第十七話 私とどっちが大事?
金曜日――
そろそろ中間テストも近いんだけど、今日は放課後、葉月さんと会う約束をしているので楽しみだ。
しかし、最近気になるのが……。
「あはは、そうだよねー。あ……」
「…………」
教室で、友達と談笑している里美と目が合うと、即座に里美は視線を逸らしてしまう。
もう里美と別れた事は俺の友達も知っているし、みんな俺に気を遣っているのか、この話題を出しもしない。
俺としては葉月さんと付き合っている以上、里美には未練など欠片もないんだが、以前にも増して里美の俺への態度がきつくなっているというか、敵意を剥き出しにしてきている。
これって逆恨みも良い所じゃないかよ、クソ。
文句を言いたいのは俺の方だってのにさ……おまけに、葉月さんの弟である英樹にも何か因縁付けられているし、最近、学校では良い事がない。
頼れるのは葉月さんしか居なさそうなので、
「はーい、進一郎。久しぶりー」
「どうも。てか、久しぶりですかね?」
放課後、葉月さんとの待ち合わせ場所である駅前のロータリーに行くと、葉月さんは既に来ており、俺に笑顔で挨拶をしてきた。
頭にサングラスをかけちゃって、今日も決まっているな葉月さん。
流石はファッションモデルをやっているだけの事はある。
「久しぶりだよ〜〜。お弁当、渡して以来会ってなかったじゃん」
「ああ、そうでしたっけ。このお弁当、美味しかったです。ありがとうございました」
「どうも。えへへ、それじゃ、そこの店にでも入らない?」
葉月さんが指差した店先はカフェか。
テストも近いので、あんま遅くなるのはどうかと思ったが、まあ、二人でちょっとお茶するくらいなら、良いか。
「ここの店、仕切りがあるんだよ。だから、誰にも邪魔されず二人きりになれるよ」
仕切りがある二人が座れる席がちょうど空いていたので、そこに座るが、まるでカップルの為にあるような席だな。
里美と付き合っていた頃も、こういう店は入った事はないな。
(ああ、だから愛想を尽かされたのか?)
この前の様子を見ていると、知らない間に不満を溜め込んでいた感じぽかったけど、今更、里美の事なんぞどうでも良いか。
折角、彼女と二人きりなのに元カノのことを考えるなんてよくないわな。
「カフェオレとモンブラン、お願いします。進一郎、学校での様子はどう?」
「えーっと……まあ、ここ何日かは平和ですかね」
「本当? 英樹やあの元カノになんか意地悪されていない?」
「ないですよ。元カノに関しては、ちょっと視線が痛いというか、露骨に無視はされていますけど」
正直、あの視線をずっと感じるのはキツイものはあるけど、何で俺が恨まれないといけないんだか。
元はと言えば、里美が俺をフったからだってのわからないのかよ。
「そう。全く、面倒くさい女と付き合っているわね、英樹の馬鹿も。あいつ、私の事もビッチだのどうだの罵倒しているくせに、自分だって女を見る目ねえじゃん」
「は、はは……」
葉月さんと付き合ってみて、段々とわかってきたんだが、この人、ちょっとばかし口が悪い気が……弟の事も、ここまでボロクソに言うものなのかね。
(まさか、俺の事も陰でボロクソ言っていたりするのか?)
有り得ない話ではないけど、今のを見ると、少し不安になる。
ま、そのことを表に出さなきゃ良いんだけどさ。
「そういや、もうすぐ中間テストなんだって? 進一郎、学校の成績とかどうなの?」
「あー、どうですかね……そんな極端に悪いわけではないと思いますけど、トップクラスとかそうでもないです」
「その様子だと、結構成績良さそうじゃない。私、あんまりテストの点は良くなくてねー。赤点も何回か取った事あるよ。あはは、物理とか十点取ったこともあるし」
「は、はは……」
十点って、よく卒業できたなその成績で。物理は俺もよくわからんけど、葉月さんって一応大学生なんだよね?
俺は別に謙遜していた訳でもなく、本当に中の上程度の成績で、今、通っている学校の偏差値もそんくらいの高校なのだ。
「あら、よく卒業できたって顔しているじゃん。ま、馬鹿だと思われるのは慣れているから良いんだけどさ」
「そ、そんな事ないですって。大学生なんですよね、葉月さん」
「そうそう。テストで赤点取っても今の時代、どうにかなるもんよ。私も無事卒業出来て、大学には行けたし。AО入試で入学したんだけどね」
「葉月さんの大学って……」
「ああ、女子大なの。ゴメンねー、もうちょっと進一郎と早く知り合っていたら、共学を選んでいたかもしれないのに」
「へえ、女子大だったんですか」
それじゃ、どっちにしろ葉月さんと同じ大学は無理か。
ガッカリしたようなホッとしたような。
「あら、大学で男を漁っているとでも思った?」
「いえ、とんでもない。むしろ、ホッとしましたよ。女子大なら、変な男はいませんよね」
「変な男ねー。ま、英樹みたいなアホのすけこましがいないのは、ストレスはないかな。でも、進一郎と一緒の学校行きたかったわね。私も同じ高校にしていれば、一年は一緒に通えたのに」
「そういや、そうですね」
二つ違いなら、同じ高校に一年だけ通う事は可能だったんだよな。
でも、二年上だとなかなか一緒になれる機会ないんで、難しいかも。
「ふふ……はい、あーんして」
「え? あ、はい。あーん」
不意に葉月さんがケーキをあーんして食べさせようとしたので、すぐに口を開けて食べる。
「くす。こういうの憧れていたでしょう」
「え、ええ……ここなら、誰も見ていませんよね?」
「大丈夫よ、仕切りあるし。あ、こんな小学生のママゴトみたいなの、見られたら逆に恥ずかしいか。もっと刺激的な事してみたい?」
「え?」
葉月さんが肘をついて、着ていたブラウスの胸元を少し引っ張って見せつける。
「あんな小学生のカップルみたいなのじゃ、満足できないんじゃないの? くく、店員の目を盗んで、ここで裸の付き合いを……」
「ぶっ! いやー、はは。俺、そろそろ行こうかな。中間テスト、近いですし」
「あらー、ビビってるんだ。てかさ、中間テストを理由に逃げるの、ちょっと卑怯じゃない。私とテスト、どっちが大事な訳?」
「ええ? いや、その質問はちょっと意地悪ですよ」
どっちが大事って言われても、そんなん選べるようなもんじゃないだろうに……。
「ま、意地悪なのは自覚しているけどさ。私だったら、目先のテストで赤点回避のために彼氏との時間減らすの嫌なんだけど。テストを理由に逃げるのは一見、正論だけど、進一郎の場合、テスト以外の色々な事を理由をでっちあげて、逃げそうだよね」
「あの、その言い方はちょっとないんじゃないですかね。大体、こんな所で……」
エッチな事をやるって言うのが非常識じゃん。
というか、彼氏がテストで悪い点とるの嫌じゃないのか?
「そうね。ゴメン、私もちょっと無理な質問をしちゃったかな。でも、テストなんかより私の方が大事って言ってくれれば、もっと嬉しかったんだけどねー」
と、葉月さんはコーヒーを飲みながら、何処か不貞腐れたような笑顔でそう言ってきたが、段々と葉月さんも色々と面倒くさい女性に思えてきてしまった。
事故の時は、あんなに顔面蒼白で弱っていた感じだったのにな……こういう人だったとは、当時から想像も出来なかった。




