第二十九話 今カノの誤解?
「それでさー……あ……」
翌日、いつも通りに学校に行くが、昨日一緒に二人三脚を走ったにも関わらず、里美は俺とは目も合わせようともせず、完全に無視をされていた。
ま、その方が気楽なんだけどね。下手に話しかけられる方がよっぽど気が滅入ってしまいそうなので、もう俺の事なんぞ、このまま無視して、里美は好きなように生きればいいんだよ。
それより、葉月さんに里美と復縁したって話がデマであることを証明しないとな。
ったく、英樹と言い里美と言い、恨みがあるのは俺の方だってのにどうしてこんな理不尽な逆恨みを受けないといけないんだか。
放課後――
「確か、ここのカラオケボックスの前で待ってろって言っていたな」
葉月さんとの待ち合わせ場所に来たが、まだ彼女は来ていないようだった。
ちょっと緊張するな……嘘だって言えば良いだけなんだけど、それをどう証明すれば良いのか考えてみると難しいし、何より葉月さんがどれだけ怒っているのか想像が付かないからな。
「はーい、お待たせー」
「あ、葉月さん」
「ふふん、お兄さん、何悶々としているの? そんなしけた顔をしていると、彼女にもにげられちゃうわよ〜〜」
「そんなにしけた顔してますかね?」
「してるって。何だか私を怖がっているみたいじゃない。ま、詳しい話はそこで聞かせてもらおうかしら」
と言って、目の前のカラオケボックスを指差して、二人で入っていくが、やっぱり顔に出ているか。
何とかわかってくれると良いんだけど、あの英樹が家で何を吹き込んでいるかわかりゃしないからな。
「んで。体育祭はどうだった?」
「体育祭ですか? クラスの総合順位は三位でまずまずでしたね」
「そんな事を聞きたいんじゃないのはわかっているわよね」
「はは……二人三脚なら、四位でしたよ。パッとしない順位で、里美も怒っていました」
部屋に入るとコーラを飲みながら、葉月さんは不気味なくらいのニコニコ顔で俺に昨日の体育祭の事を聞いてきたが、やっぱり怒っているやん。
「回りくどい事を言うのは止めにするね。進一郎、あの女は誰?」
「は? あの女って?」
「しらばっくれるんじゃないわよ。昨日、学校の近くで仲良さそうに話していた女は誰かって聞いてるの。ちゃんと見ていたんだからね」
「??」
学校の近くで仲良さそうに話していた女?
葉月さんが何の事を言っているのか理解出来ず、首を傾げていたが、葉月さんはコーラの入ったコップをテーブルにバンっとたたきつける様に置き、
「だからさ。体育祭が終わった後、女子と話していたでしょう。私の知らない子だったけど、あれは誰? 随分と可愛らしいお嬢さんだったじゃない。何か受け取っていたみたいだけど、まさかラブレターとかじゃないわよね?」
体育祭が終わった後に女子と……あっ!
(もしかして、あの子か?)
英樹にしつこく言い寄られていた一年の女の子の事?
