第三話「帰ってきた」その4
ひんやりとした冷たさが右頬に触れるのを感じる。
目を開けるとアキラは地べたに横になってたと気づく。
空は明るく昼間だということがわかる。
見知らぬ人々が自分のことを見ているのがわかる。
酔いつぶれて道端で朝まで寝てしまったらこういう感じになるのだろうか。
一応、今までにアキラがそういうふうになったことは一度もない。
なんとか身体を起こす。
身体が動かないというわけではないようだ。
ケガをしていないかを確認する。問題なさそうだ。
とりあえず見られているのは恥ずかしい。
この場を離れないと。
しかしここはどこだ?
建物が建ち並び、街なかだということはわかるが見覚えがない。
そして人々の姿も。
「異世界、、、?」
気を失う前のことを思い出そうとする。
そういえばクロがまたしゃべっていたような。
クロにまた飛ばされたのか。
飛ばすなら飛ばすで一言いえよ。
アキラは心の中で悪態をつく。
さてどうしたものか。
クロはこちらに来ていないのか?
キミちゃんやマルは?
「大丈夫ですか?」
「えっ?」
振り返るとそこには女性が立っていた。
比較的小柄な女性だ。
一見地味な土色のロングドレスを着ているがよく見ると仕立てが良いようにも見える。この世界にしては。
「だ、大丈夫です」
「そうですか。でもこんなところで倒れていたら怪しまれて、兵隊さんに通報されますよ?」
心配されるのではなく捕まるのか。
元の世界でも警察に補導されるとかはある話だが、こちらの世界の捕まるは普通に牢屋とかにいれられそうだ。
どうなるかわかったものじゃない。
「とりあえずこちらに来てください」
彼女は顔で方向を示し、そちらへと歩いていく。
見れば大きな布の袋に荷物が入っておりそれを両手で抱えているため手が塞がっているのだ。
アキラは、クロやキミコのことを探したかったがとりあえずここは言われるがままついていくことにした。
下手な動きをして兵隊に捕まるわけにもいかないし。
急に目覚めて気が動転していたためか気が付かなかったが、アキラが目覚めた場所は商店が多く集まっている場所のようだった。
そこから段々と民家が増えていき、大きな豪邸などが増えてくる。
その豪邸の一つの脇を抜け、人一人分くらいのちいさな扉、明らかな裏口から中へと入る。
「こちらです」
「入っていいんですか?」
「よくはないですが、今ならバレないので」
中に入ると厨房のような場所だった。
彼女は抱えていた大きな布の袋をテーブルの上に置く。
中には果物やら野菜やら食材のようなモノが入っていた。
「あなたの家、ですか?」
「そう見える?」
「いや、、、」
否定するのもどうかと思ったが、そう思えないのだから仕方がない。
「私はここの使用人よ。見ればわかると思ってたけど、そうじゃないってことはやっぱりあなたはこの街の人ではないのね」
探られていたのか。
まぁ着ている服からしてそれはそうかとも思う。
なにせ今日もオフィスカジュアルのような恰好をしている。
バシッとスーツは着ないが、ある程度仕事着のようなモノを着た方が気合が入る。
キミコのお店での作業は仕事だという意識を持つためのアキラなりの暗示のようなものだ。
「どこから来たの? 別の国? 魔物のようには見えないけど」
「魔物ではないかな。別の国、の、ようなところ」
クロは自分を魔族だと言っていた。
クロが魔族だとバレれば大変なことになりそうだ。
まぁそんなことはアキラよりクロの方がわかっていそうではある。
「最近ではモンスターとの争いも激化してきているし、戦場以外のところにも謎のモンスターなんかも出現してるってもっぱらの噂だから、国もピリピリしているのよ」
謎のモンスターとは例のアレのことだろうか。
アキラはなんとなく言わない方がいい気がして黙っておく。
「まぁあなたが誰でもいいわ。これはお節介のようなものだから。さっき言った通りここは私の家じゃない。でもお屋敷の持ち主でもある旦那様はご家族とお出かけ中。他の使用人も連れてね。私はお留守番。他にも数人残ってるけど。だから旦那様がいない間は少しぐらいは面倒見れるけど少しだけ。旦那様が帰ってくるまでにあなたも出て行って」
「ありがとう。大丈夫です、すぐに出ていくので」
そう言いながら立とうとするアキラを、まぁまぁと制しながら彼女はお茶を出してくれた。
「名前くらい教えてよ。せっかく出会ったんだし。私の名前はタマラ。あなたは?」
「私はアキラ」
「そう、変わった名前ね」
このやりとり、最近やったなぁと思いながらカップを口に運ぶ。
ハーブの香りと苦みが喉に広がる。
これも記憶にある味だった。




