二十四話 想像以上に危険な彼女
「ずっと付けていたって、どういう事だよ?」
「付けてなんかいないし。帰りにたまたま見かけただけだから、何やってんのかと思っていただけ」
要するに付けていたんじゃん。
俺は全然気付いてなかったけど、葉月さんは気付いていたんだよな?
「あなたも未練たらしい女ね。元カレをコソコソ付け回すとかさ。そんなだから、男に恵まれないのよ」
「あなたみたいな女に言われたくないです。見かけたのはたまたまですし。本当、腹が立つわね、この人」
だったら、いちいち付け回すなよと言いたいが、何がしたいんだか里美も。
「見ての通り、今、私も彼とデート中なの。水差すような真似しないでくれる?」
「あなた達のせいで、こっちは最悪な気分なんですよ。私への当てつけみたいな事をして」
「当てつけって、元はと言えばお前が……」
先に俺を裏切ったから、こうなったんだろうが。
くそ、俺はこんな性格が悪い女と付き合っていたのか。
今、思い出しても信じられない。里美の何処が良くて、付き合い始めたんだっけ。
「いやー、進一郎の元カノ、こんなだったんだ。流石、英樹からも捨てられただけの事はあるね」
「ひで……大場先輩から、捨てられた訳じゃありません! 私の方から振ったんですから!」
「あら、そうなの。ま、姉の私が言うのも何だけど、英樹とは早く別れて正解よ。あんな男に引っかかった事だけは同情してやるわ。でも、おかげで進一郎と付き合えたわけだし、その点は感謝かなー。ね?」
「は、はあ……うん、そうですね。と言うわけだ。俺達、もう行くから」
これ以上、里美の嫌味に付き合っていてもキリがないので、葉月さんとのデートの続きをしようと、彼女と腕を組みながら去ろうとすると、
「気に入らない」
「はいはい。気に入らなくて結構だからさ」
「そうね。そんな性格悪い女が好きだなんて、進一郎も女の趣味がおかしいわよ。あんたら見てると、凄い腹が立つ。つまんねー男のくせに、私に見せつけやがって」
もう逆恨みも酷すぎるんだけど、何でこんなに突っかかってくるんだか。
里美と付き合った事、もはや黒歴史として脳内から消去したいくらいだよ。
「ちょっと、あんた。さっきから言いたい放題言ってくれているじゃない」
「は? きゃっ!」
葉月さんが急に踵を返して、里美の方に詰め寄り、彼女の足を思いっきり踏みつける。
「ああ? 小娘が調子に乗るんじゃねえよ。ウチのバカ弟の事なら、煮るなり焼くなり好きにしてくれて構わないけど、ウチの彼氏にいつまでもケチ付けてんじゃねえよ!」
「い、いたあっ!」
「ちょっ、葉月さんっ!」
ヒールの高い靴で、里美の足を思いっきり踏んできたので、慌てて葉月さんを引き離す。
「あらー、足を踏んじゃってた? ごめんなさーい、気づかなかったわ」
「いたた……な、何て事するのよっ!」
「そりゃ、こっちのセリフだっての。さっさと失せな、小娘。ここじゃ、人目があるから、この程度で勘弁してやるって言っているのよ」
「も、もう行きましょう! それじゃな、里美!」
「あーん、もうダーリンってば♪」
こんな往来で喧嘩なんかされたら溜まったもんじゃないので、葉月さんの腕を引いて、この場からダッシュで連れ去る。
ちょっと性格が悪い人かもしれないと思ってはいたが、ここまで気性が荒いお方だったとは……しかも、平気で手を出されるのはまずいって。
「もう、あんなんで良いの? 進一郎の代わりにあの子にヤキ入れてやっても良かったのに」
「そういう物騒な事を言わないでください! そこまでやってくれとは思ってないですから」
「はいはい。相変わらず良い子ちゃんねー、進一郎は。今時の若い子って、そんなものなのかしら。いや、英樹はあんたみたいに良い子じゃないか。でも、もっと痛い目、遭わせないと、あの子、延々と進一郎に粘着してくるよ」
