第三十一話 お姉さんは予想以上に嫉妬深い
百瀬さんが英樹に告白……てっきり、こいつが一方的に言い寄ってきているのかと思ったら、逆だったのか?
「そうだよ。お前があの子に何かやったんじゃないのか?」
「知らねえって言ってるだろ。あの子と話したのだって、この前の体育祭が初めてだってのに」
つか、こいつは百瀬さんと今度は付き合おうとしているのか?
別に勝手にすればいいけど、変な勘違いをして因縁を付けてくるのは止めてほしい。
「俺は何もしてないっての。いい加減に変な因縁を付けないでくれ」
「その割に随分と親しそうだったじゃないか。姉貴と付き合っているくせによ」
「親しそうって、ちょっと話をしていただけだよ。てか、あんたがあの子に言い寄って困っている感じだったから……」
「何処が困っている風に見えたんだよ。とにかく邪魔するんじゃねえ。お前は姉貴のお守りだけしていろ」
お守って、葉月さんを何だと思っているんだよこいつは……まあ、葉月さんも英樹に似たような事を言っているから、どっちもどっちなんかな。
「ああ、ちょっと待った」
「何だよ?」
「一つ葉月さんの事で聞きたい事があるんだけどさ。葉月さんって、今まで彼氏とか居たの?」
「そんなの本人に聞けばいいだろ」
「聞いたけど、ちゃんと答えてくれなかったんだよ。やっぱりモテたんだよな、葉月さんって」
英樹が葉月さんの交友関係を全部把握しているかわからないが、一緒に住んでいるなら、ある程度の事はわかるはず。
こいつに頼るのは癪だけど、知っていそうなのは周囲に葉月さんの弟である英樹しかいないからな。
「さあな。今まで何人男が居たかなんて、俺が知る訳ねえだろ。家に何度か男を連れ込んだ事はあったみたいだけどな」
「ふーん……」
何度か自宅に男を連れ込んだ事はあったのか。まあ、俺も葉月さんの家に行ったことはあったっけな。
ガレージで車の中で押し倒されて……もしかして、何度か同じ様な事をやっていたのか?
手慣れている感じはあったけど……。
「くだらない事を聞くんじゃねえ。じゃあ、これ以上俺の邪魔すんなよ。ったく、姉貴も面倒な男と付き合いやがって」
ブツブツと俺と葉月さんに悪態をつきながら、英樹はようやく俺の元から去っていったが、別に奴が誰と交際しようが今となってはどうでも良い話だ。
だが、百瀬さんが本当に困っているってなら、話は別だけど俺が必要以上に足を突っ込むのもどうかと思うし……。
「しばらく様子見って事にしておくか」
事情がまだ呑み込めないし、友達でもないのにおせっかいを焼くのもどうかと思うしな。
そう言い聞かせて、教室を出ていったのであった。
「こんにちはー、進一郎」
「うおっ! は、葉月さん。なぜここに?」
家の近くまで来ると、葉月さんが路地からひょっこりと出てきて声をかけてきた。
「何でって別に私が何処に居ようが勝手じゃない。彼氏の家の近くで待っているのが、そんなに気に入らないかしら?」
「そ、そんなことはないですって。ビックリしただけですよ。来るなら、連絡してくれればいいのに」
まさかこんな所で葉月さんに会うとは思わなかったが、この人、大学にはちゃんと行っているんだろうか……。
「そうよね。てか、進一郎は私の家まで待ち伏せとかした事ないわけ?」
「ないですよ。迷惑じゃないですか、そんなの?」
「ストーカーみたいなのは困るけど、たまにはやっても良いじゃない。ウチの場所だって知っているんだし、私の家に遊びに行きたいとか思わない訳?」
もちろん、そんなことはないんだが、葉月さんの自宅ってのは英樹の自宅ともイコールな訳なので、それを考えるとやっぱり行きにくい。
「英樹の事ならさ、あんまり気にしないことよ。あいつ、しょっちゅう女子を家に連れ込んでいるんだし、私が男を連れ込んだって、別に文句言ったりはしないって」
「で、ですよね。あ、ここじゃ何なんで、家に上がります? 今日はまだ両親も仕事でいないので……」
「あらー、悪いわね。いきなり押しかけて、お茶までご馳走になっちゃうなんて♪」
まだ家に上がっても居ないのに、そんな事を言われてしまったが、葉月さんを家に上げるのはやっぱり緊張するなあ……。
里美と付き合っていた時は一回だけあった気がするけど、何か気まずくて、会話があんまり続かなかったのを思い出した。
「えっと、麦茶で良いですか?」
「いいけど、クッキーとかないの? 折角、彼女さまが家に上がったってのに、麦茶いっぱいだけなんて、寂しくない?」
「あ、はは……ですよね! 少々、お待ちください!」
葉月さんを俺の部屋に上げた後、台所から冷えた麦茶を持ってきたが、お茶菓子の催促までされてしまったので、慌てて何かないか探してくる。
随分とワガママなお姫様だな……事前に来るってわかっていれば、こっちも何か用意したんだけど、クッキーなんかあったかな?
