第二十五話 彼女の闇?
「おい、どういう事だよ?」
「どういう事って?」
「とぼけるなよ。何で俺を推薦したんだ?」
帰りのホームルームが終わった所で、早速里美の所へ行き、なぜ二人三脚で俺を推薦したのか聞いてみると、里美はそっぽを向いてしまい、
「別に。どうでも良いじゃん。誰もやりたがる人も居ないから立候補しただけだし、進一郎は知らない仲じゃないから、推薦しただけ」
「知らない仲じゃないってさあ……」
全然、理由になってないんだけど、里美の事だから何か企んでいるのは間違いない。
こんな事になるなら、さっさと他の競技に立候補しておけば良かった。
「と言うわけだから、私はこれで。明日、体育の時間で体育祭の練習やるみたいだから、そこでね」
「あ、ああ」
実に素っ気ない態度で里美は帰り支度をし、里美は教室を後にしていく。
何なんだよ本当にもう……。
俺と仲直りしたい感じでもなさそうだし、嫌な予感しかしないんだが、やっぱり推薦断るべきだったかも。
翌日――
「じゃあ、今日は体育祭に向けての練習を行う。各競技ごとに」
体育の時間になり、体育祭の練習を行う事になったが、練習は出場種目ごとに集まって好きにやれば良いので今日は実質自習みたいなものだ。
という事は今日は里美と二人で二人三脚の練習か……。
「じゃあ、早速やるか。これで足を縛るんだろ」
「うん」
ぎこちない雰囲気のまま、里美と俺の足をハチマキで縛り、お互い肩を組む。
こんなに里美と密着したの久しぶりだな。
付き合っていた頃は、手を繋いだり、腕を組んだりとかしていたのに、今でこんなにもギクシャクしているとは悪い夢でも見ている気分だ。
「よし。んじゃ、行くぞ、いち、に……」
「いたっ!」
「え? 大丈夫か?」
足を縛った後、里美と一緒に走り出すが、数歩走っただけで、急に里美が痛みを訴えて蹲ってしまった。
「いたた……」
「どうしたんだよ? 足、痛めているのか?」
「そうよ。この日も、外すわよ。こっち来て」
「あ、ああ」
かなり痛そうにしていたので、もしかして足を捻ってしまったのかと思い、心配になったが、そんなに痛いなら保健室に行った方が良いのでは。
「ほら、これ見て」
「ん? これって……」
体育館の裏に俺を連れていき、里美が靴も靴下も脱いで、右の足の甲を見せると、丸い痣の痕が出来ていた。
「どうしたんだよ、これ?」
「どうしたのも何もないわよ! あの女にやられたのよ。あんただって、あの場に居たでしょう!」
「あ、ああ……葉月さんにか」
この前のデートの時に、葉月さんが里美の足をかかとで思いっきり踏んでいたのを思い出したが、その時に出来た奴か。
まだ痣が残っているとか、結構痛そうだな……。
「これ、どうしてくれるのよ?」
「どうしてって言われても……」
「あんた達のせいで、こんなことになったんじゃない! もう、どうしてよ……こんな酷い事ばかり続いて。あの女、マジ許さない」
許さないも何もお前が後を付けていなきゃ、こんなことにはなってないだろうに。
とは言え、葉月さんもこれはやり過ぎだよな。
「何か言うことないの?」
「え? ああ、ちゃんと葉月さんにも言っておくからさ」
「それだけ? あんな暴力女と付き合っているんだから、あんたも同罪じゃない」
「同罪って……わかったよ。今度はちゃんと止めるから。痛いなら、保健室に行くか?」
「こんなの見せられる訳ないじゃない。いたた……走れるかな、これ……」
これって俺のせいなのか? そりゃ、葉月さんがあそこまでするとは思わなかったから、ビックリしたけど、俺もすぐ止めた訳だし……。
「そんなに痛いのに、何で二人三脚なんかやろうって言いだしたんだよ」
「これをあんたに見せたくて。あんな非常識な暴力女と付き合うなんて、進一郎も変態なんじゃないの?」
「変態って……俺はそういう趣味はねえよ。てか、どうするんだよ? 体育祭当日までにそれ治るのか?」