「え? 何で知っているんですか?」
「そんなの見ていたからよ。進一郎の様子をコッソリ見に行こうかなって思って、学校にまで行ってみたらさあ……まさかの光景を見ちゃったよ。んで? 誰なのあの女は? 返答次第じゃ、この場から生きて帰さないかもしれないよ」
「いいっ!? ご、誤解ですって! あの子はただ……てか、里美の事は聞いてないですか?」
「里美? ああ、英樹が何か言っていたけど、あいつの虚言なんかどうでも良いのよ。そんな事より、あの女は誰かって聞いているんだけど。答えられないような関係だって言うならさあ……浮気って、断定しちゃってもいいよね?」
「そんな訳ないでしょう! あ、あの子はその……」
どうしよう。説明がちょっと難しいんだが……まさか、思わぬ所で浮気を疑われてしまい、俺も困惑してしまったが、とにかく誤解である事には違いないので、
「体育祭で色々あったんですよ。そのお礼と言うか……」
「進一郎。あんたさ、私の言った事、理解していないでしょう。何処のだれで、どんな関係で何を話していたのか、全部話せって言っているのよ。ああ? 早く答えなさいって!」
「いででてっ! ちょっ、足踏まないでくださいって!」
葉月さんが俺の隣に座り、次第に語気を荒くしながら、そう問い詰めてきたが、ヒールの高い靴で足を踏まれるとこんなに痛いとは……。
「あらー、ごめんなさい。つい踏んじゃったわ。んで、さっさと吐きなさい」
「何でもないですって。その……」
「だから、それを詳しく言いなさいって言っているのよ。進一郎さあ。こっちも事故のことで引け目を感じているから、あんたには出来る限り甘くしていたけど、それでも限度って物があるのよね。付き合っている以上、他の女とこっそり浮気なんて、万死に値する罪だと思わない?」
万死に値って、そこまで重い罪なのかよ! このままはぐらかすと、本気で命の危険があるかもしれないので、
「気を悪くしないでくださいね。実は葉月さんの弟さんに言い寄られていた所を……」
「英樹? またあの馬鹿がやらかしていたのね。懲りない子よねー、本当」
「そ、そうなんです。それを助けてくれたお礼で、スポーツドリンクを貰ったんです。それだけですよ、本当です! 名前も知らないんですって、こっちは!
「フーン……なるほどね」
ど、どうだ? 全部話したけど、これで納得してくれないようだとこっちも困ってしまうぞ。
「嘘を付いているようには見えないわね。なるほど、英樹が言い寄ってきていたのが原因なのね。んじゃ、信じてあげる」
「ホ……」
どうやら信じてくれたようだったので、ホッと胸を撫でおろす。
というか、信じてくれなかったらどうしようかと思ったよ……あんなんで浮気を疑われたら、こっちも堪ったものじゃないよ。
「てか、昨日学校に来ていたの、全然気づかなったですよ」
「そうね。別に進一郎の邪魔をする気はなかったのよ。本当にちょっとだけ様子を見に行こうとしたら、進一郎が私の知らない女と仲良くしているんだもんね。もう、ショックでショックで仕方なかったわ。まさか、私の知らない所でまさか、浮気をしていたなんて……食事も喉を通らず、夜も眠れなかったんだからね」
「あのー、昨日は確かサークルの打ち上げがあったんですよね?」
「そうなのよ。その写真、インスタにも上げているから、見てくれた?」
と言ったので、葉月さんのインスタを見てみると、確かに昨日の夜に投稿した何人かの女性と一緒に打ち上げをしている写真が何枚か上がっていた。
顔を隠しているが、これって葉月さんだよね? 思いっきり食事も酒も楽しんでいるように見えるんだけど……。
「あーあ、やっぱり年齢も学校も違うと、監視が行き届かないから苦労するわね。英樹に頼んでも絶対嫌がるだろうしさ」
「それを言ったら葉月さんだって……」
「ウチは女子大だって言ったじゃない。昨日の打ち上げだって、女子しかいないでしょうが。浮気なんか疑う余地もないでしょう」
言われてみたらそうだな。
しかし、女子大でも確か他の大学と一緒にやっているサークルもあると言うし、葉月さんだったら合コンとかの誘いだってありそうだけど、あんまり詮索するのは止めておこう。
「進一郎、私の事、好き?」
「え? あ、ええ……好きですよ」
「そう。あっさりと言ったじゃない。私なんて、寝ても覚めても進一郎の事好きすぎて、頭から離れないって言うのにさ。随分と言葉が軽いわね」
「どう答えれば良いんですか……んっ!」
「んんっ!」
好きなのは確かなので、素直にそう答えると、葉月さんは俺に急に抱きついて、キスをしてきた。
ちょっ、息苦しいんだけど……。
「んん……はあっ! 今回は誤解っぽかったから、これくらいで勘弁してあげる。でもねー、進一郎。もし本当に浮気とかしたらさ……このまま、首を引きちぎっちゃかもしれないから、覚えておいてね♡」
「いぎいいいっ! は、はいい……」
顔を離した後、葉月さんは目が笑っていない笑顔で、首を絞めながらそう言ってきたので、首を縦に振る。
こ、この人……やっぱり、まともじゃないかも。




