第十六話 元カノの歪んだ嫉妬
「おい、あいつに何の用なんだよ。何で俺まで」
「黙って付いてきてよ。英樹は……」
里美に体育館まで連れてこられたが、俺にあの男と会わせてどうしようっての?
さっぱり訳がわからないんだけど、
「あ、いた。って、またあの女と」
「ん?」
体育館の隅の方で、英樹が女子生徒と弁当を食べている姿を見て、里美が駆け寄る。
「ちょっと、英樹」
「あ? さ、里美。何でここに?」
「何でも何も、その女は何よ?」
「女バスの子だよ。部活について話し合っていただけだっての」
「またそんな嘘を付いてっ! あなた、この前も……」
里美が英樹に一緒に居る女は誰だと問い詰めていたが、まさか二股されていたのか?
今更、里美がどうなろうが俺の知った事ではないんだけど、この男も節操がなさすぎるだろ。
「それにそのお弁当……」
「な、何だよ?」
「ん? それ、葉月さんが作った弁当だろ」
「っ! 何でお前までっ!」
葉月さんが作っていた弁当を英樹が今、正に食べていたので、中身を見てみると、普通にビッシリとおかずが入っており、美味そうな弁当だった。
いいなー、あいつはいつもこんな弁当を葉月さんに作ってもらっていたのか。俺も今日、同じ弁当を渡されているんだろうけど、一緒に住んでいるから、その気になれば葉月さんがいつでも作ってくれるわけか。
「英樹さ……私の事、本当に好きなの? 他の女と一緒にいる上にお姉さんにお弁当まで作って貰ってるなんてさ。良いご身分じゃない」
「はあ? これは姉貴が勝手に押し付けて……ああ、もう面倒くせえ。ほら、もう行こうぜ」
「う、うん」
「ちょっと待ちなさいよ!」
「うるせえな! もうあっちにいけ! ったく、あのクソ姉貴のせいでまた面倒な事に……」
英樹は一緒にいた女子を連れて、なおも問い詰めようとしていた里美から逃げ出してしまった。
何だかよくわからないが、あの男に浮気されていたのかよ。
まあ、男を見る目がなかったと思いな。
「あのお弁当……お姉さんの手作り弁当なんでしょう?」
「うん。ちょっと待ってろ……あ、マジであいつと同じ弁当だな」
教室に戻った後、葉月さんの手作り弁当を見ると、確かにあいつの弁当と同じ中身だった。
やっぱり、あの男と同じ弁当だったのか……彼女の手作り弁当は嬉しいけど、やっぱり複雑だよ。
「それがどうしたんだ? あいつが姉貴に弁当を作ってもらうのが、何か気に入らないのかよ?」
「前もそうだったけど、あんな歳になって、お姉さんにお弁当を作ってもらうなんて変じゃない。しかも、凄い美人だったしさ。英樹ってシスコンなのかなって思うと、ムカついて」
「…………」
そんな理由かよ。要するに葉月さんに嫉妬しているって事?
彼氏の姉貴に嫉妬するとは、随分と面倒くさい女だな。
「進一郎、その人と付き合っているんでしょう。私と別れた後に彼女作るなんて、私への嫌がらせのつもり?」
「はあ? お前、何言ってるんだ? 大体、お前のせいで……」
「ああ、もう。ロクな事がないじゃない! 周りの男、ロクなの居ないし! じゃあね」
「お、おい……」
葉月さんと付き合った事が里美への嫌がらせって、どんだけヒステリーこじらせているんだよ、あの女は。
(もしかして、里美って性格が悪かったりする?)