「そんなの知らない。ああ、何か惨めな気分になってきちゃった! 全部、あんたたちのせいだからね」
俺達のせいなの? 元はと言えば、お前が浮気したせいで、こうなったんだから、文句を言いたいのはこっちの方だっての。
とは言え、そのおかげで葉月さんにも付き合えたし、里美みたいな地雷女とも別れることが出来たと思えばむしろ良かったと思うべきか。
「だから、痛いなら保健室に連れていくって」
「いい。取り敢えず、今日は練習するフリをするから。あんたも付き合って」
「はいはい。じゃあ、好きにしろ」
何故か保健室に行くのも嫌がったので、もう里美の好きにさせることにする。
全く面倒くさい女だが、葉月さんも手を上げるような事はさせないように俺が気を付けないとな。
放課後――
「はあ、全くこんな事になるとは」
掃除当番だったので、ゴミ箱に溜まったゴミを集積所に放り込んで、溜息を付く。
里美と言い葉月さんと言い、俺の周りに難がある女性ばかり集まっているような気も。
「英樹、お前、また彼女と別れたの?」
「うるせー。どうでもいいだろ」
「ん?」
体育館の近くを通り過ぎると、ジャージ姿の男子生徒二人が話しているのを見かけたが、あれは英樹じゃないか。
バスケ部の男友達と話しているみたいだが、彼女と別れたって里美とか。
「お前は良いよな、すぐに彼女が出来て。でも、どんな女が理想な訳?」
「どんなって言われてもな。付き合うなら真面目な女が良いって思ってるだけだよ。ウチの姉貴が、あんなクソみたいな性格してやがるからよ」
「英樹の姉ちゃん、美人じゃん。モデルやってるんだろ?」
「冗談。あんなケバイ格好して勘違いしやがって。どんだけ性格悪いか知っているのかよ。俺だって、姉貴には酷い目に何度も遭っているんだ」
「ふーん。あ……ちょっと呼ばれたから言ってくるわ」
男友達が体育館の中に行き、英樹はバスケットボールを手に持って、外に出てきた。
「おい。そんな所で何やってるんだよ」
「あ? いやー、どうも。掃除当番でごみを捨てに行った帰りだよ」
「さっきからそこに居ただろ。ったく、盗み聞きしやがって」
気づいていたのかよ。というか、口が悪い男だな……真面目な女が好みって、そういや、葉月さんも結婚するなら真面目な男が良いと言っていたな。
異性の好みも姉弟で似ているんだな……仲は悪いのに。
「あんまり、葉月さんを悪く言うなよ。俺も気分が悪いし」
「は? 性格悪いの事実だからしょうがねえだろ。大体、俺だってあの女に酷い目に遭ってるんだぞ。姉貴のせいで彼女にフラれたこともあるんだし、お前だって絶対ロクな目に遭わないからな」
「葉月さんのせいで?」
「そうだよ。中学の時、姉貴と買い物に行った時、付き合っていた彼女と偶然会って、そこで喧嘩になったんだ」
「ちょっと、英樹! 何でこんな女と一緒に居るのよ?」
「だから、姉貴だって言ってるだろ。何度も言わせるなよ」
「嘘! じゃあ、何で手なんか繋いで……お姉さんだとしても手を繋ぐなんて気持ち悪い!」
「おい」
「な、何よ……」
「弟の彼女だか知らないけど、あんま調子に乗ってるんじゃねえよ、このタコ!」
「きゃああっ!」
「…………」
葉月さんと英樹が二人で買い物に行った時、浮気だと誤解した彼女がヒステリックに詰め寄り、それに怒った葉月さんが彼女に蹴りを入れて、それがきっかけで別れてしまったという。
「ああ、思い出しだけでムカつく。彼女に謝れって言っても、私を馬鹿にしたあの女が悪いの一点張りでよ。そういう女なんだよ、姉貴は。もう二度と買い物にも行ってやらねえ」
とブツブツ言いながら、英樹はバスケットボールを持って、体育館の中に戻っていく。
何だかな……今の話が本当なら、葉月さん、気に入らないことあるとすぐに手を上げる女って事になるんだが……大丈夫なんだろうか、あの人と付き合っていても。




