第二十三話 デートで良い雰囲気だったのに
「そうだ。もうすぐ夏じゃない? 新しい水着を見たいんだけど、付き合ってくれる?」
「良いですよ。水着かー。最近、プールに入ってないですね」
昼を食べ終わった後、葉月さんは俺の腕を組みながら、水着を見に行きたいと言ったので、当然、彼女に付き合う事になったが、プールなんて中学を卒業してから入ったことがないのを思い出した。
ウチの高校はプールもないし、水泳をする機会もなかったからな。
「水着かー。俺、中学の時のスクール水着しか持ってないですね」
「はは、男子ならそんな物じゃない。私、去年はプールも海も行けなかったからなあ。一応、受験生だったし。夏期講習中とか寝ていたけど」
それは普通に駄目なのでは……とは言え、流石の葉月さんも高三の夏休みには遊んでいられなかったという事か。
でも葉月さんの水着姿は純粋に楽しみだな。
「ふふ、私の水着姿想像している?」
「え? いやー、はは。わかっちゃいました?」
「顔に思いっきり出ているし。ま、見たいなら今すぐにでも見せてあげるよ。はい。これ、一昨年に海に行った時の奴」
「おお……」
葉月さんがスマホで大きな浮き輪を持ち、ハート形のサングラスを頭に付けて、縞模様のビキニを着てはしゃいでいる写真を見せてくれた。
一昨年の写真ということは今の俺と同い年の……女子高生時代の葉月さんか。
「可愛いでしょう?」
「もう惚れちゃいますね。同級生にこんな子いたら、即告白しますよ」
「それ、絶対嘘だね。進一郎って、こういうギャルっぽい子、元々タイプじゃないでしょう」
「そんなことはないですけど、同じクラスに居たら気にはなると思いますよ」
ギャルっぽい子は好きではなかったけど、葉月さんは何というか可愛らしさを感じるんだよな。
「ま、こんなガキの頃の水着なんて見ても楽しく無いだろうから、今の私の水着見せてあげる。付いてきなさい」
「はい。五つ星彼女の水着を是非、見てみたいです」
「…………」
「? いてて! な、何ですか!?」
と言うと、葉月さんは立ち止まって、俺の頬を両手で思いっ切り抓る。
「そういう嫌味っぽいのちょっとムカつくのよね」
「嫌味って自分で五つ星って言ったんじゃないですか」
「あんなの半分冗談で言っているに決まってるじゃん。全く真に受けちゃって。進一郎って、皮肉とか冗談、通じないタイプ?」
半分冗談って事は半分は本気ってことじゃん。
「すみません。嫌味のつもりではなかったんですが」
「そう聞こえたの。今度から気を付けてね」
別に嫌味で言ったわけじゃなかったんだけど、葉月さんの心象を悪くしたくはなかったので、取り敢えず謝っておく。
何はともあれ、葉月さんの水着は見たいので楽しみだ。
「んー、どれにしようかな?」
ショッピングモールにある水着売り場に行き、葉月さんが水着を物色していくが、色々な水着があるなあ。
「私に似合いそうなのどれだと思う?」
「俺、女物の水着、よくわからないんですよね」
「そんなのわかったうえで聞いているの。どれが良いと思う?」
「じゃあ、これですかね」
葉月さんが二種類のビキニを俺に見せてそう聞いてきたので、トラ柄の縞模様のあるビキニを指差す。
「へえ、こういうのが好きなんだ。今更だけど、進一郎は私にどんな印象を持っているの?」
「どんな印象と言われても。強いて言えばワイルドな印象ですかね」
「ふーん。ワイルドね」
一言で言えばそうなるけど、事故当初はしおらしい女性かと思ったが、今思うと、もはや別人じゃないかってくらいの豹変っぷりだ。
自意識過剰って言うのかな、こういうの。
「私の事、段々とわかってきたみたいね」
「あはは、そうですかね。じゃあ、葉月さんは俺の事、どう思っています?」
「そうね。最初に会った時から、殆ど印象変わらないかな。人畜無害の良い人。少なくとも私にとっては」
「人畜無害ですか……」
それは微妙に褒められている気がしないのだが、もしかして、つまらない男だと思われている?
