第十二話 お姉さんは積極的
日曜日――
「やっほー、進一郎」
「あ、もう来てたんですね」
葉月さんとデートの待ち合わせ場所に行くと、葉月さんは一足先に来ており、急いで彼女の元に向かう。
「ふふ、今日はちょっと早く来ちゃった」
「待たせちゃいましたか?」
「全然。さ、行こう」
今日も葉月さんは黒のミニスカートにブーツを履いており、なかなか目立つ服装をしているが、こういう服も良く似合うな。
やっぱりモデルだけあって、スタイルも良いし、ファッションのセンスも決まっている。
もう事故のショックからも立ち直って元気になっている
「あの、葉月さん。あの後、大丈夫でしたか?」
「大丈夫って何が?」
「弟さんとのこと……家に帰った後、どうでした?」
電車に乗っている時、やっぱりどうなったのか気になったので、彼女に直接聞いてみると、
「ああ、平気って言ったじゃん。そりゃ、家に帰った後も英樹に文句は色々と言われたけど、いつもの事だしさ。大体、あいつ、いつも余計な一言、多いのよね。だから、女と付き合っても長続きしないのよ」
「はあ……酷い目にあったりしなかったですか?」
「別に暴力を振るわれたりはしてないから、大丈夫よ。そんなことになったら、両親だって黙ってはいないし」
一応、ラインでもあの直後に聞いたんだけど、大丈夫だよって簡単に返信が来ただけだったので、改めて直接聞いてみたんだが、葉月さんがそこまで言うなら、大丈夫って事にしておこう。
なんせ、あんな野郎でも葉月さんの弟だからな……赤の他人ならどうでも良いけど、彼女の家族関係にヒビを入れるような事になると、その……やっぱり、罪悪感がね。
「ほらほら、そんな辛気臭い顔をしないの。せっかくのデートなんだし、あいつの事は忘れて、私と楽しむことだけ考えなさい」
「そうですね」
葉月さんとのデートなんだから、今日一日は奴のことは忘れよう。
正直、性格悪すぎて、思い出しただけでムカついてくるからな。
「きゃー、相変わらず凄い人」
電車で一時間ちょっと乗り、渋谷に到着したが、想像以上の人だかりで圧倒されてしまった。
「何? そんなにボーっとしちゃって?」
「いや、凄い人なんですね」
「週末はいつもこんな感じだよ。進一郎って、渋谷は初めて?」
「ここ来るの初めてかもです」
「あはは、そっか。進一郎、こういう場所好きそうじゃないしね。私、ちょくちょく来るから、結構詳しいよ。ほら、来て。人がいっぱいいるから、はぐれないように私から離れないようにね」
「は、はい」
ただでさえ、慣れない場所な上に、こんな人ごみではちょっと目を離したら、すぐに葉月さんとはぐれてしまうので、彼女の腕をしっかり組んで歩いていく。
葉月さん、やっぱりこういう場所好きなんだな。
何というかこれが普段の彼女なんだろうけど、やっぱり事故の時の印象がまだ強く残っているので、まだちょっとギャップ感じてしまう。
「ふふん、どうこの服?」
「もう最高ですね。めっちゃ似合いますよ」
「もう少しちゃんと褒めてほしいなーって思うんだけど。まあ、いいや。今日はこれでも買おうっと」
ファッションセンターに二人で入り、葉月さんが夏用の服を試着していったが、流石モデルをやっているだけあって、センスも良いし、どれを着ても似合っている。
それに引き換え、俺はな……もう少し、着てくる服を考えるべきだったかも。
「どうしたの、進一郎?」
「あ、いやー。流石に普段着過ぎたかなって思いまして。もう少し、ファッションに気を遣えばよかったかと」
「そんな事。よく似合っていると思うけど。前の彼女の時はこういう所にデートに行かなかったの?」
「渋谷は行った事なかったですね」
里美とは行こうって話すら出ていなかったし、あいつは同級生だから、着ていく物にあまり気を遣う事はなかったかもしれない。
(まさか、それがフラれた原因だったりする?)
