第十話 復讐手伝うよ?
「ふ、復讐って言われましても……」
思いもかけぬ事を葉月さんに言われてしまい、困惑してしまったが、葉月さんは俺の腕を組んで色気のある目で俺に体をくっつけ、
「ウチの弟だからって、遠慮しなくて良いよ。英樹の奴、女癖が悪いから、一度痛い目を見た方があいつの為にもなるかなって思って。何より、私の事故のおおもとの原因もそれっぽいのがね」
確かにあの現場を目撃さえしなければ、あの日、俺が事故に遭う事もなかったし、葉月さんが交通事故の加害者になる事もなかったってのはある。
とは言え、やっぱり葉月さんの弟でもあるわけだし……。
「あの、弟さんとは仲良いんですか? この前、俺に弁当作ってくれた時に弟さんの分まで作ったんですよね?」
「うん。本当は進一郎の分だけ作るつもりだったんだけど、ちょっと作り過ぎちゃってね。余り物を英樹にも分けただけよ。あれだけじゃ昼には足りないから、早弁にしたみたいだけど」
「よくお弁当作ってるんですか?」
「たまによ。毎日、作ってられるわけないじゃない。私、朝はあんまり強くないしさ」
それでも弁当を作ってあげてるだけで、結構仲が良い方なんじゃないかと思う。
そうなると、復讐なんて余計にやりにくいじゃん。
葉月さんが絶対に嫌な気持ちになるだろうし、彼女にそんな思いをさせちゃうのはちょっと罪悪感がある。
「ふふん、もしかして嫉妬しちゃった? じゃあ、これからは進一郎にだけお弁当作るからさ。別に英樹も私に弁当作れって頼んでいるわけでもないし、あいつも子供じゃないからさ」
「いえ、別に嫉妬って訳では。ただですね……ちょっと、ショックで」
「だよねー。進一郎には本当、迷惑かけっぱなしでゴメンね」
「葉月さんのせいじゃないですって」
「まあ、英樹の件は後で考えようか。まだ進一郎もどうしたら良いかわからないみたいだし。でも、英樹にやり返したいって思ったら、いつでも言って。私、進一郎に協力してあげるから」
と、葉月さんが力強く俺の手を握り、目を輝かせながら、そう言ってくれたが、もしかしてこの状況、楽しんでいない?
まあ、協力してくれるって言うのは心強いけど、もう少し様子を見たいかなって。
「すみません、気を遣わせてしまって。この話、葉月さんにしようかどうか悩みましたけど、今の言葉を聞いて、少し気が楽になりました」
「ううん。ショックなのはわかるし。むしろ、正直に話してくれて良かったよ。変に気を遣われて、黙っていられる方が嫌だしさ」
これを話したら、葉月さんが嫌な気持ちになるかなと思ったけど、取り敢えず正直に話したことは正解だったみたいだな。
「ま、それより何か歌おうよ。せっかく、来たんだしさ」
「え? あはは、あんまりカラオケとか行かないので」
「そうなの? でも良いじゃん。あ、この歌、入っているんだ。私のお気に入りの歌い手なんだけどさ」
「あ、俺も知っていますよ」
気を取り直して、葉月さんとカラオケを時間いっぱいまで楽しむことにする。
終わるころには、モヤモヤした気分もだいぶ吹っ飛んでしまい、良い気晴らしにはなったかな。
「んーー、歌ったね」
二人で店を出る頃にはもう日が暮れかけており、葉月さんもカラオケを楽しんだのか、ご満悦そうな顔をしていた。
「今日はありがとうございます、誘ってくれて」
「こっちこそ、いきなり誘ってごめんね」
「いえ、ラインのメッセージに気づかなかったのは俺が悪いですし」
葉月さんもいつまで経っても返信が来ないので、心配させてしまったかもしれない。
それだけあの英樹とかいうのが葉月さんの弟だってのがショックだったって事だよな。
「それでさ。今度の休み、また会わおうよ」
「いいですけど、何処に行きます?」
「んー? それは追って、連絡するから。デートは週に一回はしようよ。ね?」