「その時はその時ですので……てか、あいつは何がしたいんですかね? 俺が葉月さんと付き合った事、そんなに気に入らないのかな?」
「別れた彼氏が数日後に別の彼女作ったら、ムカつくってのはあるんじゃない。しかも、自分より美人のお姉さんで付き合っている男の姉貴とかさ。何か嫌がらせされている気分になっているんでしょう。ああいう子も初めて見たからよくわからないけど」
もしそうだとしたら、何と言う面倒くさい女なんだ。
里美と付き合っている時は、真面目で良い子だと思っていたのにな……どうして、こんな子が俺の彼女になってくれたんだろうと舞い上がってすらいたんだが、まさかあんなストーカーみたいな女だったとは。
「何かあったら遠慮なく言ってね。知り合いに頼んで、彼女、ボコってやるくらいはするから」
「冗談でもそんなことは言わないでくださいよ。てか、どんな知り合いですか、それ?」
「んー? 細かい事は気にしないの。てか、進一郎って手を上げる女は好きじゃないの?」
「好きな人いたら、おかしいですよ。頼むから、そういう事、しないでくださいね」
「はーい。それより、まだ時間あるから、遊ぼうよ。ね、今度はそこの店行ってみない? 進一郎に似合いそうな服、見てあげるから」
里美もおかしいが、葉月さんも色々とおかしい人だという事がわかってきたけど、本当に変なことはしないでくれよと祈りながら、葉月さんとのデートを終えていった。
「おはよー」
「うん、おはよう」
次の日、学校に行くと、里美はいつもと同じような調子でクラスの女友達と挨拶を交わしていた。
足は大丈夫かな……結構、ヒールの高い靴で踏まれていたから、かなり痛かったと思うんだけど、怪我してないかは心配だ。
「あ……」
「よ、よう。調子はどう?」
「さあね」
里美と一瞬目が合ったので、さり気なく足の調子を聞くと、里美はそっぽを向いてしまい、顔をすぐに逸らしてしまった。
はあ……何だか虚しい気分になってきたな。少し前までは教室でも楽しく里美と話していたのが、もう夢みたいに思えてきたよ。
「それでは体育祭に出場する種目を決めたいと思います。まずは百メートル走……」
ロングホームルームの時間になり、今度やる体育祭に出る種目を決めることになったが、何に出ようかな。
百メートル走が楽そうだけど去年出たから、何か違う種目が良いか。
「えっと次は二人三脚に出たい人」
二人三脚か。男女二人、一組でやるらしいから、里美と付き合っている時だったら二人で立候補していただろうけどな。
「誰か居ませんか? 推薦でも良いですよ」
体育祭の実行委員が立候補を促すが、男女二人一組と言うのがネックとなっているのか、立候補者がいなかった。
てか、今の時代に男女で二人三脚とか時代遅れじゃない? 嫌な人もいるだろうし、身長差だってあるじゃんか。
伝統だか何だか知らないけど、こういうの止めようや。
「はい」
「あ、岡島さんですね。それじゃ、男子は……」
何と里美が手を上げて立候補をし、実行委員が里美の名前を黒板に書く。
どういうつもりだ? あいつが二人三脚に立候補ってさ。
「男子は推薦したい人がいるんですけど、良いですか?」
「良いですよ」
「中田君を推薦したいです。彼、足が結構速いですし」
「は?」
里美が俺の方を指差して、いきなり推薦してきたので、驚いて言葉を失う。
何で俺を? 別れたばかりの元カレだぞ。
「中田君、良いですか?」
「ええっ? あ、その……」
辞退しようかどうしようか迷ったが、里美が何を考えているのか知りたかったので、
「はい」
「じゃあ、決まりですね。二人三脚は岡島さんと中田君の二人で」
思わずハイと返事をし、黒板に俺と里美の名前が書かれる。
体育祭で元カノと二人三脚とか……