「こ、こんな物しかありませんが!」
「ふん。ポテトチップスは塩分が多いし、手がベタつくから嫌なのよ。まあ、今日はこれで我慢するわ」
取り敢えず家にあったポテトチップスを持ってきたが、これもお気に召さなかったようだ。
「あのー、葉月さん。もしかして、怒っていませんか?」
「んー? 何でそう見えるかしら?」
「今日はいつになく人使いが荒い気がしまして……」
「そうね。確かに機嫌は良くないかも。ウチの最愛の彼氏様がどうも他の女子が気になっているみたいでさ」
「は、はい? 何の事で……うわあ!」
葉月さんが麦茶を飲みながらそう言った後、急に俺の胸倉を引っ張り始め、
「あんたさ。まだあの一年の何とかって女子の事、気になっている訳? いい加減にしなよ。私の目が届かないからって、学校で後輩の女子とイチャつくとか、どういう了見してんの、ああっ?」
「いいっ!? も、百瀬さんの事なら、誤解だって言っているじゃないですか! んぎいいっ!」
「へえー、百瀬って言うんだ。可愛らしい名前じゃない。まあ、私の可愛さに敵う訳はないんだけどさ」
「いやいや、本当に何でもないんですって! てか、何で知っているんですか!?」
まさか葉月さんが見ていた……いや、あいつ以外いない!
「んーー、英樹が何か進一郎が後輩の女子にちょっかいを出しているってラインを送ってきてさ。そんなの聞いたら、彼女としても気が気でないじゃない。この前も誤解とか言っていたけど、またその子と仲良くして名前まで聞くとか、これは浮気の一歩手前くらいまで行っているんじゃないかしらね?」
「そんな訳ないでしょう! 少し話をしただけですって。てか、弟さんが彼女に言い寄っていて、困っていそうだったから……」
「それがあんたに何の関係があるのよ! 英樹がどうしようが勝手でしょうが。ああ、あの子がフラれるのは別にいいけど、進一郎が心配するような事じゃないわよね? 何か間違っている?」
「い、いえ……」
確かに俺には直接関係ないので、あんまり二人の関係に首を突っ込む必要はないのはわかっている。
トホホ……どうして、こんな面倒な事になっているんだか。
「うむ。わかれば良いわ。進一郎、私の尻に敷かれたい?」
「はあ? いや、別に敷かれても嬉しいですけど」
「なら四つん這いになりな。尻に敷いてあげるから」
「そんな変態プレイする趣味ないですよ!」
「あら、奇遇ね。私もないの。でも私が四つん這いになれと命令したら、素直に聞くくらい聞き分けの良い子になって欲しいなって思ってさ」
そんな無茶な……誤解が解けたと思ったら、余計に怒らせてしまい、どうすれば機嫌が良くなってくれるのか悩むばかりであった。




