第三話「帰ってきた」その1
「なんですか、これ、、、」
立ち尽くすマルティナに、アキラは苦笑いを浮かべる。
まぁそうなるだろうなと予想はしていた。
彼女の目の前にそびえ立つのは、いわゆる駅前の商業施設である。
上部に『PORCO』と書かれたその建物の中には、あらゆるテナントが入っており衣食住の大抵のモノが揃うため、休日はもちろんのこと、平日でも大勢の人で賑わっている。
「お城じゃないですか。それか砦みたい。お城の中にお店が入っているんですか?」
「お城ではないけど、まぁそんなところかな」
アキラは、マルティナに服を買ってあげようと思いここへ連れてきた。
あちらの世界で服を用意してくれたお返しでもあった。
なぜかこちらの世界についてきてしまったマルティナ。もとの世界に戻す方法もわからず、とりあえずはキミコの服を借りて過ごしていたが、いつまでも借りてばかりもいられないと、アキラが買ってあげることにしたのだ。
ちなみにキミコも少しお金を出すと言ってくれたのだが、キミコの店にしばらく居候することになるので、食費なども考えそれは断った。
こちらの世界に戻ってからは、クロは黒猫の姿に戻りしゃべりもしなくなってしまったので、いつまた向こうの世界に行けるかもわからない。
マルティナとはしばらく一緒に過ごすことになりそうだ。
「中もずいぶんと明るいんですね」
「あっちの世界には電気はなかったもんね。夜も明るいよ」
「デンキ?」
「説明すると難しいというか、そもそもちゃんと説明できるほど私も賢くないし」
スマホで検索すればある程度はわかるだろうが、それで説明したところでマルティナも理解できないかもしれない。
アキラは早々に説明することを諦めた。
もしそれを説明してしまったら、それ以外も説明する羽目になりそうだ。
ここに来るときも大変だった。
大通りに出て、大量の自動車を見た時点で、マルティナはあまりのショックに気を失ってしまったのだ。
それを見て、実は連れてくるのはやめようかともアキラは思った。
しかしマルティナが、アキラやキミコの世界をもっと知りたいと、ついてくると言ったため連れてくることにした。
マルティナの中では、自動車は魔族の作った新手のモンスターなのだ。それがいきなり大量に目の前に現れたらそれはショックを受けるのは仕方のないことだと思う。
ただアキラからすれば、自身が生まれたころから存在する車という存在が、なぜか前時代的なマルティナの世界に存在していたのか、不思議で仕方がない。
しかも無人で人を襲っていた。クロの話ではクロも襲われたらしい。
アキラやキミコがあちらの世界に行けたように、車が向こうの世界へと行く何かきっかけがあったのかもしれない。
そもそもクロがこちらの世界に来たこともいまだ理解ができないのだ。
自分たちの知らないところで何かが起こっている。
ただ今はそれがまったくわからない。
「すごくいい匂い。ここは食事処ですか?」
「そういうところもあるわね。ここで食べて行ってもいいけど、キミコも待ってるだろうから、帰りに買っていこうか」
「そういうのも出来るんですね」
そう言いながら物珍しそうに店の壁に掛かったメニューを見たり、ガラス越しに中をのぞいたりしている。
「でも、ありがとうございます、アキラさん。キミコさんもですけれど、こんな私にこんなによくしてくれて」
「だって私たちが向こうの世界であの村にたどり着いた時に、私たちによくしてくれたのはマルじゃない。同じことだよ」
「マル、、、」
「ごめん。イヤだった? マルティナって長いじゃない? だからマルの方が言いやすいかなって」「ううん。なんか仲良くなれた感じがして嬉しいです」
「それなら良かった」
自分で言っておいてなんだが、急にアキラは気恥ずかしくなりマルティナから目をそらす。
相手にじっと目を見られるのが苦手なの、治らないなぁとアキラはなんとなく思う。
「わぁっ!」
とマルティナの大きな声が響く。
見るとマルティナが何かに驚き腰を抜かしている。
それに周りを行く人々もびっくりしてマルティナの方を見ている。
「どうしたの?」
「あっあれ、、、!」
「あれ?」
マルティナの指さす方を見る。
「階段が、動いてます、、、魔法ですか? 呪いですか?」
「あー、、、」
アキラはどうしたものかと、少し頭を抱えた。




