第十五話 葉月さんに相談してみたが……。
「ああ、思い出しただけで腹が立つ」
放課後、葉月さんの弟にあんな理不尽な因縁を付けられてしまい、夜中になっても腹の虫が収まらずにいた。
本当、何だよあの男は……葉月さんの弟だから、容赦してやったけど、出なかったらマジではっ倒している所だぞ。
「このことは葉月さんにチクってやるからな」
何かあったらすぐに言えと言われたので、葉月さんに全部話してやる。
早速、彼女に電話してみよう。
『はーい。きゃー、進一郎の方から電話してくるなんて珍しいじゃない。どうしたの?』
「いえ、葉月さんにちょっと話がありまして」
『何々?』
「言いにくい事なんですけど、葉月さんの弟の事でですね……」
『ん? あのバカがまた何かやったの?』
「…………」
あのバカね。そういや、姉貴にしょっちゅうバカバカ言われているってあいつも言ってたけど、今みたいな軽いノリで言われているって事なのか?
『どうしたの?』
「あ、いえ。実はですねー。放課後に、葉月さんの弟さんに会って、ちょっと話をしたんですけど」
洗いざらい話してやろうかと思ったけど、やっぱり葉月さんにいざ話すとなると、言葉をかなり選んで説明しないと言いにくかった。
『なるほどー。英樹の奴に因縁つけられたわけね。あいつもチンピラみたいな事、やって情けないわねえ』
「はい。校舎裏でやられたんで、ちょっと怖かったんですけど、葉月さんに何とかならないかなって話しておこうと思って」
あいつが葉月さんに注意されたくらいで俺への嫌がらせを止めるとは思えないが、今は奴の姉貴でもある葉月さんに頼るしかない。
『英樹も大人気ないことして、全く。本当にゴメンね。私の方からも言っておくから。あ、今、言っておこうか。ちょっと、英樹』
「は!? 今からですか?」
何とかしてくれとは頼んだものの、流石に今すぐやっちゃうのはちょっとまずいんじゃないかと思ったが、
『ちょっと、英樹! あんた、今日ウチの進一郎に何をやったのよ!』
『勝手に入って来るなって、いつも言ってるだろ!』
葉月さんはまだ俺との電話も切らないうちに、英樹の部屋に駆け込み、二人の口論が始まる。
せめて、俺との電話が終わった後にやってくれないかなって思うんだけど、俺と電話している途中で言っても、却ってあいつを逆上させてしまうのでは……。
『私の彼氏なんだから、変な事したら、承知しないからね!』
『うるせえ、さっさと出て行けって言ってるだろ!』
『あんっ! ったく、あのバカ弟が……あーん、ごめんなさい。ちゃんと英樹にも言っておいたから。ね?』
「は、はあ……」
今の二人の口論を聞いた限りだと、英樹が素直に葉月さんの言うことを聞くとは思えないんだけど。
『彼女と上手く行ってないからって、八つ当たりしているのかもね。あ、今、パックしている途中なの』
「ああ、そうだったんですか。じゃあ、長話するの悪いですかね」
「ゴメンねー。あ、そうだ。明日、お昼どうするの?」
「え? 昼飯ですか? それなら、いつも学食かパンが多いですけど」
「そっか。じゃあ、明日も……あ、ゴメン。もう切るから。また何かあったらすぐに言ってねー』
「はい。それでは」
パックしている途中だと言う事は葉月さん、あの白いのを顔にしている最中だったのか。
そんな事をしている時に弟の部屋にいきなり行くって、結構ワイルドな事をするな。
「はあ……だけど、あんなんじゃあの男を黙らせるの無理じゃね?」
それどころか、逆上させてしまう可能性が大かも。
もしそうなったら、また葉月さんに言うしかないけど、二人とも性格にちょっと問題があるような気がしてならない。
気が強い人なんだろうな葉月さんも。事故の時の対応がどうしても印象強くなっちゃうけど、あれが普段の葉月さんだと思う事にした。
事故のショックがそれだけ強かったんだろうな。俺も気を付けないといけないが、今は事故のことより、あの男に気を付けないと。
翌日――
「いってきまーす」
「はーい、進一郎。おはよ♪」
