第二十二話 自称五つ星の彼女
「全く良い子ちゃんよね、進一郎は。高校生なんだから、もっとがっついても良いのに」
「いきなりホテルはちょっと無理ですって。あ、くそ。もう少しだったのにな」
流石にホテルに入るのは無理だったので、葉月さんと一緒に近くのゲーセンに行き、クレーンゲームをやるがお目当てのぬいぐるみを取り損ねてしまった。
「もしかして、そのぬいぐるみ、私へのプレゼントするために?」
「ええ。あ、気に入らなかったですか? だったら、別のにしますけど」
「ううん。可愛いじゃない。進一郎、クレーンゲーム得意なの?」
「得意って程でもないんですけど、葉月さんに何かプレゼントしたいなって思いまして。何か欲しい物あります?」
「進一郎からのプレゼントなら何でも嬉しいよ。でも欲しい物かー。そうだなー……エルメスのバッグとか欲しい!」
「…………」
そう来たか。葉月さんは確かにブランドもの好きそうではあるけど、当然のことながら、そんな物を買えるだけの金はない。
「なーに、その顔は? 私みたいなキラキラした女子にはそのくらいの高級ブランドが良く似合うじゃない。インスタ映えもするしさ」
「よく自分で言えますね、そんな事」
「事実だし。ほら、これがウチのインスタアカウントなんだけど♪ 進一郎もフォローしてよ」
葉月さんがウキウキした顔をしながら、スマホで自身のインスタアカウントを見せてきたが、確かに色々と見映えがするファッションやスイーツの写真なんか沢山投稿されており。フォロワーも結構いた。
キラキラした感じは確かにするけど、どうもこういうのは苦手なんだよな。
「もう少しでフォロワー五百人超えそうなの。まだまだインフルエンサーってレベルじゃないけど、どんどん伸ばしてキラキラした日常を見せつけてやるんだから。その為にブランド物が欲しいのよ」
「フォローはしますけど、葉月さんが欲しいブランド物のバッグっていくらぐらいするんですか?」
「そうねえ、確か九十万くらいだったかな」
九十万……うん、買うの無理だな。
バイトを頑張ってもそれを買える様になるまで金を貯めるのに何ヶ月かかるんだよ。
「これなの。ね、私にぴったりだと思わない?」
「似合うかもしれませんけど、とてもじゃないですが、プレゼントするのは無理ですよ」
スマホで葉月さんが欲しいと言っているブランド物のバッグの写真と価格を見るが、税込み九十八万六千円って、たかがバッグに何でそんな値段が付いているんだよ。
正直、こういうのを欲しがる心理が理解できない。少なくとも実用的じゃないだろうに。
「進一郎に買ってくれとは言ってないよ。こんな高いブランドもの、ホイホイプレゼントしてくれる男の方がむしろキモイって。ましてや、高校生の進一郎じゃ何かヤバイ仕事でもしないと無理でしょう」
「ですよね。まあ、俺がめっちゃ稼げるようになったら、考えておきます」
「だから、買ってくれとは言ってないって。くれるってなら貰うけど、進一郎にそこまで欲しいとは思ってないの」
プレゼントするなら貰うんかい。
マジで心配になってきたな。こういう性格をしていると、いつかひどい目に遭いそうで俺の方が怖いよ。
「そんなドン引きした態度を取らないの。進一郎にブランドもの、買ってくれとか死んでも頼んだりはしないからさ。買うなら自分で買うし、それでこそ価値あるじゃない。それでもプレゼントするってなら、貰うけど無理はしちゃだめだからね」
「しませんよ。でも、そういう事を言われると、何をプレゼントしたら良いか悩んじゃいますよ」
少なくともブランド物が欲しいって事は、それ以外の物をプレゼントしても満足してくれるとは思えない。
こんな安っぽいクレーンゲームのぬいぐるみでも表向きは喜んでくれても、実際にはダサイとか思われたら堪らないしな。
「ほら、クレーンゲームやらないの?」
「あ、ああ……やりますよ。葉月さんにプレゼントしたいですから」
「うん、頑張って」
気を取り直して、クレーンゲームの続きを行う。
とにかく今の俺が葉月さんにプレゼントできそうなのはこれくらいしかないので、全力で頑張ろう。
「きゃー、やったじゃない」
「な……何とか取れました」
六回目の挑戦で、どうにかお目当てのあざらしのぬいぐるみをゲットし、葉月さんに手渡す。
「はい、どうぞ」
「ありがとー。よく見ると、超可愛いじゃん。大事にするね」
「喜んでくれて何よりです」
ぬいぐるみを手渡すと、葉月さんは本当に嬉しそうに受け取ってくれたので、一先ずその笑顔が見れただけでも良しとするか。
「クス、何よ。本当に嬉しいよ。今の進一郎にエルメスやグッチを買ってくれとか思ってないって。むしろ、プレゼントされたら、逆に引いちゃうよ。何か悪い事でもしたんじゃないかって疑っちゃうし」
「そうですよね。じゃあ、次はどうします?」
「お腹空いたしさ。一緒にどっかに食べに行こうよ」
既に昼食の時間になったので、葉月さんと一緒に近くのファストフード店に行く。
葉月さんの事が色々と知れたけど、もっとまじめな人だと思っていたんだけどな……。
とは言え、真面目な女なら安心って訳でもないんだよな。
何故なら、前に付き合っていた里美が真面目な優等生って評判の女だったからだ。
実際、学校ではどっちかって言うと地味で問題も起こさず、付き合っていた時も喧嘩すらした事は無いし、ブランドものどころか何かプレゼントが欲しいなんて一言も言った事は無い。
なのでまさか、他の男と浮気をしているとは思いもしなかったので、ショックが大きかったのだ。
それに比べたら、自分の欲しいものも隠さない葉月さんはずっとマシ……と思った方が良いかな。
「んーー、こういう所でのデートが学生っぽいよね。インスタ映えはあんましないけど」
二人でハンバーガーのセットを頼み、隅っこの方の席で一緒に食べるが、インスタ映えとかそんな事まで気にする人だっとはな。
「もしかして、私がブランド狂いの女だと思って幻滅した?」
「そういう訳では……すみません、事故の時の印象が強かったんで、まだギャップを感じると言うか」
「あの時は本当に人生終わったと思ったからね。今まで調子に乗っていたから、天罰がくだったのかなって。でも、進一郎とおかげで出会えたしね。えへへ……」
まあ、実際に人を跳ねたらショックではだろうけどさ。事故の前の葉月さんがどんなだったか知らないけど、今見せているのが本当の葉月さんなら、ようやく事故のショックから立ち直ってきたって事で、喜んでいい事なんだろう。
「でも私に似合うのはそういう高級ブランドだと思わない? 自惚れているかもしれないけど、私はそういう高級ブランドや高級ホテルに高級料理でキラキラした姿を見せたいの。それが似合う女だと思わない?」
「似合うとは思いますけど、今の俺にその夢を叶えさせるのは無理なので……」
「でしょうね。ま、そういう願望があるって事よ。英樹のアホもがめつい強欲女とか言うし、前の男も同じような事を言うわで、まあわかってないのが多すぎるわ。私はランクで言ったら五つ星くらいの価値はあるの。そういう女と付き合っているんだから、それだけありがたい事だと思ってほしいわね」
「よく理解しておきます」
自信満々にそう語る葉月さんに、呆れるよりは逆に感心してしまった。
人によっては反感を買うかもしれないが、俺に自分の事をちゃんと見せてくれているんだと思い、極力彼女の言葉を前向きに思う事にしたのであった。




