際には試合に出ないんですけどね。でも、部員がしっかり試合に集中できるようにサポートするのが私の仕事なので」
「はは、そっか」
けなげで真面目な子やねえ。
彼女にするんだったら、こういう子の方が落ち着くのかな。
英樹の奴が狙っているのも、何となくわかる気がする……って、この子の事、マジでどうしよう?
(まさか、俺に好意を抱いているとか、そんな展開はないよな?)
自惚れが過ぎるかもしれないが、朝に俺を待ってわざわざ声をかけてくるって時点で、嫌われてはいないと思うんだ。
いや、仮にそうでも葉月さんと付き合っているんだから、断るけどさ。
「その、英樹の事で何かあったら、すぐに言ってね」
「あ、はい。それでは、私はこれで。失礼しました」
そろそろ予鈴が鳴る時間になったので、百瀬さんも一礼して、俺の元から去っていった。
うん、良い子だな。真面目でマネージャーの仕事も一生懸命やっていてさ。
里美とは言う事はハッキリ言うタイプだったから、あの子とはまた性格が違う感じが……。
「おはよう」
「ん? お、おお。里美じゃん。おはよう」
ふと里美の事を考えていると、まさかのその里美本人に声をかけられてしまった。
「ふーん」
「な、何だよ?」
「可愛い子と仲良くなったじゃない。一年生、あの子?」
「お前には関係ないな」
「そうね。関係はないかもね。でも、あんた、彼女いるんでしょう」
「う……べ、別にちょっと話をするくらい良いじゃないか。相談に乗っていたんだよ、英樹の事で悩んでいたみたいでさ」
「へえ」
里美の奴が、ジーっと俺を睨みつけていたが、もしかして百瀬さんとの関係を疑っているのか?
そりゃ、傍から見たら仲が良いように見えるかもしれないけど、そうじゃないんだから、仕方ない。
「だから、余計な事は言うなよ。葉月さんにただでさえ、疑われているんだからさ」
「へえ。あの性悪女とはまだ続いているんだ」
「しょ、性悪って……まあ、変わった人ではあるけどさ」
里美から見たら、そう思われちゃうのは仕方ないけど、決して悪い人ではないと俺は信じたい。
付き合ってみると、面白い人ではあるからさ……少なくとも里美と付き合っていた頃より、俺は葉月さんと一緒の方が楽しいぞ。
しかし、何だか良くないことを企んでいそうな顔をしているな……。
葉月さんの連絡先を知っているかしらないが、英樹にチクって、葉月さんの耳に余計な誤解をさせそうな……いや、大丈夫だろう。
大体、百瀬さんと付き合ってはいないんだし、俺にその気もないんだからさ。
英樹があの子に言い寄るの止めれば、それで全部解決するんだからと言い聞かせながら、教室へと向かっていった。




