第十九話 今カノと元カノの対決?
「はあ……ったく、あの男もしょうもねえな」
「うん……ありがとう、進一郎」
里美と一緒に学校を出て、しばらく全速力で道を走っていくが、柄にもない事をしちまったかな。
「まだ別れてねえの、あいつと?」
「進一郎には関係ないじゃん。まあ、考えている所だけど」
「ふーん」
相変わらず態度が悪い女だな。付き合っている時は、もうちょっと可愛かった気がするけど、これじゃ誰と付き合っても長続きはしないだろう。
「いつまで手を握っているのよ」
「あ、悪い」
里美の手を掴んだままだったので、慌てて離す。
もう付き合っている訳じゃないんだから、変な誤解をされたくはないしな。
「あれー、進一郎。何をやっているのかなー?」
「ん? は、葉月さん? なぜここに?」
里美から手を離すと、葉月さんが電柱の陰からひょっこりと現れる。
今日もサングラスを頭にして、決まった服装をしているなと感心してしまったが、もしかして、里美と手を繋いでいる所を見られてしまったとか?
「何でって言われても。彼氏に会いに来ちゃ悪い?」
「あはは……大学は良いんですか?」
「そんなの進一郎が心配する事じゃないし。それより、あなた、進一郎の元カノよね? 随分と仲良さそうにしているじゃない」
「ち、違います。これはその……」
やば、まさか葉月さんがこんな所に来るとは思わなかった。
「別に何でもないですから」
「何でもないのに、手なんか繋がないでしょう。あなた達、もう別れてんだよね? お姉さんにどういうことか説明してご覧なさい」
「あの、本当に誤解なんですって。さっき、里美が……」
「あん? この小娘が。進一郎の元カノだか、何だか知らないけど、ウチの男に手を出すとは良い度胸じゃん。ちょっと、面貸しな」
「は、はあ? だから、誤解だって言っているじゃないですか」
葉月さんが里美に詰め寄り、胸倉を掴みそうになったので、ヤバイと思い、
「葉月さん! 頼むから、俺の話を聞いてください。ね?」
「んーー? どんな理由よ?」
「それを詳しく話しますから。里美も来るか?」
「うん」
ここだと、人目に付くので、三人でゆっくり話せる場所へと移動する事にする。
まだ明日も明後日もテストがあるってのに、何をやっているんだろうな俺は……。
「ふーん、そんな事があったんだ」
近くのカラオケボックスに三人で行き、さっきの里美が英樹と揉めていたことを葉月さんにも話す。
またあの男がトラブルを起こしたので、葉月さんにも話しておこうとは思っていたんだが、まさか里美と一緒に話すことになるとはな。
「全く、あの馬鹿もしょうがない子ね。彼女のことを自分の思い通りにしようとしているなんて。最近になって特にひどくなっている感じだし。誰に似たんだか。ねー。進一郎?」
「は、はあ……」
誰にかと言われたら、それはもうあいつの姉である葉月さんだろと突っ込みたくなったが、葉月さんも自分の事を棚に上げて、弟の事をボロクソに言うのはわざとやっているのか、それとも無自覚にやっているのか……。
「テスト期間中だろうが、何だろうが先輩である俺の都合に合わせろなんて、寝言抜かす男なんか別れれば良いじゃん。それとも、何か別れられない事情があるの?」
「別にそういう訳じゃ……」
「ま、私はどうでも良いんだけどね。あなた、英樹にはもったいないくらいの可愛い彼女なのに、そんなぞんざいな扱いをするなんてさ」
と、葉月さんはアイスコーヒーを踏ん反り返った姿勢で飲みながら、里美にそう言っていたが、この葉月さんの態度、まるで女王様みたいな尊大ぶりで、逆に感心してしまった。
しかも、自分だってその弟と同じようなことを俺に言っていたのに、棚に上げている所とかさ。
「進一郎も放っておけば良かったじゃん。この子の事、まだ恨んでいるんでしょう?」