俺だけじゃなくて、英樹にも八つ当たりみたいな嫉妬かましてきやがるとは、実に面倒くさい女だ。
付き合っている時は微塵も感じなかったけど、これ別れて正解だったかもしれない……。
可愛い彼女だと思っていたんだけどな。あれではどっちにしろ長続きしなかったかも。
「飯にするか」
気が付いたら、昼休みが終わりそうだったので、葉月さんの弁当を急いで食べる。
味は美味しかったけど、色々とあったせいで、しっかりと楽しめなかった。
『はーい、進一郎♪』
「葉月さん。今日はどうしたんです?」
夜中になり、また葉月さんが電話をかけてきたので、電話に出る。
もう夜中に葉月さんと通話するのが日課になってきたけど、彼女の声を聴くとなんか元気が出るねー。
『どうも何も、彼女が電話をかけてきて、何が悪いのよ。ね、今日、私のお弁当、どうだった?』
「美味しかったですよ。ありがとうございます。そういや、弁当箱、いつ返せば良いんですか?」
『別にいつでもいいよ。何なら、学校で英樹に返しても良いじゃない』
あいつにか……いや、葉月さんの弟だから、別にそれでも構わないんだけど、絶対に嫌がりそうじゃん。
『お弁当の事で今日、何かあったんじゃない?』
「はい?」
『今日さ。あのバカが、帰ってくるなり、もう俺に弁当作るなって言ってきたのよ。失礼な奴よねー、本当に。あの様子じゃ、彼女と喧嘩したんじゃない。良い歳して、姉貴に弁当作ってもらうのおかしいとか何とかさ。本当、信じられない弟よねー』
「あー……里美と昼休みに喧嘩したみたいで……」
『ああ、あの彼女とね。やっぱり、上手く行ってないんだ。進一郎の彼女、寝取っておいて、もう飽きたのかしら。節操ない奴』
飽きたのか、里美の方があいつと付き合うのが嫌になったのかわからないが、あの様子だともう別れている感じだな。
変な男に引っかかったあいつの自業自得かもしれないけど、それ以上に里美の性格に難があり過ぎな気もする。
『よく、英樹の彼女じゃないかって誤解されるのよね、私。年も一個しか違わないし、何より美人だしさ、私♪ それを最近、凄く嫌がっているのよ、英樹の奴』
「あ、ああ……やっぱり、そういう誤解されちゃうんですか」
『そう。お弁当、たまに作ったりしているし、何年か前に一緒に買い物行った時に、当時付き合っていた彼女にバッタリ会って、浮気じゃないかって問い詰められたりもしてさー。姉貴だって言い訳しても、何か納得しなかったみたいで、そのまま……ってね。もうそれ以来、一緒に出掛けるのも嫌がるようになったのよね』
なるほど、そんなことがあったのね。だったら、気持ちもわからなくはないけど、葉月さんは傷ついたりしてなかったのか?
「葉月さん、何だかんだで弟さんの事、気にかけているんですね」
『んー? どうだろう。あんま関わらないようにしているけどね。でも、進一郎に酷い事をしたって聞くと話は別かなー。徹底的に痛めつけて、二度と手出し出来ないようにしてあげるけど。その里美って彼女も一緒にさ』
「あ……はは……」
里美を痛めつけてやるって言葉がさり気なく出てくるあたり、葉月さんも結構恐い性格してそうなので、怒らせない様に気を付けた方が良いかも。
『それより、週末にでも会おうよ。土日はちょっとバイト入っちゃっているから、無理そうだけど、金曜日の夜にでもさ』
「ありがたいんですけど、中間テスト近いんですよね」
『ああ、そんなのあったわね。テストの日って、午前中だけでしょう。私と会える時間も増えるね』
「いや、その……テスト期間は流石に……」
『何よー。私なんて、構わず遊びに行っていたけどね。ま、おかげで赤点もよく取ったけど。英語と体育は得意だったんだけど、数学が特に苦手でねー。あはは』
テスト期間中でも平気で遊びに行くとは、葉月さんもかなり度胸ある人だな。
彼女らしいけど、まあテスト期間中にちょっと会うくらいは良いか。
『んじゃ、金曜日会えたら、会おうねー』
「あ、はい」
週末に会う約束をし、電話を切る。
彼女に会えるのは嬉しいけど、気になるのは里美の方だな。
あいつ、何か変な事考えていなきゃいいけど。




