第三十三話 結局放っておけず……。
「まずいなー……どうしたものか」
百瀬さんに頼まれて何とかすると言ってしまったが、正直、どう英樹を説得したら良いのかわからない。
俺が百瀬さんに近寄るなって言っても絶対聞かないだろうし、逆に葉月さんにあることない事、吹き込んできそうだしな。
何を恐れているのか。
葉月さんにちゃんと相談すればいいだけの話じゃないか。話せばきっとわかってくれるさ。
「という話を今日したんですよ」
『ふーん』
夜中になり、いつも通り葉月さんが電話をかけてきたので、朝に百瀬さんの件を全て話すと、あからさまに不機嫌そうな声で相槌を打ってくる。
「それでですね。葉月さんの方から、弟さんに言ってやれないかなって思いまして……」
『あのさー、進一郎。前々から思っていたけど、今日の事でもうマジのガチで確信したわ』
「何をです?」
『あんた、馬鹿でしょう。とんでもなく救いようもない大馬鹿野郎ね』
「そ、そこまで言わなくても良いじゃないですか」
『言うわよっ! てめえ、私の言った事、全然理解出来てねえじゃねえか! ああ? まさか、その百瀬って女の事、本気で好きになっているんじゃないでしょうね?』
「違います! 断じてそういう訳じゃないですって!」
やっぱり、葉月さんを怒らせてしまったが、別に百瀬さんが好きだからとかじゃないのになあ。
『じゃあ、放っておきなさいよ! あんたが余計な事をして、その子が進一郎に惚れたら、どうする気?』
「んな事、ありませんって! 仮にあっても断れば良いだけじゃないですか!」
『ストーカー化したら、どうすんのよ! 進一郎、あんた、やっぱり本物の馬鹿だわ。私の気持ちも全く理解してない! てめえ、本当に脳ミソ入ってんのかよ!?」
ここまで怒り狂うとは流石に予想外だったが、しかし葉月さんは本当に言葉づかいが悪い悪い。
もはやその辺のチンピラと変わらない気がするが、どうにかわかって貰わないと。
「葉月さんにも無関係じゃないのでは? 弟さんのことなんですし……」
『ないわよ。あいつが誰と付き合おうが知ったこっちゃないの。そんな女、ほっときゃ良いでしょうが! それより、今度の日曜日、ちゃんと空けておきなさいよ! 忘れたら、マジぶっ殺すからね』
「デートにはちゃんと付き合いますよ。でも、百瀬さんの事も放置出来ないっていうか……ほら、葉月さん、前に事故のお詫びに何でもするって言ったじゃないですか」
『進一郎って卑怯よねー。ここで、それを出してくるなんて。あんた、マジで長生き出来ないかもよ』
「それは嫌ですね……どうか、お願いしますよ。埋め合わせは何でもしますから」
『何でもねえ』
つい、そう口にしてしまったが、言った後にハッと口を噤む。
今のは失言だったかもしれん……葉月さんの事だから、何を言い出すかわからんし。
『そうね。なら、この前言ったエルメスのバッグを買ってもらおうかしら』
「無理です」
『あんた、何でもするって言ったでしょうか。協力する見返りにそのくらいはしろっての』
「もうちょっと真面目に言ってくださいよ。とにかく、話はしましたからね。嫌なら協力しなくて良いですけど、俺の邪魔はしないでください」
『あー、面白くない彼氏ね。今度のデート、覚悟しておけよ、コラ』
と吐き捨てて、葉月さんは一方的に電話を切ってしまったが、結局、彼女を怒らせてしまっただけだったか。
しかし、黙っているよりはマシだと言い聞かせ、百瀬さんの事は俺が基本的にどうにかしないとな。
翌日――
「えっと、女子バスケ部は……あ、やっているな」
放課後になり、体育館に足を運んで中を覗くと、女子バスケ部も体育館で練習をしていた。
百瀬さんはマネージャーをやっていると言っていたが……あ、あの子か。
ジャージ姿でストップウォッチを持って、時間を計っている子が百瀬さんだな。
大会も近いので邪魔をしちゃ悪いんだが、英樹が練習中にちょっかいを出していないか心配になっていたけど、流石にそこまではしないか。
てか、男子バスケ部は……あ、あれか。
少し離れた場所で男バスの連中もコートで練習をしていたが、英樹がドリブルをして、ガンガン部員を抜き去ってシュートを決めているのが見えた。
(う、上手いんだなあいつ……)
素人目でも動きが他の部員よりも違っていたので、ちょっと悔しくなってしまう。
体育祭でもリレーで無双していたけど、マジで運動は得意なんだな。
ったく羨ましいな……背も高くて、運動も得意ってのは確かに大きな武器だな。
見た目に騙されて女が言い寄ってくるのもわかるかも。
葉月さんもあんな感じなんだろうか? 確か運動は得意って言っていたけど、彼女も部活に打ち込んでいたら、もっと違った性格に……いや、ないか。
「はあ……ここに居てもすることはなさそうだな」
練習が終わるまで待つしかないか。
時間を潰さないといけないが、どうしていようかな……。
「あ……」
体育館を後にしようとすると、バスケットボールが近くに転がってきたので、拾う。
「す、すみません! そのボール……あ……」
「ん? ああ、百瀬さん」
「中田先輩。どうしたんですか?」
「いやー、ちょっとね。百瀬さんの様子がどうかなって見に来ただけだよ。あ、このボール」
「ありがとうございます。私の様子……ですか?」
「うん。男バスとは練習別なんだよね?」
「基本的には。たまに合同練習もしますけど、今日はないと思います。大会も近いので、それに向けた練習をしないといけないので」
ああ、インターハイの予選だかが近いんだっけか。
それではなおさら俺が居たら邪魔だな。
「そう。何かあったら俺に言いなよ。これさ、俺の携帯の番号なんだ」
「あ、ありがとうございます。あの、私、練習に戻らないといけないので」
俺の携帯の番号が書かれたメモを手渡し、百瀬さんはポケットにそれを入れてボールを持って、体育館の中に戻っていった。
何だかナンパみたいになっちゃったけど、彼女は俺を頼ってくれているんだから、連絡先くらい教えたって別に良いよな?
うん、何も悪い事はしていないと言い聞かせて、体育館を後にしていった。
「何か連絡が来るかなー……何もなければいいけど」
部活が終わるまで待とうか考えたが、用もないのに学校をうろついてもしょうがないので、帰宅する事にした。
大会が近いんだから、英樹も無茶な真似はしないだろうよ。
きっとそうだと言い聞かせて、
「はーい、進一郎君」
「うおっ! は、葉月さん。どうしてここに?」
「どうして? 彼氏に会いに来たのよ、悪い?」
学校を出て、通学路を歩いていると、路地からひょっこりと葉月さんが現れた。
「あのー、大学は……」
「そんなもん、自主休講したのよ、悪い? どうせ今日は出席取らない授業だし」
おいおい、サボリかよ……大丈夫なんかこの人?
「後輩の女子と今日も元気に浮気していたんだ」
「してませんよ! ちょっと部活の様子を見ていただけです」
「はーん。女バスの練習を覗くとか変態じゃん。そんな変態が彼氏だったなんてね」
「う……そういや、弟さんってバスケ上手なんですね」
「ああ? 話逸らすんじゃねえよ。英樹は中学からバスケやっていて、高校でも副部長だかやっているの。私が知っているのはそれだけ」
「へえ。葉月さんも得意なんですか?」
「そんな話はどうでも良いわ。とにかく付き合いなさい。命令」
「は、はい……」