「なーに、そんな顔をして。別に悪くは言ってないでしょう。じゃあ、これが良いのね。試着してくるから待ってて」
確かに悪く思われてはいないんだろうが、彼女に人畜無害な男と言われて、喜ぶ奴が居るのだろうかと考えながら、葉月さんが試着室で水着に着替えるのを待つ。
そういや、里美にも前に似たような事を言われた気がするな。
『進一郎は真面目で良い人よね。悪い事しなさそうだし』
そんなことを言われたのを思い出したが、里美につまらん男だと思われて、あの野郎と浮気したって事か?
だったら考え物だぞ……もし、そうなら葉月さんにもいずれと思ってしまうと、
「じゃーん。お待たせ」
「お、おお……似合っていますね」
葉月さんが試着室のカーテンを開けて、トラ柄っぽい黄色い縞模様のビキニを試着した姿を俺に見せると、彼女のプロポーションの良さに思わず魅入ってしまう。
肌も手入れが行き届いているのか白くて綺麗だし、何より胸も結構あって、腰もくびれがあり、足もスラっと長くて傍から見てもスタイルが良い。
「どうよ?」
「流石、葉月さんです。モデルをやっているだけの事はありますね」
「あはは、そう。じゃ、これにしようかなー。彼氏のお気に入りみたいだし。ほれ、一枚くらい撮影しても良いよ。その代わり、他人に見せたり、ネットに無断でアップするのは禁止ね」
「は、はい」
折角なので、葉月さんの水着姿をスマホのカメラで一枚撮影する。
くそ、一枚だけなのが惜しいな。
「撮りました」
「進一郎、本当真面目よね。言われた通り、一枚しか撮らないなんて」
「ええ? もっと撮影しても良かったんですか?」
「他人に見せたり、無断アップしなきゃ良いわよ。と思ったけど、さっさと着替えないとね。じゃあ、これ買うから。今度、プールか海に行った時にじっくり見せてあげるから、楽しみにしてなって」
と色気のあるポーズを見せつけながら、カーテンを閉めて、葉月さんはまた着替え始める。
葉月さんと海……想像しただけでめっちゃ似合いそうだな。
一人にしたら、チャラ男どもにナンパされそうだから、俺がしっかりガードしないと。
そう考えると張り合いがあるなあ。里美の時はそんな事、考えもしなかったのにな。
「はーい、お待たせ。じゃ、行こうか」
会計を済ませた後、葉月さんは俺の手を引いていく。
お金を出してやれなくて、少し罪悪感もあるが、葉月さんの水着を拝めただけでも良かったかな。
「次は何処に行こうか……あ」
「ん? さ、里美」
葉月さんに手を引かれて歩いていくと、制服を着た里美とバッタリ会ってしまう。
何でこんな所で里美と……運が悪いなクソ。
「よ、よう。何やっているの?」
「ちょっと部活で用があって学校に行っていたの」
「そう。それじゃ」
正直、デート中にこいつと会うとか、気まずいなんて物じゃないのでさっさとこの場から去る。
「はーい、こんにちは。弟の元カノだっけ?」
「――っ! な、何でその事を?」
「別に知ってても良いじゃん。あなたも男を見る目ないわね。英樹みたいなのに引っかかるなんて」
「余計なお世話です! あなたには関係ない話じゃないですか。ったく、性格悪い女ですね。進一郎も良いご身分じゃない。新しい彼女とラブラブで」
「は? いや、そんな言い方はないだろ?」
葉月さんの嫌味っぽい言い方に腹を立てたのか、里美は声を荒げてそう言ってきたので、ちょっとムッとしてしまったが、
「ごめんなさいね、性格悪くて。進一郎は気づいていないみたいだけど、あなた、さっきからコソコソ付けていたでしょう? 私らの邪魔すんなら、こっちも容赦しないからさ」
「え? 付けていたって……」
里美が俺たちのことを? 全く気が付かなかったけど、マジで? 何のために?




