第三十四話 彼女からの警告?
「うふふ、さあ入ってー」
「あのー、葉月さん。もしかして怒っていませんか?」
「ああ? どうしてそう思っているのかしらん?」
「何となくですけど……」
カラオケボックスの一室に葉月さんに押し込まれた後、そう訊くが、顔は笑っていても声は明らかに笑っていないので、どう考えても百瀬さんの件で怒っているのは間違いない。
トホホ……確かに安請け合いしちゃったかもしれないけど、浮気を疑われないように葉月さんにもちゃんと相談したのにな。
「まあ、座りなよ」
「どうも。ドリンクはウーロン茶が良いですかね」
「そう。ま、ドリンクはどうでも良いわ。進一郎、お姉さんとゲームしない?」
「ゲーム?」
「そう。私の質問に答えて、気に入らない事があったら、これであんたの頭をぶっ叩くってゲーム。どう? 私に損がない素敵なゲームでしょう?」
「俺だけが損するゲームじゃないですか! 理不尽すぎますってっ! いたっ!」
葉月さんはバッグからプラスチック?で出来たハンマーを取り出し、さっそく、俺の頭をぶっ叩く。
「私の質問に答えろって言っているんだよ。んで、あの何とかって後輩の女の子とはどうなったの?」
「えーっと……今日、俺の連絡先教えたんですよ。何かあったら、すぐに連絡してねって……」
ゴンっ!
「ちょっ、痛いですって、それっ!」
「アハハハ! そうね、プラスチックで出てきているとは言え、ハンマーだもんね。でも、良いんじゃない? 進一郎の頭って、脳みそ入ってなさそうだし」
ひ、酷い……確かに俺も悪いかもしれないが、あの子はあの子で困っているみたいだったし、無関係でもないから、相談に乗ったってだけなのにさ。
「私、あんたの事、ちょっとってか、かなり思い違いしていたわ。最初は真面目で誠実な人なのかと思ったけど、頭からっぽで流されやすい優柔不断なおバカさんって気づいたの」
「そ、そうですか……」
「それでどうなったの?」
「今日はそれだけですって。別に何もしてないですから。いたっ!」
「もうしているだろうが、ボケがっ! てめえ、私の知らない所で後輩の女子をナンパするとか、どういう神経しているんだよ、ああっ!?」
キレまくっている葉月さんの顔が正にヤンキーそのもので、怖くなってしまったが、だから葉月さんの方から弟を説得してくれって頼んだのに嫌がるから……。
「このことが解決したら、その子とは関わらないようにしますってっ! ですので、どうかお許しを……」
「ふーん。そうね。じゃあ、この前言ったエルメスのバッグを買ってくれたら、許してやるわ。日曜日のデートまでに用意して」
「無茶言わないでくださいよ。俺に闇バイトでもしろってんですか?」
「言っておくけどね。エルメスのバッグごときで勘弁してやるってなら、むしろ優しいくらいなんだからねっ! そのくらいのことを進一郎はやっているの、わかる? わかってるっ!?」
「い、痛いですってっ!」
プラスチックのハンマーで何度も俺の頭を叩きながら、葉月さんは怒声を浴びせていくが、ここまで怒らせるような事なのか、これ?
別に本当に百瀬さんをナンパしようとしている訳でもないのに……。
「わかりました! 俺が悪かったです。でも、エルメスのバッグは流石に無理なので……」
「ふーん。じゃ、体で払え」
「か、体とは?」
また何をさせる気なのかと身構えると、葉月さんはウーロン茶をグッと飲み干して、コップを置いて立ち上がり、
「抱いて」
「ん? あ、はい。こうですか」
「あんた、本当に脳みそ入ってない阿呆みたいね。『抱け』って言ったら、そっちの意味じゃない事くらい、ガキじゃないんだから、わかるでしょうが!」
「ちょっ……いちいち、叩かないでくださいって!」
葉月さんを正面からハグしてやると、彼女はテーブルに置いてあったプラスチックのハンマーでまた頭を叩く。
てか、プラスチックでも普通に痛いんだが、これ……こんな物騒なものを買ってこないで欲しいよ。
「進一郎って、本当に小学生みたいね。それとも今時の高校生って、これが普通なのかしら?」
「は、葉月さんも三月まで高校生だったんでしょう?」
「そんな事はどうでも良いのよ。口だけは達者ね、あんた。私の事、愛しているって言ってみて」
「う……も、もちろんです。葉月さんの事、愛していますよ。めっちゃ好きです」
と、ハグしながら、そう告げるが、自分で言っていて、滅茶苦茶恥ずかしくなってきた。
「随分と軽く口にしたわね。誠意が感じられないわ」
「ど、どうすれば信じますかね?」
「だから、エルメスのバッグ買ってきてよ。百万もあれば買えるんだから、金がないなら、どっかで借金してでも買え」
「無茶苦茶ですって! どうしても欲しいなら、バイト頑張りますけど、それでもえっと……」
冬休みにケーキ工場でバイトをした時は、一週間、フルで働いて五万近く稼いだから……。
半年はどう考えてもかかるって。
「そうね。高校生じゃちょっとお高い買い物なのは、おバカなヤンキービッチの私でもわかるわ」
「な、何ですか、それ……」
「進一郎、私の事、そう思っているんでしょ。ナチュラルに馬鹿な女だと思って見下しているんだ。年上だってのにさ、こっちは」
「思ってませんよ! 流石に酷い言いがかりですって」
そんなふうに俺が葉月さんの事を思っていると、彼女に思われている事がショックだったが、知らないうちにそういう目で見ていたって事か?
確かに最初の印象とはだいぶ変わったけど、ヤンキーのビッチだと思った事は……。
「あるんだろう? もう誤魔化すんじゃないわよ」
「そ、そういう目で見ていたなら、謝りますって。とにかく、エルメスのバッグはすぐには無理ですって」
「じゃあ、抱いて。セックスよ、セックス」
ストレートにそう言われてしまい、頭を抱えてしまう。
どうしてもっていうなら、別に良いと思うんだけど、流石にカラオケボックス内ではちょっと。
「好きなら抱けるでしょう。口だけじゃなくて、体で証明しろって言っているの」
「OK! わかりました! やりましょう! でも、流石に今すぐはちょっと……」
「逃げるんじゃないわよ。こんな美人の彼女がいておいて、抱かないって、あんた性欲ないの?」
「まさかっ! ありますって!」
不能者みたいに思われるのは心外だが、その何ていうかですね……ここじゃ、無理なのわかるでしょう。
「ほ、ほら。折角なんですし、歌いましょうよ……」
「よし。じゃあ、次のデートで抱きなさいよ。絶対だぞ。やらないと、エルメスのバッグ、買ってもらうから」
「は……はい」
エルメスのバッグを頑張って買ってやった方がまだ良いかと思ったが、とにかく今度のデートは覚悟を決めないといけなさそうだったので、思わずガックリと来てしまう。
はあ、百瀬さんの事でここまで怒らせてしまうとはな……でも、彼女の事、どうしよう? 放置も出来ないし、俺一人でどうにかするしかないか。