そんな事は無いと思うけど、あまりにも友達感覚で付き合い過ぎてしまったのか? 最初は初めての彼女だったので、緊張しまくりだったけど、慣れてくると、友達付き合いみたいな感覚でいたかもしれない。
それが嫌だってなら、直接言ってくれれば良いんだけど、葉月さんは嫌なことは割とハッキリ言う方っぽいので、気になることがあるなら、言ってくれた方が良いかも。
「ここ、観光客も多いし、そんなに着るものに気を遣う事もないと思うけどね。ま、ファッションに気を配ってくれるって言うなら、色々と助言するけど。ウチも前は弟の服を選んでいたりしていたし」
「へ、へえ……弟さんと」
あいつの服を選んだりとか、何だかんだで面倒見は良いお姉さんなんだな。
さり気なく英樹の事を話題にされると、ちょっと心に引っかかるものがあるんだけど、葉月さんと付き合う以上、それが避けられそうにないのが辛い。
「進一郎も顔は良い方なんだし、もっと自信を持ちなって。英樹みたいに自意識過剰になられても困るけどさ。良い服を着ると気分も変わるよ」
「ですね。と言っても、この辺の服、どれもお値段が……」
「ここは、そんなに高い方でもないよ。もっとお高い店、知っているけど、見てみる?」
「そ、そうなんですか。遠慮しておきます」
あいにく、持ち合わせがあまりないので、葉月さんのお気に入りをプレゼントさせられないのが歯がゆい。
俺もバイトを始めないとな……。
「この辺はライブハウスが多いの。あ、ここは前に行ったところだよ」
「へえ。ライブか……」
小さなライブハウスが密集している場所に案内されるが、人気は少ないけどこういう雰囲気は何か嫌いじゃない。
「それで、ここが……ホテル街」
「ホテル街?」
「そう。入ってみる?」
「えっと……」
そして、葉月さんがまた人通りの少ない裏路地にあるビル群に案内していったが、ここってもしかして……。
「あはは、入りたいのは山々なんですけど、俺、高校生ですし」
「制服じゃないなら大丈夫でしょう。ほら、帽子被れば、年齢なんかわかりゃしないから」
「いつの間に……」
さっきのファッションビルで買ったのか、俺に帽子をかぶせて、近くのホテルに葉月さんが連れ込もうとする。
前も思ったけど、葉月さんって本当積極的なお方なんだな。
「んもう、カップルなんだから、遠慮しないの」
「あの、この前、弟さんにこういう場所をうろつくなって注意したばかりじゃないですか。お姉さんが率先してこういう事をするのはまずいんじゃないんでしょうか」
「キャハハ、もう良い子ぶってるなー、進一郎。あいつは制服で入ろうとしたから、止めたのよ。今は違うじゃん。年齢なんか、いちいちチェックしないし、適当に大学生とでも行っておけば大丈夫よ、こういうの」
「本当なんですか?」
「うん。だって、前、入った時、そうだったし」
「はい?」
前に入った時? つ、つまりそれって葉月さんが……いや、俺をホテルに連れ込んだ時か?
(も、もしかして葉月さん、経験済み……)
別に過去に経験済みだろうがどうだろうが、良いんだけど、もしかして経験豊富なお方だったりするのか?
「どうしたの、そんな顔をして?」
「ははは。いや、そのですね。俺にはまだ早いかなって。葉月さんみたいな大人じゃないですし」
「ふーん。私が大人ねー。ま、成人にはなっているけどさ」
「そう。俺、未成年ですし!」
「まあまあ、お姉さんと遊んでいこうよ。折角の機会だしさ。この前の事、覚えてないってなら、リベンジって事でさ。私が色々と教えてあげるからさ」
「り、リベンジって……」
葉月さんが腕を組んで、なおもホテルに連れ込もうとする。
しかも色々教えるってさ。やっぱり、そういう経験多い訳?