「そうは言いましても、俺にも無関係な話じゃないですし。それに、葉月さんだって、弟さんと同じようなことを俺に言っていましたよね?」
「ん? そうだったっけ?」
「そうですよ。テスト期間でも都合合わせて会ってくれとか……」
「ああ、そんな事、言ったわね。そのくらい良いじゃん。可愛い彼女のお願いが気に入らないの?」
「…………」
いかん、話が通じてない。
葉月さんだって弟と同じように、相手の都合を考えない発言をしていただろうって指摘していたのに、他人事のように堂々と言うなんて。
「それ、彼も同じこと言っていました……俺のお願いがそんなに気に入らないのかって」
「あははは、英樹も同じこと言っていたんだ。やば、あんなのに似ちゃうなんて、流石に考えもんかな。でもさー、男と女が言うのじゃ、やっぱり違うじゃん。そもそも力は男の方が強いんだし、男がそんな態度で偉そうに言ってきたら、女子も断りにくいでしょう。だったら、英樹の方が悪質じゃない。ねー?」
「そうかもしれないですけど、葉月さんも少しは考えてくださいよ」
「むうう……彼女の可愛い我侭じゃん。それに私の方がお姉さんだぞ。言う事、聞いてくれた方がもっと可愛く思えるんだけどなー」
俺の腕を組みながら、あざとさ前回の口調で葉月さんはそう迫ってくるが、とにかく我侭な女王様みたいな性格っぽいって事がよくわかった。
しかも、弟も同じというか、もっとひどい性格ってのがまたね……。
「ん……ほら、このキャンディー、食べる?」
「葉月さんのですよね?」
「私のキャンディーが食えないっての? 間接キスくらい、恥ずかしがる年齢じゃないでしょうが
「は、はい……」
葉月さんがさっきからしゃぶっていたスティックのミニキャンディーを俺に食べさせようとしたので、俺もそれを受け取って口にする。
「えへへ、良い子ねー。ちゅっ♡」
俺がキャンディーを口にすると、葉月さんはまた頬にキスをするが、何だか犬みたいに扱われているような……。
「二人とも、いつもそんなベタベタしているんですか? いやらしい」
「ははは、なーに、私に嫉妬しているの? カップルなんだから、ベタベタするの当り前でしょう。悪いけど、返品は受け付けないよ。英樹の事で悩んでいるなら、あいつの姉として相談には乗ってあげるけど、ウチの男にちょっかい出さないでくれる? したら、マジでぶっ飛ばしちゃうかもしれないから」
「しません! もう良いです。彼の事は、私で何とかしますから」
「あら、いいの? 英樹との間に入るくらいはやってやるけど」
「結構です! 何て偉そうな人なのよ。本当、英樹にそっくり。それじゃ、お金、ここに置いてきますから!」
「あ、里美」
葉月さんの偉そうな態度に我慢できなくなったのか、里美は自分の分のルーム料金をテーブルに置いた後、部屋から出て行ってしまった。
「あーあ、行っちゃった。短気な子よね。あんなのと付き合っていたの、進一郎?」
「付き合っているころはそうでもなかったんですけどね……てか、葉月さんももうちょっと言葉を選んでくださいよ」
「あの子に私が遠慮する必要あるの? 弟とはもう上手く行ってないんだし、進一郎の元カノが周りをウロチョロしていたら、ウザイに決まっているじゃん。それに進一郎があの子を助けたりしなきゃ、こうはならなかったんだし」
「そ、そうですけど……」
「あの子追い出して二人きりになったんだから、感謝してよね。それより、カラオケ楽しもうよ♪ テスト中でも息抜き必要でしょう。時間は取らせないから」
と、葉月さんはマイクを手に取り、タブレットで歌を入力し始める。
今の里美との会話を聞いて、葉月さんもかなり性格がキツイ人だってのはわかったが、果たして彼女との交際を続けて良いものか考えてしまった。