週に一回ね……確か、里美と付き合っていた頃もそんなことは言っていたけど、あいつは同級生だったし、それこそ毎日、学校で会えたが、葉月さんは違うからな。
やっぱり、同じ学校ですらなく年齢も違うってのは普段会えないから、寂しいかも。
「わかりました。出来る限り、会いましょうね」
「やったー。えへへ、じゃあ、またねー」
また会う約束をし、葉月さんも元気に手を振って、俺と別れる。
元気で可愛い人なんだな……事故の時とは印象がだいぶ変わったけど、あれが本当の葉月さんなんだろう。
ショックから立ち直ってくれたのは何よりだが、それよりも里美とあの男の事だ。
どうにかやり返したいけど、何をすれば良いのかわからず、
そして――
「検査の結果も異常なし。これで、もう怪我も完治かな」
病院での検査も終わり、特に悪い所も後遺症もなかったので、これで事故の事は終わりだ。
問題は葉月さんの車の方だけど、その件は俺がどうにか出来る話じゃないしな。
「日曜はまた葉月さんとのデートだけど、何処に行くのかな」
病院を出て、日曜日に葉月さんと何処に行こうか、悩んでいると、
「はーい、進一郎」
「うおっ! は、葉月さん。どうしたんですか?」
急に葉月さんが目の前に現れ、ひょっこりと顔を出してきたので、ビックリしてしまい、
「何よ、そんなにビックリする事ないじゃん。彼女が会いに来たのが悪い?」
「悪くはないですけど、今日は特に連絡してなかったですよね?」
「だよね。あ、そうそう。良いもの、見せてあげるから、付いてきて」
「は? あ、ちょっと」
葉月さんが俺の手を引いて、何処かへと連れていく。
何だなんだ……ちょっと嫌な予感がするけど、
「はい、あれ見て」
「え? あれは……あ」
葉月さんが人気の少ない、ビル街の裏手の方に俺を連れていき、指をさすと、そこに見覚えのあるウチの制服を着た男女二人が歩いていた。
ありゃ、里美と英樹……くそ、こんなラブホが建っているような場所で何をしてやがる。
「くく、あれが英樹の新しい彼女かー。結構、可愛いね。てか、進一郎の元カノだっけ?」
「はい……」
二人で何をしてやがるんだよ、クソ。少し前なら、あの里美の横に居たのは俺だったのに。
「どうする? 今から二人の所に行ってみる?」
「行って、どうするんですか?」
「いや、殴りに行くんじゃないの?」
そういう気持ちはあるけど、流石にストレートすぎるだろ、そりゃ……下手すると、俺が停学になっちまうじゃん。
「わかったよ。じゃあ、私がまずは行くね。おーい」
「は!? あ、ちょっとっ!」
葉月さんが二人の元に駆け寄り、声をかけるが、何を考えているんだあの人は!
「あ? げっ! な、何で姉貴が……」
「英樹じゃない。どうしたの、こんな所で。あれー、その子、新しい彼女?」
「うるせえ、関係ねえだろ! 邪魔するな、あっち行け!」
葉月さんが二人の元に行くと、案の定、英樹は露骨に嫌がり、追い払おうとする。
姉に彼女とのデートを邪魔されるってどんな気分だろうな。
「え? その人は……」
「お、俺の姉貴だよ! 前にも話したろ! 何だよ、一体! 大学はどうしたんだよ!」
「午後、休講になったの。弟を見かけたから、話しかけちゃ悪い? あらー、あなたが英樹の彼女? はじめまして。英樹の姉の葉月です」
「は、はあ……はじめまして」
電柱の陰に隠れて、三人の会話が聞くが、里美も迷惑がっているな。
「あんた、これで何人目の彼女ー? モテるのは良いけど、ちょっと見境なくない」
「関係ねえだろ! 邪魔するなら、あっち行け!」
「きゃっ!」
「は、葉月さん!」
怒った英樹が葉月さんの腕を強引に掴み、突き飛ばしたので、慌てて飛び出し、葉月さんを抱きおこる。
「だ、大丈夫ですか?」
「いたた……あーん、進一郎。ありがとう」
「し、進一郎!」
「あ……」
つい飛び出してしまい、里美と英樹にも思いっきり見られてしまう。
やば、はやまったかも……。