「うおっ! は、葉月さん。どうして、ここに?」
朝、いつも通り学校に行くため、家を出ると、葉月さんが近くの路地からひょっこりと出てくる。
「どうしてって。彼氏に会いに来ちゃ悪い?」
「悪くはないんですけど、いきなり家の前で現れたんで、ビックリしたんです」
「あはは、そうだよね、御免。ね、今日のお昼、どうする気?」
「お昼ですか? 学食か購買って昨日も言いましたけど」
「じゃあ、よかった。はい、どうぞ」
「お、おお……これはもしかして?」
葉月さんが笑顔で、包みに入った弁当箱を俺に差し出してくれたが、また作ってきてくれたのか。
「昨日は英樹が迷惑をかけちゃったから、そのお詫びも兼ねてね。本当、御免。もう二度と、進一郎にちょっかい出すなって、あの後もキツク言っておいたから」
「ありがとうございます。この前のお弁当も美味しかったですよ」
また葉月さんの弁当が食べられると思うと楽しみだ。結構、家庭的な人なんだな。
「本当? えへへ、なら作った甲斐があったかなー。あ、これ言って良いかな?」
「何です?」
「実はさー。ちょっと作り過ぎちゃって、余った分、英樹に少し分けたの。あいつ、いらないって言っていたんだけど、余らすのもったいないしさ」
「あ……そうなんですか」
葉月さんに弁当を作ってもらったと喜んだのも束の間、あの野郎も同じ弁当を持っているのかと思うと、何故かガクっと来てしまう。
そりゃ葉月さんの弟だから、別に不思議じゃないんだろうけど、何ていうかな……俺にだけ作ってくれたんじゃない上に、あの性格悪い男と同じ扱いされているってのが複雑な気分になっちゃうんだよな。
「味は保証するから。ちゃんと味見もしたし。それじゃねー。私も今日、大学あるから」
「あ、はい」
葉月さんは俺が弁当を受け取ってカバンに入れると、すぐに立ち去ってしまった。
「はあ……ま、楽しみにしておくか」
折角、彼女が手作り弁当を持ってきてくれたんだもんな。
素直に喜ばないといけないと思い、学校へと向かっていった。
「えー、それではもうすぐ中間試験なので、しっかり勉強するように」
朝のホームルームで、担任がくたびれた口調で連絡事項を告げると、中間テストが近い事を知る。
ああ、何か色々あって、そんな事も忘れちゃったな。
そもそも元凶は里美が悪いんだけど、前はあいつと試験勉強もやっていたっけ。
「…………」
「――!」
朝のホームルームが終わったころに、里美が俺の方に視線をやったことに気づき、目を合わせると、すぐに里美は視線を逸らしてしまった。
何だ? まさか、俺の事が気になるって事は……ないよな?
昼休み――
「うーん、葉月さんのお弁当楽しみだな。っと、その前になんか飲み物買ってくるか」
飲み物を買いに行こうと、下にある自販機にジュースかお茶を買いに行く。
何にしようかなって思いながら、教室を出ようとすると、
「ねえ」
「ん? 里美か。何だよ?」
「ちょっと来て」
「は? 何の用?」
里美が俺の手を取って、教室へと連れ出していく。
何だなんだ……まさか、一緒に昼飯でも食おうってか? 付き合っている時なら良いけど、今は葉月さんに誤解されかねないから、無理だぞ。
「何、何処に行くんだよ。って、ここは……三年の教室?」
凄く嫌な予感がするんだけど、もしかして……。
「あの、大場先輩、居ますか?」
「英樹? あいつなら、体育館じゃねえかな」
「そうですか……もう、またいなくなって」
近くの男子生徒に訊ねると、教室に居ないと聞かされ、頬を膨らませてしまう。
「おい、何なんだよ? あいつに用なの?」
「そうよ。文句ある?」
「あるよ。俺、あの先輩からよく思われてないんだよ。てか、お前ら二人で昼とか食わないの?」
「最近、一緒じゃない……というか、もう……」
「ん?」
「何でもない! 体育館に行くから、来て」
「はあ? あ、おい」
どうも様子がおかしいが、あいつと会うの凄く嫌なんですけど、変なことに巻き込まないでくれるかな……。




